仕事の取引先の人間が薬物所持で逮捕された煽りで、自身も家宅捜査された経験のある斉藤さんの薬物裁判傍聴記。連載8回目では前回に引き続き、大麻の営利目的所持が疑われる裁判だ。
 
 12月に始まった裁判が、結審するのは翌年6月。この月日を考えても、タフな裁判だと伺える。
 ここで改めて営利目的の量刑について触れると、「営利目的の所持は、7年以下の懲役または200万円以下の罰金の併刑」と、やはり単純所持(当連載3、4回目参照。どちらも初犯で懲役6か月、執行猶予3年)と比べても格段に重い。つまり、この裁判は被告にとって、この重罪を回避するためのものと言える。
 
 営利目的の所持でないと証明するためには、380gの大麻を自分が個人で所持した必要性、必然性を証明する必要がある。そのための法廷戦術なのか、被告は証言台で赤裸々に「大麻への愛」を語る。これは罪を軽減するために自身と大麻の親和性を被告がみずから説明するという、なかなか奇妙な裁判である。被告の名前は柏原孝介、40代男性。それでは法廷に目を向けてみよう(斉藤さんは法廷でのやり取りの全文を書き起こしており、本文では見所を抜粋しながら構成している)。

斉藤総一さん
※プライバシー保護の観点から氏名や住所などはすべて変更しております。
 
 この日は書証(文書についての証拠を調べること。被告人の携帯電話の発信履歴に関わる者の前歴関係なども含む)の整理に始まり、証人尋問、主質問(=被告人への質問)へと展開します。
 
 まずこの日、最初に行われた宮本さんという柏原被告が勤める宮本興業という解体業者の代表の証言から。なんと今回の事件が発覚した後での雇用とのことです。話を聞きましょう。
弁護人「今回の話を聞いても、柏原さんを雇用しようと思ったのはなぜですか?」
宮本証人「先程も言いましたけども、ウチの社員の新谷という者が、幼い頃から知っていると聞いていることと、こういう事件の本人だけど、新谷のほうから、柏原の面倒は一生見ていくということで、それでまあ、ぜひお願いしますということなので、会社のほうとしても、新谷がそういう風に言っているのであれば、ウチで働いてもらって構わないと言いました。ウチの社員達のほうも、このことを知っていまして、社員のほうも理解しているということで、みんなで頑張ってやろうということで、そういう方向でいきましょうということになりました」

弁護人「ちなみになんですが、被告人以外で前科などがある人っていうのはいらっしゃるんですか?」
宮本証人「いませんね。はい」
 
弁護人「そうすると今回みたいな事件を起こした人を雇うことに不安はなかったですか?」
宮本証人「まあ、でも、ないって言ったらウソになるかもしれないですけど、本人はキチっとやっていくということなんで、まあ過去は関係なく、これから一生懸命やってくれればいいかなと考えています」
 
弁護人「はい。新谷さんという名前が出ましたが、新谷さんはいつから宮本興業さんで働いているんですか?」
宮本証人「この宮本興業を立ち上げた時からなんですが、その以前に専務として私が会社を運営していまして、その時から一緒に仕事をしてくれている人間です」
 
弁護人「すると新谷さんは、あなたがかなり信頼を置いている方だという風にお聞きしてよろしいですか?」
宮本証人「そうですね。はい」
 
弁護人「3月に入社されたということなので、まだ1か月程度ではあると思うんですが、被告人との付き合いをしてみて、どのように感じていますか?」
宮本証人「そうですね。普段私は現場のほうに出ないんですけども、今回そういう機会があったので、柏原君と一緒に現場をやってですね、私が他の仕事をしていて丸一日仕事をしていてできない場合があるので、その時に、柏原君に今日の仕事はここまでなんで、明日はここまでやるからということで、私が先に現場を離れてですね、柏原君に頼んだということで、次の日の朝また私が行くんですけれども、そういう慣れない仕事でしょうけど、きちんと前の日の仕事は終わらせて、終わった時やわからない時は、必ず私に連絡をちゃんと入れる。と、そういうことはキチンとしていると思います。あとは即戦力とはまだまだいかないんですけれども、現場を任せて1人にしておいても心配はないかなと思っています」
 
弁護人「そうすると、仮に柏原さんが服役したり、また犯罪を犯して身柄拘束を受けたりして、仕事ができなくなったとなると、あなたの会社にも当然支障が出るということで間違いないですか?」
宮本証人「もちろんです」
 

被告人の罪を軽減するための証人でもあるので、肯定的な発言は当然かもしれませんが、証人は偽証すれば罪に問われるリスクがあるわけで、このやり取りを読むだけでも被告の人望がうかがえます。2人目の証人は被告人の親戚であり、現在の同居人でもある柿田という人物。この尋問からも被告が根っからの「悪人ではない(であろう)」、その人間性が垣間見えます。その意味では両者とも、意味のある証人尋問となったと言えるかもしれません。
 
弁護人「それでは弁護人の岩田から、お話を伺います。私の質問が終わった後に、答えるようにしてください。まず、あなたと被告人との関係について教えていただけますか?」
柿田証人「自分の妻と孝介君のお母さんは、従兄弟関係で、子供の頃からの知り合いです」
 
弁護人「被告人から見ると、あなたは叔父さんということになるんですかね?」
柿田証人「はい」
 
弁護人「現在なんですが、被告人が保釈手続きで保釈されましてですね、その後は、あなたと同居されているというのは間違いないですか?」
柿田証人「そうです」
 
弁護人「被告人と初めて会ったのはいつ頃ですか?」
柿田証人「3、4歳だったと思います」
 
(中略)
弁護人「例えばなんですが、これまでの間、被告人と食事をしたりですとか、いろいろと話をしたりですとか、そういう機会はあったんでしょうか?」
柿田証人「はい。あの自分は空手をやっているんですが、週末には一緒に空手道場に行ったり、食事をしたりしていました」
 
弁護人「だいたい月に1回程度は会ったりするんですか?」
柿田証人「そうですね。もっと月に2回か3回は会っていると思います」
 
弁護人「被告人には公務執行妨害ですとか、傷害とかの前科があるんですが、それは知っていましたか?」
柿田証人「はい。未成年の時に、お母さんと、おばあちゃんを連れて、面会に行った記憶があります」
 
弁護人「細かいことまでは知らないけれど、そういうことがあったことは知ってるということですね?」
柿田証人「はい」
 
弁護人「被告人の仕事について、被告人から話は聞いていますか?」
柿田証人「音楽関係で頑張っていると聞いていました。ウチの息子も、そういう趣味がありまして、話をよく聞いていました」
 
弁護人「もともとあなたは建築業をやられていたんですか?」
柿田証人「そうです」
 
弁護人「あなた自身は、あなた自身のお仕事で、被告人と一緒に仕事をしたことはあるんですか?」
柿田証人「はい」
 
弁護人「今回の事件のことですが、誰から聞きましたか?」
柿田証人「次男坊の典隆からです」
 
弁護人「どのような事件だと聞きましたか?」
柿田証人「大麻を持っていて捕まったと聞きました」
 
弁護人「大麻を売ってたんじゃないか? という風に思われているというのも聞いていますか?」
柿田証人「そんなことはないと思います!」
 
弁護人「じゃなくてですね、ごめんなさい」
柿田証人「はい」
 
弁護人「売っていたんじゃないか? と警察とか捜査機関から思われているんだっていうことも聞いていますか?」
柿田証人「そういうことをする子じゃないと思っています自分は」
 
弁護人「まあまあ、あの、そういう風に疑われているんだという風に聞いたことはありますか? 実際に彼がやっているんじゃなくてね」
柿田証人「いやー、自分は考えられないですね」
 
弁護人「わかりました(後略)」
 両者とも検察の反対尋問は数問の事実確認程度。証人尋問が終わると今度は主質問に移ります。

弁護人「あなたの大麻の使用歴について、ちょっと聞きますが、初めて大麻を使用したのは19歳の頃ということでいいですか?」
被告人「はい。そうです」
 
弁護人「で、それから、これまで、ずっと使用していたということなんですか?」
被告人「いえ。あの、その、実家が上野に引っ越したりして、23歳から26歳まで実家に住んでいたりした時があったんですけれど、そういう時は、ほとんど吸いませんでした。あと断続的にというわけではなく、はい。そうですね。はい。そういう吸わない時期もありました。はい」
 
弁護人「私の認識だと、19歳の頃からずっと使っていたとなると、毎日毎日大麻を使っていたように聞こえるんですけれども、そういうことなんでしょうか?」
被告人「いえ。聞かれたことに対して、平均的なもので質問には答えています」
 
弁護人「質問には、というのは、警察とか刑事さんとか、そういうことですね?」
被告人「はい。そうです。はい」
 
弁護人「あなたの供述調書を見ると、週に3回から4回くらい吸うと書いてあるんだけど、そうではないってことですか?」
被告人「持っている時はそれくらい吸ったりするということですね。はい」
 
弁護人「大麻は持っていないこともあるんですか?」
被告人「もちろんです。はい」
 
弁護人「まあ、その時にもよるかもしれないけど、1年の期間のうち、どのくらいの期間、あなたはどれくらい大麻を持っているんですか?」
被告人「まあ、半年も持ってないです」
 
弁護人「半年も持っていない時は、なぜ持っていないんですか?」
被告人「年がら年中おいしい大麻があるわけではないですので、そういうことからだと思います」
 
弁護人「お金的にも限度があるということですかね?」
被告人「そうです、そうです。はい。そうです。そのとおりです」
 
弁護人「今美味しいものとは、いいものってことなんでしょうけど、そういういい物はなかなか買えないものなんですか?」
被告人「はい。もちろんです」
 
弁護人「逆に簡単に手に入るというか、簡単に手に入るかもわからないんだけれども、簡単により手に入りやすい、美味しくないけれども。そういった物じゃダメなんですか?」
被告人「はい。何でもいいというわけではありません」
 
弁護人「っていうことはね、せっかくいい物が買えたという感覚なんですよね?」
被告人「はい。そうです。この件では。はい」
 
弁護人「そうすると、その大麻というのは、他の人に手放したくないという気持ちは強いですか?」
被告人「もちろんです。あの…はい、あの、はい。そうですね。お金を出して買っているものなので、それで、好きで、また買っている物なので、はい、大事に、大事に吸いたいという気持ちがあります。はい」
 
弁護人「また、なかなか買えないとなると、なくなっちゃうと、また吸えないわけですよね?」
被告人「はい。そうです。」
 
弁護人「そうすると残りどれくらいあるんだろうとかね、そういう不安というのもあるんですか?」
被告人「もちろんあります。はい。そのため、はい、そうですね。多く買ってしまうことになったり、そのお金に対してすごくあの、細かく几帳面になってしまったりとか、そういうことがあったと思います」
 
弁護人「でまあ、そうやって買った物を大切に保管したいとか、残りがどれ位あるかキチッと把握しておきたいとか、そういったことから、あなたは真空パックして、小分けにして、持っていたということなんですね?」
被告人「はい」
 
弁護人「これ、真空パックにしておかないとダメになっちゃうもんなんですか? あなたの経験上ちょっと教えてもらえますか?」
被告人「あの、私は過去にあのその、長い間、大麻との、あのその、付かず離れずの関係の、あっ、あのなかで…買ったけど、せっかく美味しくて買ったけど、お金を出して買ったけど、次の日保存をしなかったせいで、保存をしっかりしなかったということで、やはり、次の日には腐らせてしまったりですとか、次の日にカビだらけになってしまったりという、もう、買った次の日に処分するということも、そういうこともたまにありました」
 
弁護人「何万円も出して買ったものが、次の日ダメになっちゃったってことがあるってことですね?」
被告人「そうですね。そういうことがあった時は、はい、さすがに、はい、吸えませんでした」
 
 大量に購入したのは、大麻の品質が良く、そうしたものはいつでも入手できるわけではないから。また営利目的、すなわち人に売るために「小分け」していたのではなく、それは品質保持のための行為だったと被告は言います。

とは言え、繰り返しになりますが「営利目的所持」が疑われるほどの量です。被告がそのように大量に消費するようになったのは、ここ10年のことだと言います。そうなった理由が何かあるのでしょうか。その理由として正当性があるか否かはともかく、ここからは被告の複雑な家庭の事情が語られます。
 
弁護人「その10年くらいで大麻をやっちゃってた、特にやっちゃってたというのは、何か原因というのは考えられますか?」
被告人「普段から、あの、その、リラックスしたり、音楽聞いたりしながら吸っていたんですけど、今回その大阪府立神経医療研究センターで、1時間くらい診察を受けたんですけども、もしかしたら母の死が原因なんじゃないかと言われちゃって、もしかしたらそうなのかなあなんて思ったりするところもありました」
 
弁護人「今おっしゃられた大阪府立神経医療研究センターというのは、今回の逮捕をきっかけに、あなたが保釈後通っている病院ですよね?」
被告人「はい。そうです。はい」
 
弁護人「お母様が平成16年に亡くなられたということですよね?」
被告人「はい」
 
弁護人「これ、お亡くなりになった原因は何でしたか?」
被告人「もう、その僕が小さい頃から、母は、薬を1日30錠以上飲むんですよ。朝昼晩と。あの、その薬の副作用というか、肝不全で、はい。亡くなりました」
 
弁護人「薬という話が出ましたが、何の薬だったんですか?」
被告人「薬はハッキリとは全てはわからないんですが、まあ、精神的な薬であったり、痛み止めとかもあったと思うんですけれど、そういうのですね。はい」
 
弁護人「お母さんは精神病とおっしゃっていましたけど、何か精神の病にかかられたというのは、いつ頃なんですか?」
被告人「事故の前後だと思います。はい。事故じゃない、あっ、事故か。事故があったんですけど。」
 
弁護人「事故の前後って交通事故っていうことですか?」
被告人「そうです。はい」
 
弁護人「ちょっと質問変えて、あなたのお父さんはどうなっているんですか? 今は?」
被告人「私の父は、まず、あの、私が2歳か3歳の時に、父と母は、あの別居して、父とは、その後、そうですね、ほとんど会っていません」
 
弁護人「別居と言ったけれども、お父さんお母さんは離婚されたんだよね? お母さんは、それを原因に病気を患ったんではないんですか?」
被告人「……」
 
弁護人「まだ、あなた小さかったから全然わからなかったかもしれないけど」
被告人「…だと思います」
 
弁護人「で、お母さん、あの交通事故って話もあったんだけれども、交通事故っていうのは、どういうことだったんですか?」
被告人「……えーと、(涙声)離婚が原因で、だと思うんですけど、それで、あの、自ら、その、車に……(グスッ)、そうですね、飛び込んでしまって、その事故が、交通事故です」
 
弁護人「その交通事故が原因で、お母さんは車イスの生活になっちゃったんですもんね」
被告人「そうですね。小さい頃から、はい。母は車イスでした」
 
弁護人「うん。まあそんなこともあって、おばあちゃんと、3人で一緒に暮らすということになったんですよね?」
被告人「……(涙で声が出ず、ただただ頷く)」
 
弁護人「それで、お母さんが亡くなられた時、あなたは、どういう状況に陥りましたか?」
被告人「そうですね。その際は、10年前は、亡くなった時は、2、3日ずっと涙が止まりませんでした」
 
弁護人「お母さんに、親孝行してあげようとか、そういうことは思っていたんですか?」
被告人「はい。そうですね、当時、祖母と、その事故で母が入院して、それで退院してきてから、祖母と母と私と3人で暮らすようになったんですけど、順番的には祖母が亡くなるんだろうなと思って、父もいないことですし、しっかりしなきゃ、あの、自分の家のことも、自分の仕事も、人間的にもしっかりしなきゃな。ということで、そうですね。祖母がいる間にと思って、全力でやっていたんですけれど、どうやら母も、体力がもたず……」
 
弁護人「あなた音楽頑張っていたという事だけれども、あの音楽ではそこそこ、メジャーと言っていいかわからないけど、っていうところまでいっているんですよね?」
被告人「はい。それで食べていた時期も随分ありました」
 
弁護人「ところがお母さんいなくなっちゃって、ある意味、ちょっと糸が切れちゃったような精神状態になったと、お聞きしていいですか?」
被告人「そうですね。ここ10年間くらい、あの、振り返ると、地に足がついていなかったんじゃないかなと思うところもあります」
 
(中略)
弁護人「今回の件を機に本気で大麻を断絶しようという風に考えていますか?」
被告人「はい。もちろんです」
 
弁護人「その決意を持って、大阪府立神経医療研究センターとか、南斗総合精神保健福祉センターとか、宮坂医院に通院することになったということでいいですか?」
被告人「そうです」
 
弁護人「それぞれの病院では、どういう治療を受けているのか簡単に教えていただけますか?」
被告人「大阪府立神経医療研究センターでは、まず、すごく遠い場所だったんですけれど、府立ということで、信頼を持って、そこでは診察を受けました。1時間半くらい診察を受けました。そこで、遠いでしょうということもあり、先生は薬物依存に対しては、集団カウンセリング、集団セッション、その勉強会みたいなのが、私が住んでいる中央区にあるので、受けてみてはどうかと、そういうことと、その、家の近くに、昔母が通っていたことがある宮坂医院というところに精神科があるので、そこで診療を受けてみたらどうだということで、集団セッションと宮坂医院の方で治療と通院をさせてもらって、少ないんですけれど、処方箋も出していただいています」
 
弁護人の質問は被告の重い過去に迫り、被告は大麻をやめるために以前母が通院していた病院に通うようになったと言います。担当の弁護人はまるでこれまでの伏線を回収するかのように畳み掛けます。
 
弁護人「今ね、宮坂医院にお母さん通院していたということなんだけれども、そうすると余計そこに通院するというのは気持ち的に辛いんじゃないですか?」
被告人「はい」
 
弁護人「うん。それでも通院しようと思ったのはね、お母さんのためにも本気で大麻をやめようと考えたということでいいですか?」
被告人「母のためでもあるんですけど、会社を紹介してくれた新谷やら、会社の社長やら、あの支えてくれる叔父さんやら、はい、自分自身のこれからのためにも、はい、そうですね、しっかり通いたいと思いました」
 
弁護人「今日来てくださった宮本社長もね、あなたがもし懲役に行ったり、また逮捕されたりとかしたら、当然迷惑かけますよね?」
被告人「はい」
 
弁護人「柿田さんもこうやって来てくれて、わざわざお話してくださった、そういうことをね、皆さんに迷惑をかけたことについて、あなたは、どういう風に感じていますか?」
被告人「大変申し訳なく思っております」
 
弁護人「あなたには、前科のある友人もいるみたいだけど、今後そういう人とのお付き合いどうします?」
被告人「もちろん断ちます」
 
弁護人「でね、今お母さんいらっしゃらないけどね、今のあなたを見たら、どういう風に思うと思いますか?」
被告人「いや、もう、情けないというか。はい」
 
弁護人「今回の件を通じて、十分反省していますね?」
被告人「はい」
 
弁護人「うん。以後薬物に関わらず、2度と犯罪を行わないと誓うことはできますか?」
被告人「はい。誓います。その気持ちでいっぱいです」
 
弁護人「ちょっと時間がたくさんかかっちゃいましたけど、最後に裁判官と警察官とかね、その他の方々にね、何かあれば手短にお願いします」
被告人「はい。本当にあの、ご迷惑をおかけして、本当に申し訳ありません。周りで支えてくれる人に対して心配かけてしまって、本当に申し訳ないなと、いい歳なのに本当にバカだったなと思います。あと、亡くなった母にもそうなんですけど、父にもそうですし、祖母や、祖父やら、みんないなくなってしまったんですけど、ここ10年で。やり直す、こういう事をしないという事は誓いたいですし、はい。誓います」
 
弁護人「最後といってアレですけど、一点だけ、お母さんの話も出て、おばあちゃんの話も出たんだけども、あなたのお母さんとか、おばあちゃんとか、迷惑かけた人と、みなさんにですけど、その人たちに誓って、あなた本当に売る目的で持っていなかったと誓えます?」
被告人「はい。誓います」
 
弁護人「以上です」
 
 結論から言えば、被告人はこの裁判で執行猶予付きの判決を勝ち得ます。働く場所を用意し、実際に大麻を止めるため通院するようになったのも理由のひとつでしょう。この運びを見ると、しっかりと物語を作ってきた弁護人の手腕にも見るべきものを感じますが、いかがでしょうか。長かった裁判もこれでいよいよ結審です。
 
裁判官「では、このまま判決の宣告をしますので、聞いていてください。主文、被告人を懲役2年10ヶ月および罰金70万円に処する。未決勾留日数中80日を、その懲役刑に算入する。その罰金を完納する事が出来ない時は、金5000円を1日に換算した機関、被告人を労役に留置する。この裁判が確定した日から4年間、その懲役刑の執行を猶予する(後略)」
            ***
 本文では割愛したが、上で触れている弁護人の質問に続き、実際には結審の前にまだいくつかやり取りがある。検察官の反対尋問もその一つだ。被告人が罪の軽減のために弁護人が作ったストーリーに乗るのは当然としても、この期に及んで検察官の質問に、被告はまるで条件反射のようにまだ大麻への愛を語ってしまう。
検察官「先ほど大麻について、美味しいという表現を使いましたけど……」
被告人「はい」
 
検察官「それは具体的にどういう意味ですか?」
被告人「えーと、えーと、何て言うか、お酒と一緒で、その、まず香りだとか、その、香り、その香りの奥行き、香りの芳醇さ、鼻から抜ける感じですとか、まあ、その、何というか、香りの濃厚具合だとかもそうなんですけど、あと、口をつけた時の甘みだとか、煙の味ですとか、乾燥具合や熟成度、エフェクト、そういうのも含めて全てなんですけど、その、大麻に関しては、その、そうですね、香り、見た目だとか、その色々口当たりだとか、その、口当たりから喉越し、そして、身体に対する反応ですとか、そういうのが、その、上がったり下がったりもそうなんですけど、そういうものを含めて美味しいということです。はい」
 
 この尋問は、もはや営利所持を回避するための作戦という段階は終わっており、この証言が被告人に有利に働くとは思えない。だが、亡き母を思いむせび泣いた後にこうした発言をしてしまうのは、むしろ被告人の正直な人間性を伝えているようにも思える。そうした根本的な被告の人間性ゆえ、証人たちは心ある証言をしてくれたのかもしれない。