地獄の学校【社会人編】 46 | chihiroの気まぐれブログ・これからも嵐と共に

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2021年1月。嵐さんの休業を機に、妄想小説を書き始めました。
主役は智くんで、メンバーも誰かしら登場します。ラブ系は苦手なので書けませんが、興味のある方はお立ち寄りください。

 

 

 

10年後

 

 

念願だった雅也さんの法案が国会で認められた。

 

あの学校を設立してから約18年。

 

雅也さんと松兄が夢を見て動き始めてからは、もっと長い歳月が過ぎている。

 

 

でも、ここが終わりではない。

 

むしろこれからが始まりだ。

 

まずは本格的な実現に向けて色々な事が動き出す。

 

一つは場所。

今のところで勉強と仕事を一緒にやるというのは無理で、きちんとした建物で学校と職場と

分ける必要がある。

 

その為に今まで雅也さんをずっと陰で支えてきた人と初めて会う事になった。

 

何故かヒロもその場に呼ばれていたのが不思議だったけど、その理由はすぐにわかった。

 

 

雅也さんの部屋にその人達が入って来た時に、俺は一瞬自分の目を疑った。

 

「お父さん」

 

近くにいたヒロが駆け寄る。

ヒロは素直だな。俺は未だに動けないでいた。

 

「どういうことですか?」

 

俺は雅也さんに聞いた。

 

「事故の代償として親父が要求したのですか?」

 

 

喧嘩腰になりがちな俺を松兄が止める。

 

「違うよ智。その前にもう一人紹介する」

 

そう言って親父の隣にいた人を指して、

 

「こちらは岡田のお父さん」

 

「え?」

 

「岡田はそれを知っていてここへ入ってる。

 岡田はお前と違って親父さんを尊敬しているからね」

 

「どういう関係なんですか?」

 

「この二人に加えて実はもう二人いたんだ。

 元々はその4人で夢見たことだった。4人は高校の同窓生だった。

 年齢はバラバラだけど気が合ったんだろうな。

 きっかけは最年長の人に子供が出来て、その子が凄い能力を持って生まれて来た。

 その才能に恐怖を抱いて一度はその子供を捨てた。

 でも運良くその子の兄がその子を見つけた。

 そこから彼は長い間、実の息子に罪悪感を抱いて生きてきた」

 

「それって……」

 

「そう。一人は俺の親父。もう一人は松岡のお父さんだ」

 

「親父が死ぬ間際、俺に言い残した。

 どんな子供でも受け入れられる心の広さが俺達夫婦にはなかった。

 お前はそういう大人にはなるなよって……」

 

「その親父さんの言葉から俺と雅也とで考え付いた夢だったんだ。

 その夢を亡くなったうちの親父と、ここのお二人に話したら賛成してくれて、

 特に4人の中では若い二人が積極的に動いてくれた」

 

「智くんのお父さんはその為に自分の家庭を犠牲にしてしまった。

 親父さんが悪いんじゃないよ。本当に申し訳ない」

 

 

「君のせいじゃないよ」

 

初めて親父が口を開いた。

 

「他に方法はあったのだと思う。だけど家族を巻き込みたくなかった。

 だからお前達の前ではどうしようもない父親でいようと思った」

 

「智くん、お父さんの職業知ってる?」

 

「いや、碌に働いていないと思っていたけど…」

 

「岡田はお父さんの職業知ってるよね」

 

岡田がお父さんの方を見ながら答える。

 

「検察官」

 

「岡田くんのお父さん、あなたの右腕として働いている優秀な相棒は誰ですか」

 

「大野です」

 

 

「嘘……。俺達の親父はいい加減で家庭を捨てて平気な人で……」

 

「それが嘘だったって事だね。嘘のお父さんの姿を見ていた」

 

ヒロの方が意外と冷静だ。

 

「岡田は知ってたの?お父さんがこう言う事をやっているって…」

 

「知らなかった。だけど高校を中退してブラブラしていた時に、

 ここへ行ってみないかと言われて、それで働き始めた。

 それからだよ。親父達が何をしようとしているのかがわかって、

 俺も手伝いたいと思った」

 

「知らなかったのは俺達だけ……」

 

「いや、うちも和也と達也は詳しい事は知らない。

 ただ俺達のやっている学校だから手伝っていただけだよ」

 

「うん。親父の言葉がきっかけだったなんて知らなかった」

 

 

「じゃあ、あの俺とニノの事故は?」

 

「あれは本当に偶然。病院に行った時に親父さんを見て驚いた」

 

「だから親父も俺達を会わせようとしなかったの?」

 

「それもあるけど、あれは母さんが心底拒んだのもある」

 

 

「じゃあヒロの施設のお金は……」

 

俺に続いてヒロが言った。

 

「やっぱりお父さんだったんだ」

 

「ヒロ、気が付いてたの?」

 

「ここに来て色々と考えているうちに気が付いたんだ。

 一度、施設にお父さんが立派なスーツ姿で来たことがあって、

 もしかしてお父さんはちゃんとした仕事に就いているのではないかと思った事がある」

 

「だけど全額払ってはいませんよね」

 

「それは俺から言い出したんだ。智くんへの償いとして智くんの将来と、

 ヒロくんのお金を少しは出させて欲しいと…」

 

「俺の将来?じゃあ、あの学校の入学は……」

 

「俺がカズくんに頼んだ」

 

 

なんだか想像も付かない驚くことばかりを聞かされて、俺は膝から崩れ折れて座りこんだ。

 

「大丈夫か?」

 

真っ先に駆け寄って助け起こしてソファーに座らせてくれた親父。

雅也さんに水を頼んで持ってきてもらう。

 

初めてみる親父のこんな姿。

本来は優しい人だったんだろうな。

 

「驚かせてゴメンな」

 

「バカ……」

 

 

親父の泣き顔を初めてみた。