1987年 西ドイツ映画 パーシー・アドロン監督作品

 

テーマ曲「Calling you」が空前の大ヒットを飛ばしていた頃、

渋谷のタワレコはまだハンズの斜向かいにあって、

毎週末サントラを探しに行っていたのだけれど

いつも売り切れだったことを思い出します。

 

当時の渋谷は、本作「バグダッドカフェ」が上映されていたシネマライズを始め

ユーロスペース、イメージフォーラムなどミニシアターの聖地でした。

地元新宿では公開していない「オシャレな映画」を見に

アニエスべーのカーディガンにホワイトデニムを着込み

毎週のように渋谷に通ったものでした。

まぁ、ちゃんと探せば新宿でも良い作品は上映していたのだけど

ヴェンダースとか王家衛とかダニーボイルとか、

べネックスとかカラックスとかリュックベッソンとか、

キアロスタミに出会ったのもユーロスペースだったし

渋谷に行けば良い映画に出会える時代だったわけです。

そんな時代を象徴する作品の一つが

この「バグダッドカフェ」だったのかな、と思います。

 

 

 

ヴェガスを目指す車の中で、ドイツ人旅行者の夫婦が喧嘩別れして

妻ジャスミンはヒールを砂漠の砂に埋もれさせながら

重いスーツケースを引きずって歩いている…すると、

忽然と現れる古びた給水塔とガソリンスタンド&カフェ

「BAGDAD CAFE」の看板。

ジャスミンは、併設されたホテルにチェックインし

スーツケースを開くも、それは別れた夫の物だったのです。

途方に暮れるジャスミン。

しかし、客室にかけられた、砂漠に輝く二つの太陽(幻日)の絵画が

一人きりで砂漠を彷徨っていたときに見た光景と重なり

ジャスミンはその絵が気に入り、しばらくバグダッドカフェに投泊することにします。

 

いつも機嫌悪く怒鳴り散らしてばかりいる女主人ブレンダ、

ダメ亭主サルは追い出され、不良娘のフィリスは遊びに明け暮れ

息子のサロモは赤ん坊の子守も半ばで一日中ピアノを弾いている…

コーヒーマシンは壊れていて、ホテルの事務所は荒れ放題

暇を持て余したジャスミンは、客もまばらなバグダッドカフェを

大掃除してブレンダの怒りを買うも、

それをきっかけに段々と心を通わせてゆくきます。

 

夫のスーツケースに入っていたのは

民族衣装や男物の服、そしてマジックの道具。

ジャスミンはバグダッドカフェの客にマジックを披露して見せると

カフェには徐々に客が増え、砂漠のオアシスと呼ばれる大繁盛を見せ始めます。

その様は、まるでジャスミンが福の神のようでもありましたが

ある時、就労許可証の不所持でジャスミンは西ドイツに送り返されます。

ジャスミンを失ったカフェは、以前の閑古鳥が鳴く店に逆戻り。

 

しかし、しばらくしてジャスミンは戻ってきます。

白い服を着て、金髪を靡かせて。

やはり彼女は福の神だったのです!

バグダッドカフェは息を吹き返し、マジックショーを再開、

再び大盛況の日々となります。

 

ジャスミンは、部屋にかけられたあの二つの太陽の絵を描いた

トレーラーハウスの住人、ミスターコックスにプロポーズされ

「ブレンダに相談するわ。」

と微笑んで物語は完了します。

 

 

今回、デジタルリマスター、新ディレクターズカットということで

本当に久しぶり(35年ぶり!)に劇場で見ましたが、

正直、こんなに面白かったっけ?と思いました。

砂漠という広大な環境下にある閉塞感や

家族や仲間がいるのに(いるからこそ?)皆どこか満たされない思いがあったり

「ないものねだり」と一言で片付けられない矛盾が散りばめられていて

自分が暮らす実社会に於いても、

また人間そのものが「矛盾」を擁する存在であると

気づかせてくれるように思うのです。

そういった点で「二つの太陽(幻日)」は象徴的で、

私には「沈んでいく太陽と、登っている太陽」という矛盾、

そしてさらに「ブレンダとジャスミンが出会う前と後」を示唆しているようにも見え

以前にもまして、この作品に愛着が湧いてしまいました。

 

捉え方はたくさんあると思います。

その自由さが、バグダッドカフェの魅力かなぁと思います。

35年経っても、私はまだこの作品、大好きです。