ねー、おかーさん
 
 
 
 
わたしは
おかーさんといっしょにいく
 
 
 
 
 
だからおかーさん
おとーさんとりこんしていいよ
 
 
 
 
 
わたしたちのために
おとーさんとむりしていっしょに
いなくていいよ
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
これは
私が4〜5歳の頃に母に伝えた言葉
 
 
 
 
 
そこから30年

 
 
 
 
サラリーマンの父
専業主婦の母
4つ離れた兄
わたし
 
 
 
 
どこにでもある4人家族
 
 
 
 
 
そう思った事は数えるほど
 
 
 
 
物心ついた頃から
 
 
 
 
私には安心安全がなかった
 
 
 
 
エベレストより高いプライドを持ち
気に入らない事があると
口はもちろん
手や手当たり次第に道具が出る父
 
 
 
 
口はもちろん
手や手当たり次第に道具が出る父に怯え
泣き喚くヒステリックな母
 
 
 
 
我関せずの兄
 
 
 
 
家族という
仮面を被った人たちとの集団生活
 
 
 
 
言い換えるならば
 
 
 
 
刑務所生活
 
 
 
 
そう言っても過言ではない
 
 
 
 
ただひとつ言えるのは
 
 
 
 
そんな刑務所のような生活でも
 
 
 
 
例え
 
 
 
 
家族のカタチをした
 
 
 
 
 
家族の仮面を被った
 
 
 
 
家族ごっこだとしても
 
 
 
わたしは
家族が大好きだった
 
 
 
家族を嫌いになりきれなかった
 
 
 
でも
 
 
 
いつもいつも
 
 
 
「死にたい」
 
 
 
そう思っていた
 
 
 
 
 
【由颯 愛妃のデフォルト】
 
 
家族の潤滑油
 
 
家族という集団生活が円滑にいくように
家事全般をサポート
 
 
家族がケンカしないように
穏やかな時間が長く続くように
気を張り巡らせる
(高性能アンテナの構築)
 
 
幸か不幸か
高性能アンテナが整備され
学校生活でもアンテナを発揮
 
 
休まる時は就寝時のみだったけど
震度1の地震や
両親の大声で目が覚めることもしばしば
 
 
とにかく敏感
 
 
異変をイチ早く察知する能力が
長けていた
 
 
 
 
【由颯 愛妃の幼稚園】
 
 
オテンバ
 
 
年中さんの時に初恋を経験
 
 
自転車に乗りたくて
園庭で転びまくって
必死で乗れるようになった
のちに
自転車を教えたかった父に
俺の楽しみを奪われたと文句を言われた
 
 
 
エネルギー全開で接すると
人が離れる感覚を体験
 
 
エネルギーを
全開にしたらいけないんだと認識
 
 
エネルギー全開は封印
 
 
周囲の大人の顔色を見ながら
幼少期特有の自分アピールをした
 
 

 
【由颯 愛妃の小学生(学校編)】
 
 
新しい居場所への
ワクワクと期待を胸に入学
 
 
比較的早い段階で
周囲と馴染めない自分に気がつく
 
 
クラスの男子が
体調が悪くなった際に保健室に付き添い
母がしてくれたように布団を掛け
アイスノンを当て
上から顔をのぞきこんだら
「キモチワルイ」と一言
そこから男子にからかわれるようになる
 
 
クラスに馴染めず
移動教室や休み時間
席替えや遠足のグループ分けが地獄
 
 
給食の配給時間は話す人がいなくて
いつも机に突っ伏していた
 
 
給食では
揚げパンと冷凍みかんが大好き
 
 
転校生が来ると
転校生なら私の事を分かってくれるかも
と期待して接近した
 
 
ある程度の期間が経過すると
私とは仲良くしない方がいいと
転校生の耳に入り
結局ひとりぼっちになった
 
 
必死に周囲に合わせたり
馴染もうとするも断念
 
 
昼休みは人気のない給食室や
屋上へ続く階段などで時間を潰した
 
 
中学生活への期待を膨らませ
小学校卒業式までの
カウントダウンをした
 

 
 
【由颯 愛妃の小学生(生活編)】
 
 
家族ごっこで
山登りや潮干狩りに行った
 
 
アウトドアから帰宅後
レジャーシートを洗うため
両手を広げたまま
長時間持たされることが
苦痛でたまらなかった
 
 
一度だけ家族で行った
ディズニーランドで買ってもらった
ミニーマウスのピンクの
缶のペンケースが宝物だった
 
 
日々の自分を支えるように
その時大切にしている
「何か」を肌身離さず
お守りのように持ち歩いた
 
 
刑事ドラマ・医療ドラマが大好き
 
 
「刑事貴族」の水谷豊
「危ない刑事」の舘ひろしが大好き
 
 
キンキキッズは堂本光一派
 
 
V6は長野博派
 
 
少年隊は東山紀之派
 
 
姫ちゃんのリボンのアニメが大好き
 
 
少女雑誌は「リボン」派
 
 
両親がデートで夜外出する際は
キッチンのシンクをピカピカに磨き上げ
おかえりなさいのお手紙を書き就寝
 
 
体調不良の時は
母に必ず「甘えてるのよ」と罵倒された
罵倒が落ち着いた後に出てくる
ビスケットのマリーと
あたたかい紅茶が大好きだった
 
 
母がケガをした際
家族ごっこ生活が円滑にいかないことで
父が怒り出さないようにと
母に代わって母の仕事を懸命に務めた
 
 
母が体調を崩したりケガをしても
「大丈夫か」の一言もない父


興味があるのは
自分の生活とごはんのこと
母とデートするくせに
と父への不信感が強まった
 
 
父は自分のことにしか興味がない人
なんだとガッカリした
 
 
働かざる者食うべからずと
父に言われ
家族という名前のついた集団生活が
円滑にいくように
生活に伴う家事を行った
 
 
自分は何もしない父に
命令されることに強く反感を覚えた
 
 
洋服は相変わらず父好み
 
 
長い髪の毛は父の趣味
 
 
勝手に髪の毛を切ろうものなら
1か月近く口を聞いてもらえなかった
 
 
何歳までだったか
休日の父との入浴が苦痛でたまらなかった
 
 
胸のふくらみを甘食とからかわれたことは
幼い私をひどく傷つけた
 
 
酒を飲んで父が眠っている時に
家の電話が鳴ると父が怒り出した
父が眠ると電話の音が鳴らないように
クッションやタオルで電話を囲った
 
 
生きているのに
まるで死んでいるかのように
息を潜めて生活をしていた
 
 
「父の稼ぎで生活させてもらっている」
いつもそう言われていた
 
 
頼んでいないのに
好きでこの家に生まれた訳じゃないのにと
思っていた
 
 
そうそう
 
 
家にはトイレが1つしかなくて
(普通の団地なら当たり前か)
 
 
父はトイレが長かった
まるでトイレの住人
 
 
トイレが長い理由は
官能小説を読んでいたからだ
キモチワルイ
 
 
父にとっては
トイレの時間が至福の時だったようで
父が入っている時にもよおすと
我慢しなくてはならなかった
 
 
人間だから我慢の限界がある
 
 
その時は
父に謝罪してトイレを出てもらった
 
 
我が家では
生理現象のトイレに行く時まで
父の顔色と様子を伺わないといけなかった
 
 
一方で
 
 
休日の夕方に
わざわざ電車に乗ってまで
父がたまごっちを買いに
連れて行ってくれた事が嬉しかった
 
 
休日の朝に早起きした時
父の機嫌がよければ
一緒にこたつに入って
父の腕の中で眠る事が幸せだった
 
 
父をバカにする気持ちと
父を大好きな気持ちが
複雑に入り乱れていた
 
 

 
【由颯 愛妃の中学生(学校編)】
 
 
 
小学校での失敗を踏まえ
中学校ではうまく馴染もうと
期待し努力した
 
 
だが努力も虚しく
小学校での噂が広まった
 
 
居場所を探そうと
さまざまな女子のグループに
所属しようと試みたが
合わずにグループを転々とした
 
 
やがて孤立した
 
 
小学校の悪夢再来
 
 
修学旅行で誰よりも早く眠ったが
女子トーク真っただ中に目が覚めた
空気を読んで寝たフリをした
後日、寝たフリをしていた時の話に
うっかり参戦し
なんで知っているの?
とピーチクパーチク言われ
結果ハブられた
 
 
なんとか挽回しようと
学級委員をやった
 
 
必死でやればやるほど
周囲から浮いていった
 
 
なんとかしようという
気力が減り始めた
 
 
日頃のストレスを発散するために
理科のハゲの先生に反抗した
成績で「1」をつけられた
 
 
家庭科や技術の授業など
何かを制作する時に
最後まで丁寧に制作する
ということがどうしても出来なかった
途中まで出来ると飽きてしまい
残りはどうでもよくなってしまうクセを
先生に度々指摘された
 
 
夏休みの宿題は
9月に入ってから着手するタイプだった
 
 
ソフトテニス部に所属した
 
 
試合のため早朝に出かけると
「なんでそんなに早く行く必要があるんだ」
と父が立腹し
学校にクレームを入れた
 
 
居場所がなくなった
 
 
塾へ体験入学をした
「俺は塾へ通うなんて聞いていない」
と父が塾に電話をした
授業の途中で母に連れられ
自宅まで連行されたこともあった
 
 
同じ中学校の人が行く高校には行くまいと
公立の学区外受験を試みた
 
 
結果は失敗
 
 
いかにも頭の悪そうな女子が集う
私立の女子高への進学が決まった
 
 
人生終わったと思った
 
 
 
【由颯 愛妃の中学生(生活編)】
 
 
学校が終わった後で
隣駅の安い八百屋さんまで
自転車で買い出しに行った
 
 
父のビールを安く購入するために
自転車で30分くらいかけて
遠い酒屋さんまでビール(500mlのケース)
を買い出しに行った
 
 
休みの日は3食作った
(もちろん片づけも)
 
 
味付けが濃いと文句を言われた
 
 
父のお決まりのセリフは
薄ければ足せるけど濃ければ
どうしようも出来ない
 じゃーおめーが作れよと思った

 
我が家の休日は
17時から父の晩酌がはじまり
18時から家族そろっての夕食だった
 
 
ちびまる子ちゃんが見たかったのに
いつも変な動物の番組でたいくつだった
 
 
食卓での会話はゼロ
 
 
話かけようものならば
「うるさい」と一喝
 
 
父の足もみをさせられた
足が臭くて
終わった後は必ず手を洗っていた
 
 
8時だJが好きだった
 
 
ジャニーズJrの大坂俊介が好きだった
 
 
相変わらず医療ドラマ好き
 
 
「救命病棟24時」の
江口洋介が好きだった
 
 
長期休暇の際
母方の祖父母宅へ行く事が
楽しみで楽しみで仕方なかった
 
 
楽しみすぎて
10日ほど前から荷造りをしていたら
「この家が気に入らないなら出ていけ」
と父に言われた
 
 
休日はニッポン放送の
ラジオを聞いて過ごした
 
 
休日の起床時間は遅くても8時
 
 
どんなに眠くても
必ず朝は一度起きて朝食を
摂らないといけない決まりだった
 
 
休日を自宅で過ごす時間が
長くて長くて長くて
いつも時計を見ていた
 
 
少しずつ父へ反抗する気持ちが芽生え
父と衝突するようになった
 
 
お湯がたまっているお風呂に
顔を突っ込まれた事は忘れもしない
 
 
父の常套句は
「俺をバカにするな」
 
 
バカにされたくなかったら
世間一般の父親らしい事すればいいのに
 
 
我が家では変なルールがあった
 
 
何かを買ってもらいたい時や
新しく習い事やチャレンジをしたい時
父にプレゼンしないといけないのだ
 
 
なぜ必要なのか
なぜやりたいのか
どんな効果が期待できるのか
会社をリストラされるようなクソ親父に
プレゼンしないといけなかった
 
 
プレゼンの結果は父の機嫌次第
 
 
アホくさいったらありゃしない
 
 
こうして私のやる気は奪われていった
 
 
そうそう
 
 
父は世間体を気にする人で
 
 
周囲からは
「いいお父さんでうらやましい」
と言われていた
 
 
何を見てどの口が言ってるんだと
思ったものだ
 
 
 
早く自立したいと思う気持ちだけが
強まった