ヴォルフガング・ベッカー監督 2003年ドイツ映画

 

東西ドイツ統合の前後、ある家族に起こったドラマを悲喜劇的に描いた作品です。

 

 

家族を捨てて西に渡った父親、

 

そのショックで東ドイツ国家に傾倒していった母親、

 

そして翻弄された二人の子供たち…

 

この家族は、当時の分断された東西ドイツ国民の象徴です。

 

それぞれに主張があり意志があり、ときにはぶつかるのですが

 

最終的には手を取り合う…。

 

本作が、本国ドイツで記録的な大ヒット作となった事は、大きく頷けます。

 

きっとこのような家族は、当時のドイツには珍しくなかったのでしょう。

 

テーマは重いのですが、コミカルにテンポよく物語が進んで行くところにも

 

ヒットの要因が隠されているように思います。

 

 

 

個人的に、レーニン像が低空飛行で宙吊りにされて飛んでいくシーンは

 

強烈に訴えるものがありました。

 

それまで絶対的であった対象が「物質」として運ばれて行く様は、

 

フェリーニの「甘い生活」冒頭で、

 

キリスト像が宙吊りになって飛んで行くシーンを彷彿とさせます。

 

キリスト教徒としては、非常に掻きむしられるシーンでしたが、

 

旧東ドイツ国民にとっても、同じ感情が湧き立ったと容易に想像できます。

 

 

他にも、コカ・コーラやバーガーキングなど

 

社会主義崩壊を象徴するモチーフとして、非常に効果的に登場したり、

 

東ドイツマルクやシュタージ(機密警察)などは、

 

統一から10年強経った公開当時に於いて

 

大いに郷愁の念を抱かせるアイテムだったと伺えます。

 

 

 

しかし本作で最も大事なのは、

 

母を思いやる息子の優しさと

 

それに寄り添う家族の優しさ、

 

そして何かを気付きながらも息子の思いやりを

 

何も言わずに受け止める母親の優しさであって、

 

登場人物全てに「優しさ」があることに、本作の尊さを感じました。

 

 

本作「グッバイ、レーニン!」がドイツだけではなく

 

世界中で受け継がれていく事を、心から祈ります。