堺市で大型バイクが車に追突され、バイクの男性が死亡した事件で、殺人容疑などで逮捕された堺市南区茶山台2丁の警備員、中村精寛(あきひろ)容疑者(40)が、バイクに追い抜かれた直後からクラクションを鳴らすなどして追跡する「あおり運転」を始めたことが大阪府警への取材でわかった。中村容疑者は約1キロ、約1分間にわたり追跡を続け、追突。府警は追い抜かれたことに立腹したとみている。

 

 

 交通捜査課によると、中村容疑者は2日午後7時35分ごろ、同区竹城台1丁の府道で、大学生の高田拓海(たくみ)さん(22)=堺市西区=運転のバイクに故意に追突し、脳挫傷などで死なせた疑いがある。中村容疑者は「(バイクが)前を走っているのは気づいていたが、ぶつかってしまった」と供述。故意に追突したことは否定している。

 
 中村容疑者はいったん現場を離れたが、数分後に戻り、110番通報したという。ほかにも通報があり、現場に駆けつけた捜査員に自動車運転死傷処罰法違反(過失運転致傷)容疑で現行犯逮捕された。
 
 同課が中村容疑者の車のドライブレコーダーなどを解析すると、高田さんのバイクが左側から中村容疑者の車を追い抜いた直後から、中村容疑者が約1キロ、1分間にわたり、加速して急接近しながらクラクションやパッシングを繰り返していた様子が映っていた。1度車線変更し、追い越し車線で前部からバイクに衝突していたという。
 
 現場は交通量の多い幹線道路で、帰宅ラッシュの時間帯と重なっていた。車間距離や速度を含め、このまま走行して追突すれば相手が死ぬかもしれないという「未必の故意」があったと同課は判断。殺人と道路交通法違反(ひき逃げ)容疑で3日に逮捕した。
 
 あおり運転をめぐっては、2017年6月に神奈川県の東名高速で他の車にあおられて停止したワゴン車が大型トラックに追突され、夫婦が死亡するなど、重大な結果につながる事故が相次いでいる。(高木智也、光墨祥吾)
 

 

■亡くなったその日、高田さんの母親は…
 
© 朝日新聞 衝突までのイメージ

 亡くなった高田さんは、大阪府内の大学に通う4年生。バイクを愛し、来春の卒業後には、バイク関連の会社への就職が決まっていた。親族らによると、アルバイトを終え、帰宅途中に事件に巻き込まれた。
 

 

 「決してスピードを飛ばしたり、トラブルに巻き込まれたりする子ではない」。高田さんのおじ(41)は、取材にこう話した。

 高田さんは小学校から野球を始め、府内の強豪校の野球部に在籍し、寮生活をしながら甲子園を目指していたという。大学へ進んだ後、1年ほど前に大型バイクの免許を取得し、購入。近所の住民らは、自宅ガレージで整備する姿をよく見たという。
 
 亡くなったその日、高田さんの母親は帰宅する息子のために、夕食を作って待っていたという。おじは「面倒見の良い子だった。気持ちの整理がつかない」。祖父(77)も「真面目で優しい子。まだこれからの人生だったのに。追いかけられてどんな気持ちだったのだろう」と悔やんだ。(新田哲史、細見卓司)
 
■警察庁は摘発・捜査徹底を指示
 
 「あおり運転」をめぐっては、神奈川県の東名高速道路で昨年6月、夫婦が死亡する事故が発生。その後も各地で同様の事案が相次いでいることから、警察庁は1月、道路交通法違反での摘発のほか、危険運転致死傷(妨害目的運転)や暴行などの容疑の適用も視野に入れた捜査の徹底を都道府県警に指示していた。6月には全国の高速道路で初めてとなる「あおり運転」の一斉取り締まりも実施。道交法の車間距離保持義務違反で1週間に1088件を検挙した。
 

 道交法は、著しく交通の危険を生じさせる運転者を「危険性帯有者」として、最長180日間の免許停止にできると定めている。警察庁はこの規定に着目し、一般の運転者に危険を生じさせる「あおり運転」をした者を危険性帯有者として免許停止処分にするよう示した。警察庁によると、交通トラブルから危ない運転をして傷害や暴行などの事件を起こし、免許停止処分を受けた危険性帯有者は昨年まで年間数件だったが、今年は5月までの速報値で24件に上っている。