続・付き人奮闘記 73 | chihiroの気まぐれブログ・これからも嵐と共に

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2021年1月。嵐さんの休業を機に、妄想小説を書き始めました。
主役は智くんで、メンバーも誰かしら登場します。ラブ系は苦手なので書けませんが、興味のある方はお立ち寄りください。

 

 

 

「隼人、お茶飲む?」

 

「うん」

 

ホテルの部屋のテーブルにお茶とお菓子が置いてある。

俺がお茶を入れてあげると、隼人が椅子から降りて俺の傍に来て、

「申し訳ありませんでした」と頭を下げた。

 

俺と会って何を言うだろうかと気になっていただけに少しホッとした。

 

さっきはここに連れてきた礼を言ってくれたし、少なくとも逆恨みのような事は思っていないみたいだ。自分の罪を棚に上げて「どうしてこんな目にあわなければいけないんだ」と言う奴もたまにいる。

芸能人は特別だと変な勘違いをしているのが、特に若手には多いからそれが心配だった。

 

 

「俺、どうなるの?」

 

「警察の捜査が終わらないと何とも言えないけど、当分は謹慎になるね」

 

「仕事もなくなっちゃったし、復帰できるのかなぁ」

 

独り言のように呟く。

 

本当は仕事は全部はなくなっていない。

ワイドショーは降板になったけど、クイズ番組とラジオの方は

「確かな罪状が出るまで待ちます」と言ってくれている。

 

今の罪状のままなら暫くの謹慎で復帰もあり得る。

隼人が万引きや窃盗をやっていたのならまた違ってくるけど、それは本人が否定しているし

警察の捜査でもそれは出て来ていない。

甘いと言われるかもしれないけど、後は仕事で信頼を取り戻して欲しいと思っている。

俺はその方向で進めて行こうと思う。

 

隼人にもその覚悟はしておいて欲しいかなと思って俺の考えを話す。

 

当初は仕事を待っていてくれているという事は話さないつもりだった。

それで調子に乗られても困るし、やっぱり俺は大したことはやっていないんだと

勘違いされても困ると思ったからだ。

でも話をしてみて、十分に反省している事がわかったから復帰についてのビジョンを

話すことにした。

 

 

「え?降板になってないの?この二つは自分から降りたんだよ」

 

「だけど待ってくれると言ってくれたんだ。クイズ番組の方は共演者全員の一致だそうだ。

 一生懸命やってきたからな。みんなわかっているんだよ」

 

もっと喜ぶかと思ったけど俯きながら言った。

 

「そんなに優しくされる資格なんてない。最近はいい加減に仕事をしていた。

 あいつらと遊ぶようになって自分でも生活が乱れているのはわかっていた。

 共演者からは体調が悪いんじゃないのと心配されて……。

 AさんやKさんは毎回差し入れをしてくれて、どんどん食べて元気になれと言ってくれて、

 それなのにそんな人達を俺は裏切ったんだよ。もう戻れないよ」

 

話ながら涙が零れている。

 

Aさんは芸人さん、Kさんはベテランの女優さん。

お二人とも隼人が入った時から可愛がってくれていた。

 

 

「そう言う気持ちがあるのなら尚更復帰しないと恩返しが出来ないよ」

 

「だけど……」

 

少しためらっていたけど思い切ったように俺を見て言う。

 

「ねえ、大野さん。正直に言って。俺、解雇になるんじゃないの?」

 

「じゃあ俺も正直に言うけど、そう言う話はまだ出ていない。

 全ては警察の捜査の結果次第になると思う。そこは潤と翔くんがうまく間に入って

 会社側と話し合ってくれているよ」

 

潤が知人の弁護士を頼んだのも警察より事務所との話し合いの為だった。

 

 

「だけど和馬さんは取り調べだけで解雇されたんでしょう」

 

「あれは早すぎたんだよ。和馬より周りの言葉を鵜呑みにし過ぎた。

 そうならない為に俺達は今動いているんだ。

 これは隼人だけの問題ではない。今後も簡単に解雇されるような事がないように、

 俺達は闘っている」

 

こんな事まで話して良いのかなとは思ったけど、でも隼人には知っておいて欲しかった。

そしてこれだけではなくて、もう一つの俺の覚悟も……。

 

「だけど俺達だけ闘っても意味がないからね。隼人にもその覚悟はある?」

 

「闘うってどういうこと?」

 

「隼人には簡単に辞表を書いたり、辞めると言って欲しくはない。

 もし俺のいない時に事務所の人にそれらしい事を勧められる可能性もあるから、

 その時は全てプロジェクトに任せているからと断ってくれれば良い」

 

まあ一人にさせることはないけど、電話がかかってくる場合もある。

 

「それと一つ確認させて。隼人は仕事を続ける覚悟はある?

 今までも簡単に辞めるなんて言って来たけど、もうそんな事は言えないよ」

 

「わかってる。辞めたくない。続けたい。俺、この仕事が好きだから…」

 

 

 

「だったら今から言う事は胸の奥にしまっておいて」

 

隼人が緊張したように頷く。

 

 

「今の状況ではそんな事にはならないとは思うけど、最悪プロジェクトと会社との話し合いが

 うまく行かなかった場合、俺は独立を考えている」

 

「え?」

 

「話し合いがうまく行かなければプロジェクト自体もなくなるからね。

 俺は和馬の二の舞を作りたくはない。そうしたら隼人は俺についてきてくれる?

 幸い俺もマネージャー歴は長いから隼人のマネージメントくらいは出来る。

 勿論、一からやっていくから大変だとは思うけど……」

 

 

隼人が一瞬息をするのも忘れるくらい驚いているのがわかる。

 

さあ、どんな返事をしてくれる?

 

これに驚いて逃げ出すようなら闘うまでもないかもしれない。