
大型のコンセプトショップ「エクセルシオール・ミラノ」
ミラノでは珍しい大型のコンセプトショップ「エクセルシオール・ミラノ」がドゥオモ近くのガレリア・デル・コルソにオープンした。かつてミラネーゼが集った「エクセルシオール映画館」の建物が、フランス人建築家ジャン・ヌーベルのプロジェクトにより新しい形でよみがえった。映画館のバルコニー席のようにカーブを描く吹き抜けや、壁面に投影されたカラフルな映像に、往年の姿を象徴させている。約4千平方メートルの店内には紳士、婦人ファッション、化粧品、デザイン雑貨、フードマーケット、カフェ、レストランなどが入る。ファッションのフロアの大部分はミラノの有名セレクトショップ「アントニア」とコラボレーションし、先鋭的な品ぞろえだ。
東京デザインの原点探る「感じる服 考える服」展
オブジェあり、映像あり、小さな庭あり。東京・初台のオペラシティアートギャラリーで開催中の「感じる服 考える服――東京ファッションの現在形」展では、日本の若手ファッションデザイナー10組が、創作の「核」を、それぞれ形にしようと挑んでいる。新しい価値観を生み出す、「表現としての服」の可能性を感じさせてくれる。
会場に入ると、視線の高さを白い梁(はり)が横切っている。作品を仕切る壁の代わりだが、いちいちくぐって進むうちに、展示室の景色が新鮮に見えてくる。会場構成は建築家の中村竜治が手がけた。
後脚で立ち上がる巨大な馬のオブジェがある。表面を覆う革の切れ端が垂れ下がり、化け物のよう。ストリート系メンズブランド、サスクワァッチファブリックス(横山大介、荒木克記)の作品だ。
「服の形になった革を解体し、元の動物に戻した」と横山。簡単に作られ、余って捨てられる服。せめて古着として残り、流通するものを作りたいと話す。
大量消費への疑問は、ミントデザインズ(勝井北斗、八木奈央)の作品にも見える。
10年間に作った服から約20着を選び、マネキンに着せた。足元にはシュレッダーにかけたチラシ類が、美しいグラデーションをなして積まれている。「催しが終わるとゴミになる情報のかけらを、美に変えられないかと考えた」
「服を作る元になる価値観や、発想の過程を表現する」というのが、今回の展覧会でデザイナーに与えられた課題だった。だから「服だけに収まらない活動をしているデザイナーを選んだ」と、企画者の一人、編集者の西谷真理子は言う。
昨年から今年にかけ、日本のファッションを紹介する展覧会が、欧米で相次いで開かれた。ロンドンなどでの「フューチャー・ビューティー」展、ニューヨークでの「ジャパンファッション・ナウ」展。いずれも三宅一生、川久保玲、山本耀司の「御三家」を筆頭に掲げた。だが「感じる服」展は、その後の世代、特に2000年代に設立された若いブランドに、焦点をほぼ絞った。
「東京独特の文化のミックス具合を表す人たちです。1枚の服の背後にある奥行きを知ってほしかった」と西谷。ゴスロリ系の服で、ビジュアル系バンドから人気に火がついたエイチ・ナオト(廣岡直人)。アニメ的な少女のイラストを描くケイスケカンダ(神田恵介)もいる。
現代美術寄りの表現をしたのが、リトゥンアフターワーズ(山縣良和)だ。
暗い小屋の中で、はくせいの動物たちが機を織る。織機は高度経済成長期に山梨県富士吉田市で使われていたもの、織るのは凝ったデザインの0円紙幣だ。産地で働く人やデザイナーが、正当な対価を得ていない。そんな服飾界の仕組みを疑い、布の価値を取り戻そうという主張をこめた。
しかし山縣は現在、服の生産を中断している。他の参加者も、ミラノやNYのコレクション参加ブランドに比べれば市場は小さく、一般への知名度も低い。東京ブランドは、ビジネス面で未熟なのではないか。
「未熟とは一概に言えない」と、企画に参加した成実弘至・京都造形芸大准教授。表現としての服を作れるのが日本の特徴で、ビジネス面でも、身の丈にあった売り方をそれぞれに確立していると考える。
「東京では、ただ服を作って売るだけでなく、新しい価値観を作り出すのがファッションデザイナーの使命だという意識がある。元はといえば御三家が、服にとどまらない活動を展開したおかげでしょう」
他の参加ブランドはアンリアレイジ、まとふ、ミナペルホネン、ソマルタ、シアタープロダクツ。
◇12月25日まで、月曜休み。問い合わせは会場(03・5353・0756)へ。
パリとニューヨークを風刺する本、大ヒット
エスプレッソ対アメリカーノ、シャンゼリゼ通り対五番街、それともアメリ対キャリー。パリ在住イラストレーターのヴァーラム・ムラトヤンの本「パリvsニューヨーク」は、有名都市の持つクリシェ(決まり文句)と戯れた会心の作。食文化から建築、ファッション、生活の細部にまで表れる2都市の違いを、100作を超える軽妙なイラストで表現している。「大好きなニューヨークと私が育ったパリの間の対話」という。きっかけは去年秋からの3カ月にわたるニューヨーク滞在だった。当時開設されたブログはすでに300万ものヒットを記録。来年早々には英語版も出版
ビジネスマンが掛け心地で選ぶ、純国産の眼鏡ブランド
映画『ティファニーで朝食を』のユニオシを始めとして、昔のハリウッド映画に登場する日本人といえば、決まって七三のヘアスタイルに黒縁の眼鏡。調べてみると、日本の眼鏡人口は6000万人以上ともいわれている。なんと、二人に一人が眼鏡という割合である。 私自身、眼鏡デビューして20数年になる。これまでに、何本の眼鏡と付き合ってきただろうか。ツーポイントと呼ばれるフチのないもの、シャープな印象のブロウタイプ、ユーモラスなオーバル型セルフレーム、プレートチタンの軽量眼鏡……。そしていまメインで使用しているのは、黒縁のウエリントンタイプだ。カジュアルなジャケットを着ていても、眼鏡でカチッとした印象に引き戻せるのが気に入っている。
ひと目見て弾力性の高さがわかる蛇腹形状とプラスチックテンプルの組み合わせ。S-901T col.8590 ¥45,150
じつは、日本製の眼鏡のほとんどが、福井県の鯖江市で作られているのをご存知だろうか。
フォーナインズが作る多くの眼鏡に搭載される、逆Rヒンジと呼ばれるパーツ。使用時の負荷を吸収、分散させることで、フレームの耐久性を向上させている。
人口7万人に満たない北陸の小さな市でありながら、国内シェアの9割以上を占めるというから驚く。明治38年に「眼鏡産業の父」と呼ばれる増永五左衛門が、農閑期の副業として、少ない初期投資で現金収入が得られる眼鏡作りに着目し、大阪や東京から職人を招いて村の若者に技術を習得させたことが始まりといわれている。金型、切削、メッキ、研磨などの作業を分業することでスペシャリストが生まれ、いまや高品質で世界にも知られる眼鏡の一大産地となった。その確かな技術力は、高いクオリティーでブランドからも信頼されている。
メタル素材のブロウタイプに、新たなフロント構造を搭載。S-320T col.2 ¥49,350 西澤崇(flat)撮影
999.9(フォーナインズ)は、1995年に生まれた純国産の眼鏡ブランド。日本人の骨格を研究したデザインと、精密機器といってもいいパーツづかいで、その掛け心地は格別である。
まず、フロントとテンプルの接続部に使われる逆Rヒンジと呼ばれるパーツ。これはフォーナインズの多くの眼鏡につかわれ、使用時の負荷を解消し、フレームの歪みや型崩れを防いでくれる。次にS-320Tシリーズに搭載されたレイヤードブロウ構造は、フロント部分で負荷を吸収し、頭部を包み込む形状のテンプルと連動してフィット感を高める。さらにS-130Tシリーズのダブルフロント構造は、レンズへの負荷を軽減しながら立体的なデザインを実現。そしてS-900Tシリーズは、蛇腹形状とプラスチックを組み合わせたテンプルで、優れた掛け心地とサイドのデザインの表情を両立させている。
フェイスフロントとインナーフロントの2層で構成するダブルフロント構造。S-130T col.7493 ¥40,950
ちなみに、これらのモデルは累進レンズと呼ばれる境目のない遠近両用レンズにも対応しているので、老眼が気になり始めた40歳台のビジネスマンにもオススメしたい。
掛けたときにフロントがフレキシブルに反応し、頭部を包み込むような形状のテンプルと相まって安定したフィット感を実現。
スクエアなデザインで、シャープな表情を引き立てる。NP-20 ¥33,600(以下すべてフォーナインズ☎03-5727-4900 http://www.fournines.co.jp/ )
ちまたでは、廉価を売りにした眼鏡の人気も高い。いくつも購入して、シーンや気分によって掛け分けるのもいいけれど、お気に入りのいい眼鏡一本とずっと付き合っていくスタイルが男らしいのではと、最近は思っている。
180人がデザインした印染トートバッグ展開催
箭内道彦デザインのトートバッグ
「東日本の職人と180人のクリエイターがつくる 印染(しるしぞめ)トートバッグ展」が、東京・銀座のクリエイションギャラリーG8(03・6835・2260)とガーディアン・ガーデンで24日から始まる。箭内道彦、ひびのこづえら国内外の作家180人がデザインしたトートバッグを展示・販売。生地は岩手、宮城、福島、茨城で染め物業を営む18社の職人が染め上げたという。税込み6,000円で、会場で予約注文を受け付ける。12月22日まで(日曜休み)。収益金は東日本大震災義援金として寄付する。
ハイブランドの幻惑
川上 未映子
ポリ100%の衣類を身につけることが、30も半ばになると全方位的に厳しいということは、当コラムでも再三書いてきた。しかし家着としては最高で、執筆などで引きこもっているときはずいぶんお世話になったもの。しかし最近のわたしは新刊の宣伝などで人前に出る機会が増えて、洋服を買い足さねばならぬ事態になり、ため息つきつき、いつもお世話になっている表参道のセレクトショップへ出掛けていった。
これいいのう。なんたるドレープ。このテクスチャー。世にも素晴らしいカッティング!……洋服はやっぱええのう、なんて感嘆しつつあれこれ試着して「これ以外は考えられんね」なんて思っていくらですかと尋ねると「こちらのスカートはアライアで20万円、そのニットは18万円でございます」の世界なのだった。
わたしはニナ・リッチが好きで、たまに買うこともあるけど、それはびしっと気合を入れた場合で、何気に試着したスカートとセータに約40万円というのは何かが間違ってるような気がしてならないけれど、どうなんだろう。いいものはそんな値段ばっかりだ。
「すごくいいもの」を着るとそれ以外見えなくなる魔法というのがあって、これが大いに問題なのだ。さらに剣呑(けんのん)なのは悪魔のささやき「ザ・日割り計算」で「一生着るんだから1回につきこれくらい、と思えば安いんやないの」という恐ろしい錯覚なのだった。
単なる贅沢(ぜいたく)ではなく一応仕事で着るんだし、とかそういう言い訳も大集合。ぎりぎりと歯を食いしばって逡巡(しゅんじゅん)するも、最終的に浮かぶのはパート生活をしている母の顔&その時給であって、このすべてを全なしにしてしまう破壊力には毎度のことながらうならされるものがある。かくしてわたしは何も買わずに帰途につき、残ったのは疲労とちょっぴりさびしい気持ちだけ、なのだった。なむー。(作家)
東京のナイト・アウトの輝きが示したファッションの終わり
ヴォーグ誌が主催する「ファッションズ・ナイト・アウト」(FNO)が今月5日の土曜日、東京・青山や表参道、渋谷界隈を中心に開かれた。世界的な経済・金融不安の中で落ち込むファッション消費を刺激するきっかけを作ることで、ひいては経済活動全般をも盛り上げられないか? そんな効果をねらって3年前にニューヨークで始まった年1回の企画だ。
来日した米ヴォーグ誌のアナ・ウィンター編集長
この催しはヴォーグが発行されている世界18カ国の主要都市で9月に開かれるが、日本では今年3月の東日本大震災後のエネルギー問題などを考慮して11月の開催となったという。そういう事情もあったのか、今回はFNOの発案者である米ヴォーグ誌のアナ・ウインター編集長が来日、伊ヴォーグのフランカ・ソッツァーニ、仏ヴォーグのエマニュエル・アルトといった各国の編集長や雑誌スタッフらが東京に顔をそろえた。
それだけではなく、世界の名だたるデザイナーも数多くこの日に合わせて来日していた。ディオール・オムのクリス・ヴァン・アッシュ、バーバリーのクリストファー・ベイリー、コスチューム・ナショナルのエンヨ・カパサ、そしてマイケル・コース、デレク・ラム、ロベルト・カヴァリ……といった具合。有力ブランドやメディアの経営陣の姿も少なからず見かけた。
ショップの賑い
そんなわけで、5日の表参道や青山通りはまるでパリ・コレ期間中のパリのような国際的にぎわいぶりで、買い物客の人出も多かった。企画に参加したショップは400店を超え、それぞれ客にシャンパンやスナックをふるまい、店内でミニライブやトークショーなどが開かれた。震災の復興支援チャリティー企画も多く、ルイ・ヴィトンの表参道店では英国人写真家マイルス・アルドリッジがモデル冨永愛を京都で撮りおろした、日本の美しさを改めて世界に伝える写真展(21日まで)のテープカットが行われた。
この日だけの特別限定商品を販売したり、5~10%の割引をしたりした店もあった。おかげで、最近は見ていて心配になるほど閑散としていた店にも、いつもとは違う人数の多さや、ショップのスタッフの楽しげな姿も目立った。何だか久しぶりに見る買う楽しさ、売る楽しさといってよいだろう。
通りはいつもより華やいでいて、見ているだけで楽しかったし、確かに店の売り上げもいつもよりずっと多かったようだ。だからこの催しの意図には賛成したいし、アナ・ウインターら各国から駆け付けた編集長たちの善意も素直に認めたいと思う。しかし、この日のにぎわいで感じたのは、それがカゲロウのようなエフェメラルな輝きだったこと。また、そのにぎわいは地域の生活に根付いた祝祭というようなものでは決してなかったことだ。
そしてその輝きは、もう終わってしまった楽しみの過去からのよみがえりでしかないという印象をぬぐえなかった。そう思った理由はもう一つある。それは、このナイト・アウトの企画そのものに、これまでのパリや市場としてのアメリカを中心としてきたいわゆるトップファッションがいつもそうだった、「上から目線」を感じてしまうことだった。
これはヴォーグの個々の人たちに責めを帰する訳ではない。トップファッションはこれまでずっと、才能あるデザイナーたちが生み出す作品を上から目線で次々と発表してそれを量産し、消費を刺激して成長を続けてきた。まるでマーケットは無限に成長し続けることを前提としたようなファッション産業のシステムの中で、ヴォーグはメディア装置としての中心的な役割を担ってきたからだ。資源と環境が現代の産業社会についに限界を示してしまった今、そうした「上から目線」のファッションシステムもすでに過去のものとして終わろうとしているのだ。
ルイ・ヴィトン表参道店の写真展
ナイト・アウトのシャンパンの泡のような一瞬の輝きは、それだからこそ貴重な「滅びの美学」のようなものだったのかもしれない。とはいえ、それはファッションそのものが終わってしまうことを意味するわけではない。未来につながっていくような新しいファッションがあるとすれば、それは今の足元をよく見つめたような、地域的でもっと日常的でほっとするような、みんなで楽しめるような……。そんな服をナイト・アウトの煌きとは逆に連想してしまうのだが。 ファッションズ・ナイト・アウト、華やかに開催
尊敬する元気な祖母 綾瀬はるか(あやせ・はるか)さん 女優
女優の仕事をしていると、江戸時代の次は現代、その次は戦後……と、いろいろな時代の女性を演じなければいけません。難しいけれど、どれもいい経験になります。いま出演中のドラマは戦後、昭和30年代が舞台です。その時代の女性の服の着方やヘアスタイルなど、そういったことも新鮮に感じます。
戦後、日本が貧しかったころのことは、広島にいる実家の祖母がよく教えてくれます。パンの耳にお砂糖を付けて揚げたお菓子がぜいたく品だったこと、まきのお風呂を沸かすのはとても手間がかかったこと……。
祖母は80歳代半ばですが、とても元気で、朝のトイレ掃除、ストレッチや散歩も欠かしません。勉強家で、本をたくさん読むし、私がプレゼントした電子辞書も見事に使いこなしています。同じ女性として尊敬しています。私も将来、そんなおばあちゃんになりたいな、と思うけれど、たぶんなれないなあ。
毎年、お正月には実家に帰って、一緒にお餅を作るんです。機械を使って何百個も。長い板の上に、お餅をたくさん並べて、ご近所の人たちにも配ります。私はそれが楽しみで、いつもやる気十分でいるんですけど、実は、3年に1度くらいしか参加できていません。寝坊して出遅れ、目が覚めたときには、祖母と母が全部済ませてしまった後なんです。来年こそは、やるぞ!と、いまは意気込んでいるんですけど……。(聞き手・梅崎正直、写真・小林武仁)
女優。1985年生まれ。ドラマ「南極大陸」(TBS系・毎週日曜午後9時から)に出演中。来年は、主演映画「ホタルノヒカリ」「ひみつのアッコちゃん」が公開予定。