先日、「日本版DBSと学童保育のバックオフィス」という記事を書きました。

上記の記事では、こども関連業務従事者の性犯罪歴等確認の仕組みに関する有識者会議の報告書(案)(以下「報告書(案)」と言います。)では、①日本版DBSが事業者が犯歴確認の申請をする「犯歴照会型」の仕組みであること②学童保育が犯歴確認の義務化の対象から外れたこととその理由について解説しました。

 

上記の記事を書いた時点で、報告書(案)における日本版DBSの議論のまま「事業者照会型学童保育は義務化の対象外だか、個別に認定を受けた事業者は照会できる制度」が施行された時に、学童保育へ生じる影響について、私はかなり危機感を持っていました。

ですが、学童保育関係者に必ずしも報告書(案)の内容が伝わっていないと思われることがあったため、報告書(案)の内容を学童保育との関係で解説・要約する記事を書くことにしました。報告書(案)が示す制度の射程について理解された上で、学童保育業界としては、日本版DBSに対してどのような対応をするべきかの議論が広がることを望んでいます。

1 前提:日本版DBSの制度設計

・こどもに対する教育、保育等を提供する事業者が、当該業務に従事する者が性犯罪歴を有するか否かを照会して確認することを義務づける仕組み。資格の有無に関わらず資格制でない職種も含めて広く横断的に対象にする。

→事業者が犯歴を照会する仕組み

→確認の結果取得した個人の性犯罪歴に関する情報を安全かつ適切に管理する義務も負うことに

★こどもに関連する業務に従事することを望む者の職業選択の自由、事業者の営業の自由(いずれも憲法22条で保障)を制約する仕組みでもある

★前科等は高度のプライバシー情報:要配慮個人情報」(個人情報保護法第2条第3項)

→日本版DBSで性犯罪歴等を知り得る事業者の範囲は、提供を受ける性犯罪歴等の情報を安全かつ適切に管理することができる者

 

事業者犯歴照会型にされた根拠:本人が自己の犯罪歴等の確認を申請することができることとすると、本件確認の仕組みが対象とする教育、保育等を提供する事業以外の事業に就職しようとする場合にも性犯罪歴等の確認結果の提出を求められるなど、個人情報保護法の趣旨に反する事態が生じかねない

→確認の申請を行う者は、確認結果を把握する必要がある対象事業者に限るべき

→ただし、本人が手続に関与する仕組みを設けるべきとされる

 

2 「学童保育が日本版DBSの対象から外れた」の意味

 →こどもの安全確保のための責務等を法律によって直接に義務付けられる事業者からは外された、ということ

→こどもの安全確保のための責務をよりよく果たすために、業務に従事させる者の性犯罪歴を確認する義務を規定されるのが、学校や児童福祉施設等の設置者等

→届出事業である学童保育は、「その事業主体には様々なものがあり得て、提供を受ける性犯罪歴等の情報を安全かつ適切に管理することが実効的に担保できるものであるかが明らかではなく、許認可施設のような監督や制裁の仕組みが必ずしも存するわけではないことから、これらについては認定及びその監督の仕組みによって対応することが適当とされ、認定を受けることができる事業者として例示されている。

 

3 学童保育が認定を受けたら?

(1)報告書案から読み取れる内容

・学校設置者等と同様に安全確保措置を講ずることを求められる

認定を受けた事業者はそのことが利用者に分かるよう、国が公表る。また、業者が表示できる(こども家庭庁と事業分野の所管省庁等が連携して事業者に対して認定を受けることを促進し、本件確認の仕組みが着実に導入されていくようにすべき、との記載もあり、確認の仕組みに事業者が対応することを国がプッシュする姿勢が現れている)

・確認義務に違反した場合、何らかのペナルティを科される

・本件確認の仕組みによる性犯罪歴の確認を行ったことについて定期的に報告させることが義務付けられる

・確認の結果に基づき、適切にこどもの安全を確 保するための措置を講じているかどうかについて行政が報告を求めたり検査を行うことが想定されている

・数年ごとに又は一定の時機に性犯罪歴を確認するといった仕組みとすることも考えられるとされている

・漏えいを禁止する規定や漏えいした場合の罰則規定を設けるべきとされている

(2)学童保育に認定制度が導入されたら?

・地域運営委員会方式や、保護者会由来のNPOが認定に対応することに困難が予想される(対応したとして、地域の市民である保護者や保護者OBが学童保育に入職しようとした人や職員に性犯罪の前科があることを知った場合に、漏えいした場合の罰則規定もある状況でその秘密を守ることにはかなりの心理的負担もあるものと思われる)
・対応が困難であるからといって認定に対応できず、その表示ができないと、子どもに性加害をしたい人にとって入りやすい職場という誤解や保護者の不安が生じる

・放課後事業も業とする株式会社が早々に対応、認定事業者であることを自治体にアピールする流れができることが予測される

 

4 確認の対象とされる性犯罪歴の範囲

・(裁判所による事実認定を経た)前科

→被害者年齢による限定は予定されていない(成人に対する性犯罪も含む)

→確認対象になる期間には一定の上限が設けられる見込み(刑法34条の2の趣旨 刑法第三十四条の二 禁錮以上の刑の執行を終わり又はその執行の免除を得た者が罰金以上の刑に処せられないで十年を経過したときは、刑の言渡しは、効力を失う。罰金以下の刑の執行を終わり又はその執行の免除を得た者が罰金以上の刑に処せられないで五年を経過したときも、同様とする。)

→条例違反(迷惑行為防止条例や青少年健全育成条例)が対象になるかは検討を要する

→不起訴処分(起訴猶予)を対象に含めることは慎重であるべき

 

★日本版DBSは子どもに性加害をするかもしれない人を完全に排除できる魔法の杖ではない(前科が対象、ということは、逮捕・勾留されたが起訴猶予となった人は対象にはならない。もちろん、「刑事事件化せず民事で示談」は含まれないし、そもそも初犯を防ぐ仕組みはない。)

★このように学童保育の現場から子どもに性加害をするリスクのある人を排除しうる場合は限られること(そして、職業選択の自由や更生支援の観点から無限定に広げられるものでもないこと)をふまえ、事業者犯歴照会型&認定制度を導入された場合に、学童保育が受ける影響を具体的に想定して業界団体としての対応を検討するべき

 

5 その他(支援員資格に着目した制度の必要性)

・資格者である支援員に限ったものにはなるが、学童保育内で児童に対し性暴力の不祥事を起こした支援員の同じ業界への再就職を防ぐには、日本版DBSより、資格に着目した制度の方が有効であると考える(例:認定資格が取り消されたが修了証未返納の者の修了証番号を全国的に検索できる仕組み。)。