声の主は岡田くん。
「お前、なんでここにいるんだ」
「見張りをやってくれっていったじゃないですか」
「ああ、それはもう良い。他の3人にも言っておいて。
これからはこの二人は俺の助手になる。
勿論、自分達の仕事をしながらな」
処分は終わりってことだ。
だけど俺は雅也さんが単なる私恨で処分したとは思っていない。
やっぱり達也くんを連れて行く必要はなかったんだ。
アスレチックは俺達だけで行って体験するべきだったんだ。
人を巻き込んだことを雅也さんは怒ったんだと思う。
「それでアスレチックはどうするんですか?
雅也さん俺の話聞いてます?ボケました?」
「バカ、まだ早いわ」
実の弟のカメくんより気軽に話しかける岡田くんって、いったい何者なんだ。
「アスレチックはさっきも言った通り、最後の部分は改善が必要だ」
さっきはダメだと言ったのに、「改善が必要」に変わっている。
「じゃあ危険度を減らせば作っても良いの?」
「ああ。俺は別に意地悪しているつもりはないぞ」
「わかりました。もう一度考えよう、カメくん」
「うん」
「岡田、机を二つ持ってきて」
雅也さんが言った。
「正式に助手をやってもらうなら、自分用の机も必要だ」
岡田くんが机を2台運んできて、言われた所に置く。
「学校にいた頃と同じ作りだ。ここを伸ばせば机がくっつく。
ただ物を作ったり、大きな図面を書くときは床でやった方がやりやすい。
それと、そこのボタン押してみて」
言われた通りに押すと、机と机の間に壁が出来て、完全な個室になった。
「ベッドも運びたければ運んでも良いよ」
でも寝室は寝室であのままにして貰った。
「じゃあ俺は学校の方へ行ってくるけど、誰か付いてくる?」
「カメくん行っておいでよ」
「え?」
「俺は知り合いが4人もいるから余り会いたくない」
「まあそれは心配ないけど、じゃあ今日は和也に付き合って貰おうか」
「はい」
「じゃあ智くんは昨日の名簿の続きをやっていて。
アスレチックも気になるだろうけど、それは二人で考える事だから」
「そうですね。わかりました」
カメくんが嬉しそうに出て行った。
「良かった。兄弟仲が元に戻って」
後ろから声がして驚いた。
「岡田、まだいたの?」
「ああ!呼び捨て」
「良いんだよ。同じ年なんだから」
「まあ、もう学生でもないし、良いか」
岡田と二人になって聞いてみたい事があった。
「達也くんの記憶が飛んでる話は知ってる?」
「ああ、聞いた。だけどなぁ……」
「なに?」
「あの催眠療法使えるのってそんなにいないよ」
「お兄さん二人は?」
「そもそもあれは自衛隊の特殊訓練で教わる筈だから、
真也さん達は知らないと思うな。知っているとすれば松岡くんだな」
「松兄……」
「だけど記憶がないと言うのは本当なのかな……」
「達也くんが嘘を付いているって言うの?」
「嘘と言うより和也を庇ったんじゃないかと思う」
そうか、アスレチックに達也くんを連れ出したことを怒られていたから、
それで自分の記憶を消えたふりをした。
達也くんの記憶が曖昧だと、この事は深く追求できなくなる。
頭の良い子だから、そこまで考えたのかもしれない。
「多分、和也も気が付いたと思うよ。
それでなければ、もっと雅也さんに食いついていた筈だから。
兄弟の中ではっきり雅也さんに逆らえるのは下二人だけだから」
「要するに怖いもの知らずって事?」
「それもあるけど、上の二人は雅也さんの事を信じているから。
あの3人は年齢も近いし小さい時から一緒にいたから分かり合えるんだと思うよ」
「カメくんと雅也さんは幾つ違うの?」
「正確な事は言えないけど10歳以上」
そうか、それじゃあ一緒に住んでいた時期も余りないだろうし、
なかなか難しかっただろうな。
「じゃあ、俺はこれで戻るわ」
「うん。ありがとう」
岡田が出て行って俺は仕事に取り掛かる。
名簿を打っていて気が付いた。
「1年生でもう3階?何者だ、こいつ」
もしかして首席だったのかな。
菊池風磨。
なんとなく気になる名前だった。