私が十年ほど前に連載させて頂いていた記事の一部です。
拙文ですが、ご一読頂けましたら幸いです。
「我が町のアワビで医者が来てくれるなら安いもの」
先日某新聞紙上にこの様な記事が掲載されていた。
岩手県内でも医師充足率の著しく低い自治体が、医師派遣を巡り 派遣側の大学教授らに贈答品を贈るのが慣例になっていたという。
遠隔地における慢性的な医師不足は以前から取り上げられてきたものの、その状況は深刻だ。
労働条件・医師側の意識の問題など、当事者でなければ解らぬ事情も多いようだが、問題の根は深い。
ところで今から50年ほど前、体当たりでこの問題に取り組み、乳幼児死亡率ゼロ・60際以上の高齢者と1歳未満の乳児に対する国保10割給付という偉業を成した1人の村長がいた。
同じ岩手県内・和賀郡沢内村。
国内有数の豪雪地帯に位置し、冬には10メートルを越す積雪に為す術もない。
ただ雪囲いの中で耐えることを強いられた住民達。
長らく続く無医村状態。
絶望的な状況を打破すべく深沢 晟雄(ふかさわ まさお)氏は立ち上がった。
本書はその男の生涯を追っている。
道なき所に道をつくる具体的な取り組みや、次々に登場する情熱溢れる人々。
全ての生命を平等に尊重するという彼の理念が、
一人、また一人と村の人達の心に着実に根を下ろしてゆく様には心を動かされる。
そして、政治も経済も社会開発も・全ては生命の尊厳・尊重のためにあると言い切った彼の姿勢に
胸を射抜かれる思いがするのだ。
徹底した個人主義が蔓延る現代、
仏恩も忘れて 保身の為に平気で他人を利用する人々が跳梁跋扈する中で、
果たして彼が放った光を正面から見据えられるほどの曇りなき志を持って、
私たちは日常を生きているだろうか。
道なき所に道をつくる。
それは生命あるもの全てに贈られた、生涯かけての課題かもしれない。
植物も厳しさや競争のある環境の方が強く育つという。
完璧な人間など居ないのだから、失敗も迷いもある。
それを恥じるのではなく・成長への足がかりにして道を切り開いて行けば良いのだ。
今生の恥より後生の恥。
大きな過ちですらも成長剤に変えてくれるのが妙法の力だ。
「あきらめを希望に」変えられぬ筈がない。
(中略)