東京タワー昇ったことある?

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ーー写真に映った東京タワーは、とても綺麗だった。

 

ある日、東京にいる親戚の叔父が家にやって来たときだ。

 

叔父は、無名ではあるが写真家を名乗っていた。

そして家に来る度に撮った写真を見せてくれるのだ。

 

私は、その人が有名にならないのが何故かわからないほど、その人の撮った写真が好きだった。

 

だから、私はその人がやって来るのをとても楽しみにしていた。

 

「これなーんだ?」

そう言って、見せてくれたのがその東京タワーだった。

 

遠くからみるような全体を写すような写真ではなく、真下から写した、臨場感溢れる絵だった。

赤色は、普段私が良く見るような目に来る色ではなく、やや黒ずんだものだったと記憶している。

 

叔父はよく、私にクイズを出して来る。

いつもはかなり難しいのだが、今日のはあまりに簡単だった。

 

わかりやすすぎて、「あれ?」と思ったくらいだ。

 

「知ってるよ、東京タワーくらい」

私は少し、むっとした。

私は確かに田舎に住んでいるが東京タワーくらい授業で聞いたし、東京タワーだって随分前に建てられたものだ。

その人の、自分を試すかのような物言いが、私は気にくわなかった。

 

「じゃあ、何でそう思った?」

私の怒りを含んだ言い方に気づいているだろうに叔父さんはそのまま、試すような調子を続けた。

 

すぐに「正解!」と言われるかと思っていた私は目を少しの間ぱちくりした。

 

しかし、叔父の喋り方があまりに真剣だったので、私は怒るのをやめ、「何か意味があるのだろう」と目の前に出された質問に向き合った。

 

「うーん、見たことあるからなあ」

「でも、それが東京タワーとは限らないよ。赤いタワーなんて、探せばいくらでもあるだろうし」

 

その通りだった。

しかし、何故か、私はそれを東京タワーにしたかった。

私の頭が、「何と言おうと東京タワー」と判断していた。直感的に。

 

「うーん、何か凄く高そうだし」

「撮りによってそんなものはどうにだってできる」

「何か、古そうな赤色だったから・・・・・・」

「そんなのペンキで塗ったものかもしれない」

「えー・・・・・・」

 

私は正直困惑していた。

いつもはあっさりとその場所の説明をしたりする叔父が、今日はクイズを続けている。

しかも言い方は何か攻めるかのように。

顔は全く怒っていないのに。

何がしたいのだ、叔父は。

 

「俺が怒っているように見える?」

「うん、見える」

「・・・・・・別に、怒っている訳ではないよ。ただ・・・・・・」

「ただ?」

「理解して欲しいんだ。何故俺が写真を撮っているかを」

「うん」

「今日のクイズ、もし答えられたら俺の大切なものをお前にあげようと思う」

 

だから、と叔父は続けて言った。

 

「お前が思ったまま、答えて欲しい」

 

と。

 

叔父のその言い方に、私も何か答えないと、と焦りを感じた。

何か真剣に返さないと、取り返しのつかないきがした。

 

しかし、思ったままとはどういうことだろう。

 

私は、本当に何となくしか・・・・・・

 

「・・・・・・何となく?」

「ん?」

「何となく、オーラがそんなのだったから?」

 

目の前の写真をもう一度見て、私は言った。

 

本当に何となくなのだ。

この、臨場感も、黒ずんだ赤も、高さも、それと調和する空さえも。

全てオーラがある、と感じた。

 

正に私の直感的なものだった。

 

私はちら、と叔父を見た。

叔父は無言で私を見つめている。

その目を私も見つめ返すと、瞳に私が映って、自問自答をしているかのような気分になった。

いや、違う。

叔父と、一体化した気分になって。

少しの間、それが続いた。

そしてしばらくして叔父は目の動きを変えて。

瞳しか見ていなかった私はその動きにつられて、はたと、叔父の顔全体を見た。

 

その叔父は満面の笑みを浮かべてーー

 

 

「そして、これをくれたんだ」

 

私は、今目の前に力強く立つ、タワーに話しかけた。

 

首から、一眼レフを掛けている。

叔父がくれたのはこの愛用していたカメラだった。

新しいものが、次々売られる中、叔父だけはそのカメラを使い続けていた。

 

叔父はその後、亡くなった。

もうあまり、出歩けるような体調ではなかったらしい。

 

でも、自然と喪失感はなかった。

このカメラと、ある言葉を残してくれたのだ。

 

“写真家って言うのに、俺はやり甲斐を感じている。

そもそも写真は本物には叶わない。

本物は本物にその雰囲気で凄さがわかるんだ。

写真を撮るっていうのはその雰囲気を補助してやるものだと思うんだーー„

 

ここに来てみて、写真を見ると本物に比べ物にならなかった。

 

目の前に立つそれは空に向かってあまりにも高くそびえたち、自分を小さく思わせた。

あまりの迫力にこちらに傾いて来そうで軽く、目眩を覚える。

 

本当に、オーラが溢れていた。

 

思えば、私は昔から、流行りに流されない性格だった。

昔から、みんなが流行りのアイドルに夢中な時に、演歌を延々と聞いているような子供だったし。

もしかしたら、そういう性格だから、叔父の話を素直に聞けたのかもしれない。

そして、東京タワーを今も好きなのかもしれない。

 

思い返せば、あの時、私が写真を見たその時点で私は東京タワーに惹かれていたのだろう。

 

 

実は同じ東京に、とあるタワーができたのだった。

東京タワーより、うんと高い。

 

そして、それができた途端、話題はそれで持ちきりになり、みんなはそちらに夢中だった。

 

別に、人がいない訳ではないが、ごく少数になった。

その内、昔のもの好きが来て、それにより『古い物』という扱いを受ける日が来るのかもしれない。

 

そうだとして本当に東京タワーを愛しているのは何人いるか。

 

叔父の気持ちが少しわかった。

 

「やり甲斐がある」

 

全くもってそうだ。

 

 

 

 

私は願いがある。

 

私は、写真を撮り続け、みんなに見て欲しい。

 

そして、理由のない、物の価値を感じて欲しい。

 

なんてね。

後書きです。

 

本来、この話はあらすじの通り

 

『東京タワーの下で、時が止まったままの女の子の話=話に乗れない女の子の話』的なことを書くはずだったけど何故かこうなった。

 

私はよく人に『変な趣味してる』と言われるけど、別に好きでそうなったわけじゃない。

みんなが見ているものがあまり楽しめなくて自分が好きなものを求め続けた結果こうなったわけで。

 

なのに「変な趣味持ってる俺かっこいいとか思ってんだろ」と言われたり、共通の話題を持たないと友達ができなかったり。

 

面倒です(´・~・`)

 

(と友達が出来ない言い訳をしてみる)

 

とりあえず、一言。

 

愛してるよ、東京タワー。

 

 

 

閲覧、ありがとうございました。