「だいたい嫁はんが千円札出して『これでいいですよ、ありがとう』つて言つて先に降りてるのに、旦那が後から『お釣り、お釣り、レシートも』・・・つて、チンケな亭主やで、ホンマに・・・」
と、ブツブツ文句を言ひながら信号待ちしてたら乗つてきた二人。一人を周防町で降ろして、あとは玉出まで。二人の話を聞いてゐると、玉出までの人は舞台の「床山」らしい。一人を降ろしてから
「お客さんは床山さんなんですか?」
「ああ、そうやけど、運転手さん何かご関係が?」
「いえいえ、別にないんですけど興味があつて。床山さんつて、どれくらいゐはるんですか?」
「う~ん、別に珍しいもんでもないよ。舞台をやつてる処があれば必ず床山はゐるから」
「ああ、そうかそうか、でもやつぱり貴重な存在なんでせうね」
「そんなことないよ、結構厳しい世界やで。まあ相撲と歌舞伎は別格やけどな」
「ほおう、そんなもんですか。まさか値引きとかないでしょ」
「そんなことないよ、これこれ、これだけの費用で収めてくれとかあるよ」
「へええ、なかなか厳しいですね。僕は床山さんは関係ないけど、文楽の竹本住大夫師匠いらしたでしょ、あの方、一年くらい乗つて貰つてたんですよ」
「ほおほお、人間国宝の。去年引退しはつたねえ」
「そうです、あの方帝塚山ですわ」
「そういや、三林京子の弟の桐竹勘十郎さんも住吉やね。あの人も人間国宝やな」
「そうですか」
「しかし文楽も大変やで。色々苦労してはるやろ」
「橋下がねえ。あいつ無茶苦茶ですからね。そりや大阪市が補助金出してるんやから使い方どうこうは口出ししてもエエけど、『二度と観ない』とは何事か!と言ふんですよ」
「そやなあ、しかし文楽も子供向けの話作つたり、学生向けの舞台やつたり大変やで」
「そうですわ。大体今の人は文楽でやる話なんか教へて貰つてないから、そりや苦労しますよ。下手したら『忠臣蔵』知らん子がゐるかも知れませんもんね」
「そうや、日本の一番有名で人気のある話やもんなあ。どこを取つても見どころあるし、どの人物も主役になれるもんなあ」
「そうですよ、一昨年末に通し狂言観ましたけどね、人形が上手いこと切腹するんですよ。泣けてきますよ」
「そうやそうや、一番エエとこや」
「塩谷判官ですわ」
「へえ~、運転手さん『塩谷判官』なんて知つてるんやな、凄いな」
「そうですか?高師直とか・・・」
「大したもんやな運転手さん。そんな運転手さんをるとは知らんかつたわ」
「一応文楽友の会ですから。あんまり観に行けてませんけど。でもね、観光客に『運転手さん、大阪で何か良い観光スポツトないか』と訊かれたら、『そりや文楽でせう、世界文化遺産ですよ』と言ふんですけど、『文楽て何?』とか言ひよりますからね、困つたもんですわww もつとTVとかでもやつたらええんですけど、時代劇もね」
「ほんまや、大阪なんか伝統芸能の宝庫やけどな」
「そうですよ。でもやつぱり藤山寛美さん亡くなつて、中座も火事で焼失して、あれが痛かつたですね、あの人もうちよつと長生きしてくれてたら、大阪もミナミももうちちよつとマシやつたやろと思ひますがね」
「そうやなあ、松竹新喜劇なあ・・・しかし一本大体60分くらいの中で笑いがあつて最後に泣かせてなあ、あれはやつぱり脚本が良かつたんやで」
「そうでせうな、舘直志ねえ」
「よお知つてるなあww 舘直志は渋谷天外やな。一堺漁人が曾我廼家五郎な」
「だいぶ前にね、四条栄美さんとか高田次郎さん、乗せましたわ」
「四条栄美さんか、あの人はOSKや」
「あの人は今お店してはるんでせうね」
「そやそや。高田次郎さんはもう80歳超えてはるん違ふかな」
「ええ、そんなお歳ですか、和服着てはりましたわ」
「しかし、運転手さん、よう知つてるなあ、びつくりするわ」
「そら、僕ら小中学生の時なんか、土曜日の昼からは『松竹新喜劇』『角座アワー』『吉本新喜劇』の3本立てでしたからね。藤山寛美さんのDVD持つてますよ、36本セツトww」
「いやいや、嬉しいわ、こういふ運転手さんがをつて」
「こちらこそ、有難うございます」
「演劇もつと広めて、お願ひしときます」
「はい、頑張ります!」
・・・と返事はええけど、本業やろ、愛国活動やろ・・・疲れるわww
よかつたらご覧下さい。これが一番有名な「切腹」です。
「仮名手本忠臣蔵・四段目~塩谷判官切腹の場」
(5分頃から)