続・付き人奮闘記 98 | chihiroの気まぐれブログ・これからも嵐と共に

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2021年1月。嵐さんの休業を機に、妄想小説を書き始めました。
主役は智くんで、メンバーも誰かしら登場します。ラブ系は苦手なので書けませんが、興味のある方はお立ち寄りください。

 

 

 

「だけどそうやって振り返ってみても風磨だけがわからないんだよ。

 ずっと順調に来ているイメージだったし、この間もトントン拍子に来た方だって

 言ってたじゃん」

 

隼人の言葉に樹も頷く。

 

「だけど最近少しイライラしているよね。さっきの合宿の話の時もそうだったし、

 何かに焦っている感じがする」

 

「うん。俺も風磨の悩みは過去の事ではなくて、現在の事なんじゃないかと思う」

 

 

普段は饒舌な風磨が珍しく大人しい。

元々隼人を励ますために俺達の話もしようと、樹と一緒に来てくれた。

樹はたまたま俺が少し知っていたから話せた。

だけど風磨に関しては本当にわからない。

 

「無理に話さなくても良いよ」

 

「そんなぁ。だったら何の為に来たんだよ」

 

「隼人にそんな事を言う権利はないだろう。元々隼人を励ますために来てくれたんだよ」

 

「だけど樹は話してくれたじゃん」

 

「あれは俺が少し関わっていたからね。だけど風磨に関しては本当にわからない」

 

「だけどその悩みが現在も関係あるなら俺は話して欲しい。

 例えどんな事でも俺達は応援するよ」

 

樹が励ますように声をかける。

 

 

「俺達、本当にデビューできるんですか?」

 

「その為に今頑張っているんでしょう」

 

「でももう30です。それだけでも遅いのに、これから合宿をしていたりしたら

 もっと遅くなる。デビューはタイミングが大事なんじゃないですか。

 最初に話を聞いた時からもうすぐ1年です。レコード会社も変わったり、

 全てが後手に回っている気がするんです」

 

「うん。ゴメンね。それは俺の段取りが悪かったね」

 

その言葉に隼人が怒った。

 

「何言ってんだよ。風磨は何を言いに来たんだよ。大野さんを責めに来たの?

 だったら帰れよ」

 

「隼人。落ち着けよ」

 

「だけど全て3人承知の上でやってきた事です。僕も風磨の言葉には納得できません」

 

 

「わかってないのはお前達の方。風磨がどうしてそんな事を言い出したか、

 今までそんな事はあった?俺も風磨とこうやって接するようになって、

 俺の中では優等生と言うイメージが強かった。でも優等生と言うのは結構我慢をしている

 事が多いんだよ。だから正直、今の風磨を見てホッとしている」

 

頑張りすぎると何処かで壊れる。それが怖い。

今まで順調に来ているだけに、歯車が合わなくなったら一気に崩れる。

 

 

「その風磨の悩みを翔くんは知っているの?」

 

「いいえ。話していません」

 

「だったら先に翔くんに話してみたら良いよ。

 今は俺ではなくて翔くんに相談する方が風磨には良いのかもしれない。

 俺から翔くんに伝えておくよ。ちゃんと話を聞いて貰うように話すから。

 ね、そうしよう」

 

 

俺の言葉に風磨が戸惑っているのがわかる。

翔くんだって同じ事務所の人間。

必ずしもマネージャーに話さなければいけないと言う事はない。

 

 

「それは風磨が考える事だから俺達が言える事ではないし、

 櫻井さんもこの事務所の幹部だから相談するのは間違えてはいないとは思う。 

 だけど風磨、今俺達の一番近くにいてくれる人はだれ?

 プライベートの事なのにこんなに真剣に話を聞いてくれているのはだれ?

 それは間違えないで欲しい」

 

「樹」

 

「俺達に話したくないならそれでも良いよ。でも大野さんには話して欲しいな」

 

 

樹の言葉に、ふと風磨の肩の力が抜けた気がした。

 

 

ちょっと気分を変えようかな。

 

 

「コーヒーでも飲む?」


 

「俺、アイスコーヒーが良い」

 

真っ先に隼人が言って他の二人も同意する。

 

ここは隼人の家なのだけど、本人は全く動く気配はなし。

まあ、それどころじゃないか。

 

コーヒーを一口飲んで風磨の表情が少し緩んだ。

 

「すみませんでした。話します」

 

「大丈夫?」

 

 

黙って頷いて話し始めた。

 

 

「実は2歳違いの弟が5人組のバンドを組んでいて、デビューが決まったんです」

 

「え?」

 

思いがけない話にみんなが驚く。

2歳違いと言う事は28歳。これも遅いデビューだ。

 

「彼もずっと芸能界にいたの?」

 

「入ったのは20歳の時です。オーディションを受けて入っています。

 事務所は違います。弟は最初から歌手志望でした。

 今のバンドを組んだのが22歳の時でそれから研修生として頑張ってきて、

 漸く今年の冬のデビューが決まりました」

 

「結成から6年か……。凄いね」

 

「研修生の中にはもっと長い人もいます。

 でも弟は30歳までが勝負。それを過ぎてデビュー出来なかったら辞めると

 ずっと言っていたんです。だからデビューできると聞いた時は俺も凄く嬉しかったのですが、

 俺に歌手デビューの話が来たのはその前です。

 でも、話はなかなか進まないし、俺も30歳になって焦りが出てきた時に、

 弟のデビューが決まって、今は正直複雑な気分です」

 

「弟さんに何か言われた?」

 

「今からの歌手デビューは遅いんじゃないかと言われました。

 弟もデビューは遅いですけど、20歳で事務所に入った時から

 ずっと歌のレッスンはしていますし、先輩のライブに出たりして経験は可なり積んでいます。

 全く歌った事のない僕とは違います」

 

 

きっと「騙されているんじゃないの?」と、言われたのかもしれない。

 

まあ弟さんが心配する気持ちもわかる。

 

でも、だからこそやっぱり合宿はやるべきだな。

ここで少し歌手になる希望が持てれば良い。

 

今の風磨にはそれが必要な気がする。