受験シーズンが始まった。
今までも受験はあったけど、さすがにこの時期は一斉に受験に突入するので、周りの雰囲気も違って感じる。受験当日は俺達も手伝う。受付をやったり、試験問題を配ったり初めての事は結構楽しい。この受験も学校ではやらない。あくまでも隠しに隠して、入学の時に一気にオープンと言った感じだ。
実は学校の方も少しリフォームをしている。
新しい気持ちで4月の第1期生を迎えようというのだろう。
「さて今年は何人入るかな」
普通の学校と違ってそんなに多くは取らないし、入らない。
入試の時の面接でだいたいの様子がお互いにわかるから、入試から合格発表まで2日間開けて考える時間を与えてその間に辞退者も結構出る。
たださすがに4月入学だけあって受験数は過去最高だったそうだ。
その中から合格者は一応30人。
これでも可なり多めに取っている。
これから公立の学校が発表になれば、また辞退者が出てくる。
「最終的にはどのくらいになる予想?」
雅也さんは出かけているので、松兄と直也さんと雑談中。
「まあ20人~25人くらいかな」
「10人も減らないでしょう」
「そうは思うけど結構併願者がいるんだな。こういうのは今まではなかったから、
ちょっと読めないなぁ」
「そうか、秋入学の時は併願とかなかったんだ」
「そう。そう言う意味では秋の方が楽だな」
「そうして入ったら入ったで1年間で数人がいなくなる」
通常の退学ではなく、ある日突然いなくなるのだ。
最初は学校側が何かしているのかと思ったけど、そうではなかった。
初日から自分が思った学校と違うと思えば簡単に辞めてしまう。
結局、今年の入学者は26人。
「過去最高」だと言うけど、俺にはこれが多いのか少ないのかがわからない。
うちの学校は全員が揃う事が少ない。
学校と寮が一緒になっているし、すべて個室だから自分の部屋に入ってしまえば全くの一人。
せいぜい食事の時やお風呂でみんなと顔を合わすくらいだ。
一人が好きな人には良いだろうけど、凄く孤独に感じる事もある。
そのフォローも俺達の仕事になる。
「4月からは智くんは暫く学校の方を見て欲しい。
岡田、智くん、和也、達也の4人は生徒のフォローにまわって貰う」
「俺は部屋は移るんですか?」
「いや、ここで良いよ。積極的に動くのは和也と達也。
いざという時に岡田と智くんが行ってくれれば良い」
「二人の方が生徒と年齢が近いからだよ」
「1歳違いじゃん。それに俺と智くんは同期だよ」
「それは関係ない。それに課題が進めば嫌でも一緒にいるようになるんだ。
今は少し離れていた方が良いんだよ」
「嫌になんかならないもん」
「それはお前の考えだろう。智くんはどう思うかわからないだろう」
「すぐそういう意地悪を言う」
ここの兄弟のやりとりは面白い。
これに達也くんが加わるともっとおかしな方向へ行く。
「ねえ、来年は女の子入れようよ」
お茶を飲んでいた数人が吹き出しそうになった。
「こんな個室ばかりだったら、女の子が入って来たって交流は持てないぞ」
「交流の場は作れば良いじゃん。週に何回か合同授業を入れるとか……」
「だったら先生も女の先生を探して来ないとダメだぞ」
「最初から男子だけというのは決めてたの?」
岡田が聞く。
「ああ、共学という考えはなかったな。第一、俺と松岡で考えた事だぞ。
女性の入る余地なんてないよ」
二人の顔を改めて見ながら「なるほど、確かに」と岡田が呟いて大爆笑になった。
確かに共学と言うイメージはわかないなぁ。
ここは男子だけで良かったのだと思う。
「さあ休憩は終わりだ。それぞれ持ち場に戻る」
早く4月になって欲しいな。
新入生が来ないとなんだかピリッとしない。
学校の方は今は春休み。
何人か外泊届が出ている。
仕事の方は休みは当人の自由。
仕事の進み具合によって取っている。
滑り出しの良かったニノのペア。
相変わらず順調のようだ。
「この二人は次はゲームを予定している」
「ゲームですか?凄い、専門分野じゃないですか?」
「だからこそ、それぞれの個性が出る。
もしかしたら、ここが試練になるかもしれないなぁ」
得意分野が試練になる?
よくわからないでいたら直也さんが教えてくれた。
「智くんと和也は得意分野が違う。だからうまく行っていると言うのもある。
好きな事だとその人の拘りが出るだろう。それが強ければ強いほどぶつかる可能性が強い。
どっちかが一歩引いて客観的に見られれば問題はないけどね」
「そうか。必ずしも共通点が多ければ良いと言う訳ではないんですね」
「だけど共通点がなくてもペアは組めない。結構難しいよ」
「直也さんがもしペアを組むとしたら誰とやりたいですか?」
「へえ、興味があるなぁ」
雅也さん達も話に入って来た。
「俺は岡田か達也ですね」
「どうして?」
「なんだか得体の知れない面白さがある。
予想外のボールが飛んでくる感じがするんです」
なるほどなぁ。
ちょっと分かるような気がした。