今年1月に改定されたエイズ予防指針について、改定の背景と課題を議論するシンポジウムが学会最終日の4日午前、第7会場で開かれました。
エイズ予防指針は1999年の感染症法(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)施行に伴い、最初の指針が半年後に告示されました。それまでのエイズ予防法が感染症法に廃止統合され、エイズ対策遂行の法的な根拠が必要だったからです。
流行の状況や治療の進歩、社会的課題の変化などに対応するため、ほぼ6年ごとに見直しが行われており、現行指針は3度目の改定指針となります。
エイズ予防指針については、これまでも見直しのたびごとに専門の委員会による議論が重ねられ、おおむね妥当な内容なのですが、その一方で指針が決まってしまうとそのフォローアップが十分にできず、次の見直しの時期には必ず「書いてあることはもっともですが、結局、絵に描いたモチに終わってしまいました」という反省とも批判ともつかない声が上がります。
こうした弱点を克服するため厚労省の研究班には「エイズ予防指針に基づく対策の推進のための研究班」が設けられ、日本エイズ学会の松下修三理事長が主任研究者となっています。
シンポジウムはその松下理事長と疫学の研究者である人間環境大学大学院の市川誠一教授が座長となり、基礎、社会、HIV検査、臨床の4分野からそれぞれの専門家が報告を行いました。「問題点を洗い直し、どういうことができるかを考える」シンポジウムです。
個別の報告を紹介し始めるとあまりに長くなってしまうので、ここでは思い切って割愛するという荒業で対応します。発表者の皆さん、すいません。
全体の報告のトーンは、シンポ冒頭で松下座長が「ボブ・ディランの歌を思い出します」と語ったその一言に象徴されていたように思います。予防指針の課題を洗い直していくと、実は「前から言われていたことばかり」であり、「アンサーは分かっているのだけれど、どうやっていいか分からず、風に吹かれてフリーズしている状態」というわけです。
日本エイズ学会がこのシンポジウムを企画したのもまさしくこのフリーズ状態を解凍するためでした。もちろん限られた時間の中で解凍作業が完了するわけではなく、来年11月に熊本で開かれる第33回日本エイズ学会学術集会・総会でも引き続き、シンポジウムが開催されるということです。政策へのこうした関与は日本エイズ学会に求められる責務のひとつなのかもしれません。議論の蓄積が(おそらく5年後になると思われる)予防指針改正に反映されることを期待します。