人生100年時代という言葉が世間を賑わせて久しいが、同時に増加しているのが熟年離婚。ずっと仕事や趣味に一辺倒で、家庭を顧みなかったと言われる今のシニア世代。子供が巣立った晩年に、『離婚』を選ぶケースが増えているという。 

「私の場合、いつかは妻とやり直すと思っていました」と神妙な顔つきで語る男性、青木慎太郎さん(仮名・65歳)。青木さんは、今年の2月に熟年離婚。もう20年近く別居結婚状態だったが、「もしかしたら、子どもが独立した最期は、一緒に暮らしてやり直すかもしれない」。そんな思いから籍は抜かずにいた。 

別居中の妻は、病院に駆けつけ財布を探した

 

「元々転勤族だったこともあり、妻と一人娘とは別居状態だったんです。娘が中学に進学すると、一緒に転勤するのを嫌がるようになって、単身赴任が続きました。その間に、妻に男性の影がちらついたりもしたのですが、こちらも家を空けているという負い目があったため、見て見ぬふりをしていました」  青木さんは、『妻は家のことだけをやっていればいい』『男は外で働いて稼いでくればいい』そう思って、仕事に没頭したと言う。50歳になる前に本社に戻ってからも、関東で暮らしていた妻とは同居をせず、別居状態だった。一人娘が5年前に結婚してから、定年退職のタイミングで、また妻と同居しようと考えていたという。  しかし、離婚となったきっかけは3年前。嘱託社員として働いていた青木さんは、出勤途中に急に具合が悪くなり、そのまま急患として病院に運ばれた。心筋梗塞だった。心臓にある血管3本のうち2本が詰まるという重篤な状態。  連絡を受けて駆け付けた青木さんの娘は、医師から“死を覚悟してください”と言われたそうだ。

入院 「奇跡的に一命はとりとめたのですが、その連絡を受けた妻は、病院で私のキャッシュカードや財布が入っているはずのバッグを大調査したというのです。意識が回復して少し経ってから、病院のスタッフから“凄い形相をした年配女性が、入院している部屋に入れろと騒ぎましたが、娘さんから止められていたので面会を拒否しました”と伝えられました」  だが長年連れ添ったはずの妻の暴挙はこれだけではとどまらず、さらにエスカレートしたと話す。 

金品目当てで、妻が自宅の鍵を破壊して不法侵入

 

「成人してから妻とは別に暮らしていた娘が、事態を察してバッグを隠してくれていたそうです。それなのに、私は意識が戻ると娘に“また妻と暮らそうと思うんだ”とのんきに語っていました……。しかも娘が言いづらそうに、私がICUで生死をさまよっている間に、妻が私の独居の部屋のカギを鍵屋を呼んで破壊していたと打ち明けてきました。信じられませんでした」  まるで悪夢にうなされているような表情で語る青木さん。別居はしていたものの、心までは離れていないと思っていた妻は、青木さんの持つ資産しか興味がなかったのだ。 キャッシュカード 「妻は私の独居に不法侵入し、実印、年金証書、キャッシュカードなど金品になるものをすべて盗んでいったと、娘から聞かされました。娘はショックで、警察署に被害届を出そうとしたのですが、『婚姻関係が残っているため違法にならない』と取り合ってもらえず、悔しい思いをしたそうです」  実は、法律的には、結婚をして戸籍が別となった実娘より、妻の方が色々な権利を有している。妻が暮らす家に住民登録していたために、青木さんは退院後も、保険証や年金証書など、すべて取り返すために不便を生じたという。 「数年かけて、今年やっと協議離婚が成立したんです。でも、妻に買い与えていたはずのマンションはすでに売却されており、まったく見知らぬ街の住所が離婚届には書かれていました。でもこれで長生きできると思ったら、安いものです」  最後には笑顔を見せた青木さん。彼のような状況でも、世間体のためだけに離婚せずに我慢し続ける夫婦が、日本にはまだ沢山いると推測される。日本の婚姻制度も、もう少し自由度の高いものにしなければ、夫婦間の金銭トラブルはこれからも後を絶たないと言えそうだ。