医薬の発達でHIV陽性者の余命が平均寿命に近づく「祝福すべき」状況とともに、さまざまなセッションで、高齢化に伴う課題が深刻さを増していることが報告されている。このシンポジウムでは、まずACCの照屋勝治医師から、高齢化にともなう厳しい状況の報告が続き、私はメモを取る手が休まらなかった。

 ACCで患者数のピークは、2002年には20代であったが、いま(2017年)は40代であり、50代以上の患者は34%とのこと。じつに3人に1人は50代以上となった現実に、かつての「エイズは若い人を蝕む病」のイメージは完全に消えた観がある。

 そのときなにが問題となるか? さまざまな合併症が出現しており、HIV自体の治療はうまくいっているものの、合併症治療に課題が生じているという。腎臓はHIV(ウイルス)自体に腎臓障害を誘発する作用があったが、一部の治療薬の薬毒がさらに腎臓に打撃を与えるものだった。糖尿病も血糖コントロールが不十分で、慢性腎疾患へ。透析も年2~3人ずつ増えている。心臓疾患も少なくないほか、骨粗鬆症は40代から男性でも5割ぐらいに骨塩量減少がみられる。(医療に素人のメモなので、不正確な記述はお許しください。)

 そしてHIV陽性者は加齢、すなわち身体の老化が通常より10年早く進行し、多くの合併症の併発は、多種多様な服薬を余儀なくさせる。ACCでは65歳以上の35%は1日に10剤以上を服薬しており(ポリファーマシー)、そうすると薬剤間の相互作用情報が不十分で、思わぬ副作用が懸念される事態もあるという。

 合併症への留意として照屋医師があげたのは、タバコと体重(減量)。ゲイコミュニティに属する私は思わず膝を打った。社会的ストレスのせいか、ゲイに喫煙者が多い印象があるし、モテる体型としての「ガチムチ」はいまも人気だ。これはMSMの陽性者にそのまま重なるのだろう。禁煙はできても、彼らに体を小さくし、ヒゲをそらせることは、そのアイデンティティを挫(くじ)くものでもあるかもしれない。モテのためなら死んでもいいのか……。

 

 そこに加え、照屋医師はメンタルヘルスの低下が黙過できないことを紹介した。主には適応障害とうつ病であるが、患者の8.6%がメンタル疾患の診断を受けている。そうした患者は、しばしば受診中断をきたすことになる。また、薬物使用の経験率も、一般人に比べて非常に高い(これはゲイ側の集計数にRUSHが含まれるせいかもしれないが)。

 こうしたメンタルヘルスの課題は、しばしば命にもつながっている。ACCでは陽性患者が年に10〜15名程度亡くなり、たしかに発症から死へ至るかたは現在もいるが、数人は自殺をされ、それ以上に、なぜか家で亡くなっていたというパターンも少なくない。死去者の20%弱が自死と不明死という。筆者にも、そのように突然死した陽性の友人・知人がいる。

 

 後半、北海道医療センターの上村恵一医師からは。精神科医として自殺予防の視点から、精神疾患のいくつかについて解説があった。そのうえで、HIV診療と精神科診療との連携が、患者も精神科受診を遠慮する、主治医側も紹介しにくいと思い込む、受け手の精神科の側もHIVについて理解が乏しいなど、連携の齟齬について、現場ならではの観察が述べられた。

 最後に印象に残ったのは、患者の、自分が他人の迷惑になっているという「負担の知覚」を減少させ、自分の居場所がないという感覚を払拭して所属意識を回復させることが、自殺予防の肝であるとまとめられたことだった。

 ひるがえってゲイコミュニティのことを考えた。

 ゲイに生まれてごめんなさい、HIVにかかってごめんなさい、ゲイや陽性の僕はそもそも家にも学校にも会社にもいてはいけないんだ……骨がらみ刻み込まれてしまっているこの感情は、どうすれば治すことができるのか。医師は、薬は、病院は、どこかにあるのだろうか。

 副題につけられた「重要性を増すメンタルヘルスマネジメント」が、ひときわ重く響いて見えた。

 

特定非営利活動法人パープル・ハンズ事務局長)