「今夜は、ブラントン」 シングルバレル・バーボンの個性を堪能したい ! | ブドウ畑の中の陳列台

ブドウ畑の中の陳列台

「酒にまつわる歴史と文学と映画、そして旅」を愉しむために

 

 バーボン・ウイスキーは1789年にエライジャ・クレイヴ牧師が生みだした蒸留酒であり、西部開拓時代を彩る酒なのだろうけれど、西部の荒くれ男たちは、この「牧師」が作り出した酒を好んだ。

 

 さまざまな銘柄が生まれ、粗悪品もいっぱいあったらしい。   

                                   

 そのトウモロコシやライ麦などを主原料とするウイスキーに課税がかかることになり、酒造業者たちはケンタッキー州などの非課税地帯に移住した。

 安くなければ売れない。

 何しろその日暮らしの荒くれ男たちが飲むのである。課税された分を業者側で負担するか、価格に上乗せするかは、死活問題だったのだろう。そんな訳で、バーボンの名はケンタッキー州バーボン郡に由来することになるのだけれど、この郡名はフランスのブルボン王朝にちなんで、あのトーマス・ジェファーソンが名づけたらしい。

 そう、「アメリカ独立宣言」の起草者のひとりで、3代目大統領となったあのトーマス・ジェファーソンが、だ。   

                                                                                                              

 ケンタッキーといえば、ケンタッキー・ダービーだとか、フォスターの「ケンタッキーのわが家」だとか、ケンタッキー・フライドチキンぐらいしか知らないけれど、アメリカ先住民イロコイ族のことばで「草原」を意味するらしい。

 そんな場所にブルボン家にちなんだ地名があるのは、ケンタッキー州がフランスの探検家であるラサール卿ロベール・カベリエによって発見されたかららしいけれど、発見などと言っても、すでに原住民が住んでいたのだから、西欧の価値観を押し付けただけとも言える。

 

 そんなことごとを考えながら、バーボン・ウイスキーを贖っては、ロックで酔いつぶれていくのだけれど、二日酔いで目覚めた朝などに、西部の荒くれものの酔い方はどんなだったのだろうか。いろいろな酔い方があり、酔いつぶれ方があったのだろうけれど、その日暮らしの人間の酔いつぶれ方は万国共通なんじゃないか、と埒もない妄想が過ったりもする。

 

 ところで、ロック違いだけれど、ケンタッキー出身のバンドにBlack  stone  cherry がいる。サザン・ロックの流れを汲むバンドだ。

 サザン・ロックといえば、テキサスにはZZトップ、エドガー・ウインター・グループ。ジョージアにはオールマン・ブラザーズなんかがいて、それほど好きではないけれど、なぜか、時々、むしょうに聞きたくなったりする。

 

 ケンタッキーにはBIGなバンドはいなかった。

 けれど、Black  stone  cherryが出てきた。

 地理的には南部に位置するけれど、南北戦争では北軍につき、奴隷解放にも賛成したケンタッキー州が果たしてサザン・ロックの圏内か? と疑問視する人もいるけれど、そんなことはどちらでもいい。

 大体、サザン・ロックの黎明期などと目されている、たとえば、CCR、The Band、Little Feat なんかも、それぞれ、シスコ、カナダ、LA出身じゃあないか。

 偏狭な「・・ナショナリズム」には反論したい。

 いやいや、言いたいことはそんなことじゃない。

 「土」と密接に生きている世界が「パトリ」だとしたら、「ナショナリズム」などは近代国家の産物に過ぎない。重なる部分はあるけれど、その違いは大きい。要は、「土着の息の長さ」である。

 ちょっと前に中国や日本に吹き荒れたチープなナショナリズにも閉口したけれど、様々なところで「偏狭さ」「非寛容さ」が巾を利かせている時代は、悲しい。

 

I saw cotton
and I saw black
Tall white mansions
and little shacks.
Southern man
when will you
pay them back?
I heard screamin'
and bullwhips cracking
How long? How long?

   Neil Percival Young “Southern man”

                                                

 スワンプ・ロックというと、サザン・ロックの中でも、より泥臭さ、土臭さを強調した音をいうけれど、土着に拘泥するからと言って、偏狭であってはならないし、変な概念で縛り上げるべきではない。

 土臭い音、それでいいのではないのか。パトリなのだ。

 人種や性や民族の違いはあるけれど、差別からは自由でいたい。

 

 土臭い音

 

 その響きがあれば、LAのバンドであろうが、カナダのそれであろうが、ドイツのそれであろうが、広義のサザン・ロックなのだろう。

 ロックは叫びなのかもしれないが、「偏狭さ」を声高に叫んでいるだけなら、悲しい。

 

 「ガラガラ蛇のおしっこ」

 

 開拓時代には、そんな名前の粗悪酒もあったらしい。

 ちょっと、ちょっと、と言いたくなるような名前だけれど、とんがったナショナリズとは違う遊び心が感じられる。

 「このバーボンは粗悪品ですよ」と白状しながら、そのことを逆手にとり、ウリにしている。「JUNGLE JAP」的な、この感覚は、愉快だ。

 とはいえ、行きつけのバーのカウンターに座り「ガラガラ蛇のおしっこ、頂戴」なんて冗談でもいえない。

 

 「だから、今夜は、ブラントンで」       

                                      

 いろいろな樽の原酒をブレンドしない「ブラントン」は、シングルバレル・バーボン。

 南部の主張の強い個性が味わえるケンタッキー州のバッファロー・トレース蒸留所の逸品である。

 ある意味、土着性に通じるスピリッツに拘っているともいえる。

 何しろ、バッファローの名を冠した蒸留所の「作品」なのだ。おまけに、ボトルキャップにはケンタッキー・ダービーを象徴するかのような乗馬のフィギュアが載っている。

 

 スワンプ・ロックな逸品である。