あいいろ11番地 aiiroj11~愛と幸せに満ちた「あいいろじかん aiiro-jikan」が流れる街~

あいいろ11番地 aiiroj11~愛と幸せに満ちた「あいいろじかん aiiro-jikan」が流れる街~

とある街の街角。そこには「あいいろじかん aiiro-jikan」という愛に満ちた時間だけが流れているという…。一足先に、ここに気分のお引越しをしてみませんか。街のガイドのあいいろ。がご案しますよ。

 

 

 

 

決断の向こう側。

 

 

このブログは、基本的にどこから読んでもよいような作りになっていますが、極簡単に、前回までのあらすじ――日曜日の夜、明日、会社に行きたくない!と叫んだ独り暮らしのOL薫子(カオルコ)さん。彼女の潜在意識に、あいいろ11番地の公認ガイドだと名乗る、あいいろ。という女性の声が聞こえてきて……。

 

☆彡

 

「そうですよ、薫子さん、お友達の宮下真琴さんは、もう、あいいろ11番地に引っ越すつもりで、部屋の内見も済ませている状態なんですよ。真琴さんは直感が鋭い方なので、すぐに住むのは、この部屋だ!と決めてしまったんです。

――これが、どういうことか、わかりますか?」

 

「どういうことなのよ?」

 

「これが、真琴さんから薫子さんへの誘いのラスト・チャンスなんです。真琴さんは学生時代に、薫子さんが『もっと活躍できる場所。のびのびできる所』へ行ったらいいのにと思って、薫子さんを促した。実はその後も何度か、そういうことはあったんじゃないですか?」

 

「なんでそれを?――あ、あったわよ!引きこもりになっている時とかにもね、ちょうど落ち込んでいるタイミングで連絡が来てさ、『外に出てみよう』だのなんだの、と……」

 

「それで、薫子さんはどう反応したんですか?」

 

「あいつの言った通りに行動してみたこともあるし、しなかったこともある。しなかったことは、あいつには秘密にしてた。だって、別に言うことじゃないし……」

 

「色々、中途半端であったと?」

 

「意外と、キツイ言い方するのね、あいいろ。さんってば、ふん……」

 

と薫子さんは拗ねた。

 

「だって、今回が、真琴さんが、薫子さんを誘う最後ですからね――彼はもう決心したんですよ、これでダメだったら、もう薫子さんには何も言うまい、と」

 

「わたしを見捨てるってこと?」

 

「――誤解しないでください、薫子さん。これはあくまで、真琴さんからの誘いであって、わたしたちガイドは、いつでもまた、薫子さんを、あいいろ11番地へ誘いますよ。

 

むしろ、期間限定であったり、焦らすようなことを言う人や存在には気をつけてください、それは何かよくないものの息がかかっていますからね。

 

――ただ、薫子さん、スピリチュアルに警戒心強いでしょう?だから、わたしみたいに『潜在意識』だの、『魂』だのと言う存在より、真琴さんのように現実にいる人からの呼びかけの方が、ずっと、受け入れやすいと思うんですよね。

それに、真琴さんが、せっかく薫子さんの可能性を見つけて、何度も誘ってくださっているのに、それを最後の最後まで断り続けてよいのですか?」

 

「そりゃそうだけど――でも、真琴の誘いを受け入れるって、どうすればいいわけ?」

 

「簡単です。ただ、決めればいいんです――あいいろ11番地へ行くと」

 

「……は?それだけ?」

 

「はい」

 

「なにそれ、早く言ってよ――いや、違う!ほかに何かあるんでしょ?」

 

「何がです?」

 

「そんな簡単わけないもん!あいつは、優秀なの、さっきから、あいいろ。さんだって言ってたじゃない?学生時代に留学してさ、アメリカ横断してさ、いい会社に入って出世――あっちは現代のエリートコースなの!なのに、わたしったら、全然、頭も悪いし、引きこもりニート経験者の、月収手取り16万のOLなのよ?未だに親から心配されて仕送りされてる……」

 

 

 

 

「別にあいいろ11番地では、そういうこと関係ありませんし、部屋に住むのに、敷金礼金なんていらないんですよ。そういうのはありませんので。

 

あと、あと、1つ、言いたいことがあるのです。ちょっと厳しいことかもしれませんが――」

 

「何よ?」

 

「あいいろ11番地には、あいいろ11番地独自の基準はある、ということです。希望したからと言って、誰でも彼でも来れる場所というわけではないんです。その辺り、甘く考えてもらっては困ります。

 

自分の視点だけで、世界を見て、すべてをわかったような気にならないでください。

 

あいいろ11番地にはあいいろ11番地の独自のルールも、モラルもありますから」

 

「招待されたことを光栄に思えと?」

 

「――と言うより、

 

ご自身の基準がすべてではないということをご理解頂きたいんです。

 

それで、全てを決めつけても、それは現実的ではありません。

 

先ほども言いましたが、あいいろ11番地ほど、現実的な場所はありません。

ですから、薫子さんがあいいろ11番地に行くと決めたら、それはその瞬間から、薫子さんは幻想のモンスターの住む世界を抜け出し、現実の世界を歩くことができるようになるということです」

 

「今の視点は幻想を見て、幻想のモンスターに怯えている視点ってこと?」

 

「その通りです。その視点でいる限り、恐ろしい幻想の世界が延々と続くだけです」

 

「そんな、それじゃあ――」

 

薫子さんは、少し悩んでいる様子だったが、とうとうこう言い放った。

 

「――決めた!わたし、あいいろ11番地へ行く!」

 

「よかった!さてさて、それでは、まず――」

 

「でもね、あいいろ。さん、わたしのこの決意、真琴に言われたからってわけじゃないからね!あいいろ。さんの言葉で決断したんだよ!?」

 

「はいはい、ずいぶん、意地っ張りですねぇ。

――まあ、いいでしょう。そうそう、薫子さん!もし、真琴さんに会ったとしても、まだ、あいいろ11番地のことは言わないでくださいね」

 

「え?なんで?」

 

「真琴さんとわたしは、今、薫子さんに話しているように潜在意識を通じて会話してきたからです。ですから、真琴さんの顕在意識のほうは、まだ、このことを認識していないんですよ」

 

「なんですって!?じゃ、真琴は、あいいろ11番地に引っ越すって思ってないわけ!?」

 

「いいえ、思っているんですよ!でも、それは、潜在意識下においてなので、彼自身はまだ自覚していないんです」

 

「なんだか、騙された気分……」

 

「薫子さんも、次第にわかってきますよ。――ところで、薫子さん、明日、会社休んだら、どうですか?」

 

☆彡

 

(公認ガイド あいいろ。)