私は小学生になるまでは、自分の家庭がほかの家庭と違うことに気がつかなかった。


我が家は物心ついたころから、夫婦喧嘩の絶えない家庭だった。

母親は父親を憎んでいるようだった。もともと茨城の農家の遠縁で親の決めた結婚だったらしい。

結婚式まで、2回しかあったことがなかったと話していた。


ある日の夜、父親が出かけたあと、寝ている私の布団をはがし、「お前の顔は父親そっくりだ!」と殴り始めた。そのときの「なんで?顔が似ていると?」という思いは今でもかわずに心の中にある。


それでも、私は母親が恋しかった。ほめてもらいたかった。抱きしめてほしかった。

勉強ができれば・・・。家の手伝いをすれば、愛してもらえるのではないかと。

毎日勉強して、家の手伝いをした。


「なんで90点しかとれないんだ!」「この米の研ぎ方はなんだ!」と殴られ、私の淡い期待は裏切られつづけ、そのたびに心が痛かった。


小学生のころ友達の家に遊びにいくと、友達のお母さんが笑顔で迎えてくれた。ケーキを出してくれた。

初めて食べたケーキだった。友達は、お母さん手作りのスカートをはいていた。

これがお母さん?こんなに暖かくてやさしい・・・お母さん。


私は、自分の家が特別だということに初めて気がついたのだ。