芸能ニュースやテレビなどで「あのタレントは干された」など、干されたというキーワードを耳にする機会もあるかもしれません。
 
 芸能界だけではなく一般社会、しかも会社で干されたという人に取材をしてきました。某メーカーで企画の仕事をしていた麻美さん(仮名・28歳)の話です。

入社3年目でヒットメーカーに
「昨年、会社を辞めました。自主退職だったんですけど、干されたうえに最後はケンカ別れでしたね」
 麻美さんは明らかにイライラした様子でそう話します。
 
「もともと事務職だったんですけど、入社2年目に社内であった新商品の企画コンペに応募して、社長賞をとったんです。それで、企画・開発部からお声がかかって異動。そこから社会人人生が激変しました」
 
 一体なにが起きたのでしょうか。
「開発部のM部長がすごく目にかけてくれて、指導をしてくれたおかげもあって、異動1年目で大ヒット商品を生み出したんです。もちろん私だけの力じゃありませんよ。でも、アイデアの発案者は私、ということで社内でも一目置かれる存在になりました」
 
ヒット商品で順調なキャリアがスタート!?
 わずか1年でヒット商品を生み出すとは、なんとも目覚ましい活躍です。そんな麻美さんの社内での扱いも特殊なものとなっていきます。
「大きなプロジェクトにも主要メンバーとして選ばれるし、社内報にも掲載されるし、完全に“期待の若手扱い”でした。職場でちやほやされて完全に調子にのっていましたね」
 
 ところが順調なキャリアはここまでだったと麻美さんは言います。
 
「期待の若手ということで、今まで以上に仕事をふられたんです。明らかに他人より仕事量が多いんです。残業につぐ残業で、持ち帰り仕事も多く、休日出勤も当たり前。まったくプライベートのない状態で常にピリピリ、イライラ。気付けばチームの先輩を平気でどやしていましたね」
 
 麻美さんが語る「先輩をどやす」とはどういうことでしょうか。
 
「自分で言うのもなんですけど、私は仕事ができるので、仕事ができない人がすぐに目につくんです。年上だろうがなんだろうが、ミスの多い人、効率の悪い人・精度の低い人を見つけたら、徹底的に追求してましたね」
 
 自分で「私は仕事ができるので」と、言い切ってしまうとは。先輩からしたらだいぶ扱いにくい後輩かもしれませんね。
「CCにM部長を入れたうえで、全員メールで同僚の間違えを指摘したり『前も同じことしてましたよね? どういうつもりですか?』と人前で責めたり、『なんで私はこんなに仕事をしてるのに、あなたはロクに仕事もしてないうえにちゃんとできないの?』っていうイライラがたまっていたんだと思います」
 
「もう辞めます」のやりとりが快感に
 結果、どうなったんでしょうか。
 
「人事から注意を受けましたね。『メンバーから苦情が出ている。チームワークを大切にしてくれ』と。でも、それでさらにイラついたんです。『私はこんなに仕事して、誰よりも結果を出しているのになぜ褒められるどころか責められるのか』と」
 
 そこで麻美さんは決定的な一言を人事に切り出します。
 
「3回目に注意を受けたときに、イライラも限界にきていて『辞めてもいいんですよ。というかもう辞めたいです』と言いました。そもそも会社は若手不足なうえに使える人材も少ない。私はヒット企画をいくつか出して、将来も切望されて、M部長もいたので強気になっていたんです」
 
 まわりの反応はどうだったんでしょうか。
 
「人事の顔色が変わりましたね。『頼むから考え直してほしい。でも注意しないと人事の立場もないし、わかってほしい』と。すごくいい気持ちでした。」
 
あなたと同じチームで仕事をしたくない
 
 麻美さんはこの一言で気持ちが大きくなります。
 
「そこからは伝家の宝刀じゃないですけど、なにか嫌な事があったり社内でぶつかるたびに、『辞める』ワードを使っていました。もはや人事だけじゃなくて、同僚の前でも平気で言うようになっていましたね」
 
 そんな横柄な態度が続き、麻美さんは再び人事に呼ばれたそうです。
 
「『あなたと同じチームで仕事をしたくないという苦情が数名のメンバーからきています』とはっきり言われました。それを聞いて、『どうして守ってくれないの!?』と思い、いつものように『じゃあ辞めます』と言ったんです。そしたらあっさり『わかりました。退職通知は2か月前にはお願いします』と」
 
 なんとも急な展開です。さらに最悪なことにM部長は他部署に異動になっていたそうです。
 
「ここからは泥仕合ですね。M部長にも泣きつけないし、でもなんとかひきとめてほしくて、新しい部長に直談判にいきました『人事にこんなヒドイことを言われた』と。でも部長も『俺にはどうにもできないよ』と突き放されました。さらには『キミがいることで、今のチームにはマイナスな要素になっている』とまで言われました。むかつきすぎて『そこまで言うなら、本当に辞めます! 後悔してもしりませんからね!』と言い放ち会議室をでました」
 
 まるで痴話喧嘩のようです。
 
「部長は追いかけてもくれなかったですし、フォローのメールも来ませんでした。言った以上はもう残れないと思って、自主退職にふみきりました」
強気な発言の末に退職までの予兆
 
「今、思い出せば自主退職だったんですけど、辞める半年前から仕事も干され気味でしたね。戦力になる若手も何人か育ってきていることにも気付かず、いつまでも若手でヒットメーカー気取りだったんです。最後のほうはヒット企画も出ず、仕事もそんなに振られなくなっていたんですよね。でもそんなこと、気にもしないでオラついてました」
 
「またヒット商品が出せるように、猛烈に働いています」と語る麻美さんは現在、別メーカーで企画・開発の仕事をしているとのことです。
 強気な発言を繰り返していた彼女の肩が小さく震えていました。いつか報われる日が訪れてほしいですね。