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思えば、私は鏡を信じていなかった。

私が記憶する中で一番初めに鏡に違和感を覚えたのは、当時住んでいた家の記憶と照らし合わせると恐らく4歳ごろだと思う。
その家では、洗面所に備え付けられてある鏡が高い位置にあって、ジャンプをしないと自分が見えなかった。
私は本気で、(自分の本当の髪の毛の色は、黒ではないかもしれない)という気がしていた。白かもしれないし、緑かもしれない。そう考えては自分の髪の毛を後ろから引っ張っては確認しようとして、最後には自分の目すら本当かどうかも分からなくなってきて、それならば本当の世界はどこかにあるのかもしれないと感じていた。


それから先の恐らく5歳ごろ、私は鏡の中に面白い体験をしたのを覚えている。母の職場である助産所によく連れて行ってもらって、そこで母の仕事が終わるまで時間を過ごしていた時期があった。ある時、そこの鏡の中を観察していた日のことである。
鏡の中の自分の顔から目を離さずに、顔を左右にゆっくり振るような形で動かしてみた。すると、顔面における黒眼を残したその他が、動くのである。黒眼だけが顔面から取り残されてしまった感じがした。あるべき場所からこっそり抜け出したような感覚だった。
とても不思議な気持ちがして、何度も何度も繰り返した後、仕事中の母に報告した気がする。


今では、鏡はただのガラスのように思えるし、映画の中ではガラス以上の意味にしか思えなくなった。

mako