卒業式の前日・・・。
柾鷹は自宅から車で約1時間半ぐらいかかる場所・・・。
そこは空港だった。
今日はこの空港から家庭教師の美香が留学するため旅立つ、
それを見送るために来ていた・・・。
夜・・・。
空港内・・・。
美香の母「美香。向こうに着いたら連絡するんだよ。」
美香「わかってるよ、お母さん。」
美香は母親と話をしている。
柾鷹の母「本当に柾鷹がお世話になりました。」
そこに柾鷹の母が話に入っていく。
美香「そんなことないですよ。
柾鷹くんは頑張ってましたから。」
美香は柾鷹に目を向けた。
柾鷹「・・・。」
柾鷹は喋ろうとしない。
柾鷹の母「何あんた、寂しいんでしょ?」
柾鷹「ち、ちげーよ!」
柾鷹は少しムキになっている。
柾鷹の母「それはそうと、お母さん。ありがとうございます。」
美香の母「いえいえ、こちらこそですよ。
美香にとってもいい経験になりましたし。」
柾鷹の母は柾鷹がムキになっているのを、
そっちのけで美香の母親と話をし始めた・・・。
美香「・・・柾鷹くん。」
柾鷹「は、はい。」
美香「ホント受験頑張ったね。見事一発合格だったし。」
柾鷹「美香さんのおかげですよ。俺1人じゃ・・・。」
美香「また謙遜しちゃって~。」
美香は柾鷹の頭を何故か撫でた。
柾鷹は恥ずかしそうに照れてしまっている。
美香「明日、卒業式なんでしょ?」
柾鷹「はい。」
美香「本当は柾鷹くんの合格と卒業祝いも兼ねて、
何かプレゼントしたかったんだけど・・・。
ごめんね、時間がなくて。」
柾鷹「ぜ、全然いいですよ。」
柾鷹は遠慮している。
美香「柾鷹くんが卒業式に出てる頃は、
あたしはまだ空の上かな。
遠いからね~ロンドンって・・・。
まず国内線から国際線に乗り換えて、それから・・・。」
話をしている美香には、故郷を離れる悲しみなどはなく、
希望に満ち溢れている喋り方に柾鷹自身には見えていた。
美香「あっ、そうそうコレ。」
柾鷹「?」
美香はメモ紙を柾鷹に差し出した。
柾鷹「何ですか?コレ?」
そのメモ紙には何か書かれている。
美香「あたしのロンドンでの住所よ。」
柾鷹「え?何でコレを俺に?」
柾鷹は疑問に思っている。
美香「いつかロンドンに来たら案内してあげるから。」
柾鷹「案内って・・・遠いですよ。」
美香「それもそうだよね。だと思ってメルアドも書いておいたから。」
柾鷹「メルアド?」
美香「柾鷹くんも高校生になったら、
きっと携帯持つようになると思うの。
そしたら~、女の子のメルアド必要でしょ?」
美香は笑顔で答えた。
柾鷹「あ、その~・・・。」
柾鷹は言葉を詰まらせながら困っている。
美香「何?年上の女性に興味ないってこと?」
柾鷹「そんなんじゃ・・・。」
柾鷹は更に困っている。
美香「ウソウソ。柾鷹くんはあたしの教え子だからね。
何か困った事があったら相談に乗るよって意味だよ。」
柾鷹「・・・。」
柾鷹は黙っている。
柾鷹「ありがとうございます。美香さん。」
美香「そうそう、たまにはあたしの実家にも寄って、
ロビンに会ってあげて。きっと寂しがるからさ。」
柾鷹「はい。」
柾鷹(・・・何か・・・)
美香(・・・本当に・・・)
柾鷹(・・・お姉ちゃん・・・)
美香(・・・弟みたいな感じ・・・)
2人は不思議な感覚で似た様な事を思っていた。
そんな時・・・。
美香の母「美香。そろそろ搭乗の時間じゃないの?」
美香「もうそんな時間?じゃあ行かなきゃ。」
そう言うと、美香は準備を整え始める・・・。
美香「じゃあね、柾鷹くん。必ず連絡してよね。」
柾鷹「はい。」
そして美香は、美香の母親と柾鷹の母親と言葉を交わし、
柾鷹に手を振りながら搭乗ゲートに向かって行った・・・。
今まで柾鷹の前から去って行った人達の中で、
唯一、美香だけは柾鷹にとって悲しみを含む別れにならなかった・・・。
柾鷹は家庭教師の感覚・・・
もしくは、姉の様な存在の美香に、かすかな絆を感じていたからだ・・・。