――犬山さんは仕事上の人間関係で困った経験、ありますか? 読者からもこの手の相談がとても多くて、会社の体質的にパワハラ・セクハラが横行していたり、理不尽なお局様がはびこっていたりと、皆さん頭を抱えているようで……。
ありますあります。私はとにかく我が強いので、デビュー直後はそれを良しとしない人たちからけっこうたたかれました……。それにしても、古い体質の会社の理不尽な上司とかキツそうですよね。
ひとつ大切なのは、まず近い距離に味方や理解者を作ることかなと。不満を言い合える同僚や先輩がいるだけで悩みはかなり緩和されますし、案外、「皆あの人のことでイラついてたのか」と思えるだけで満足できたりするものです。
あと気を付けたいのが、ネガティブなことやマイナス要素の持つ強力な伝染力。理不尽なお局様を忌み嫌っていたはずなのに、他にはけ口が見つけられないまま我慢してその人と日々時間を過ごし続けた結果、いつの間にか自分もお局様と全く同じ態度を後輩に取っていた……なんてことも。怖いですよね。
こんな風に感化されることがないよう、一定の距離を保って付き合うことを意識したほうがいいでしょうね。私がかつて社会人時代にやっていた対策としては、不機嫌なお局様の対極にあるような、太陽のように明るくいい先輩と付き合うようにすること。そしてお局様と対峙しなくちゃいけないときには、「この人はどうしてこうなってしまったんだろう?」と背景を考えたり、「私は絶対に感化されない」と心に壁を作ったりして接していました。イメージとしては、人間力がマイナス50の人がいたら、それを補うようにプラス50の人を見つけて相殺する感じでしょうか。
いずれにせよ、困った人や事案があった場合、一人で戦うのではなく、たくさんの人に相談してから行動に出たほうがいいと思います。また同業他社にも知り合いを持つと、自身の会社での「当たり前」が実は非常識だった、なんてことに気づけるきっかけにもなります。
とにかく孤独な状態で立ち向かおうとするとメンタルを壊しやすいので、そこだけは気を付けてください!
――一人ではなく複数で立ち向かうことが大事なんですね。その一方で戦うこともできず、逃げることにも罪悪感を感じてしまう人も多い気がします。
真面目な方や優しい人ほど、「逃げる=悪いこと」と思って我慢しがちなんですよね。でも口酸っぱく言いますが、己のメンタルが何よりも大切です。周りに一人も理解者が得られそうになかったり、会社の業績がダダ下がりして誰も彼もが不機嫌になったりしているような状態はどう考えても働きにくいと思うので、そこはさよならしちゃっていいと思いますよ。
そもそも、職場の人間関係が嫌で辞めて転職した人ってだいたいみんな、前よりイキイキして働いているんですよ。これがひとつ正解を物語っていると思います。
我慢は一晩で十分 「自分さえ我慢すれば」は厳禁
「自分さえ我慢すれば……」という考え方で本当の気持ちを押し殺し続けると、ボディーブローのようにじわじわと心身がむしばまれていきます。その結果、人間関係ごときで大好きだった仕事まで嫌いになってしまうこともあるんです。これって一番もったいないことだと思うのです。なので、我慢するのは一晩で十分。
私は仕事でモヤモヤすることがあったら、まず自分が言いたいことをバーっとメールの下書きに書いて、一晩寝かせるんです。
そうして翌日読み返してみるとだいたい、言いたいことの本質とはズレた感情的な言葉がたくさん入っているので、それを添削して本当に伝えたいことを3行分くらいにきゅきゅっとまとめて相手に送るようにしています。
とはいえ、自分が相手より年下だったり、新人のうちは言い出しにくいですよね。私自身、デビューしたての頃は「これを言ったら面倒なヤツと思われて仕事がなくなってしまうかも……」とおびえて、自分のポリシーを曲げてまで理不尽な相手との仕事をやり続けたことがありました。
でも、今振り返れば我慢してまでその仕事をやる意味って全然なかったなと思います。もしあのとき自分の考えをぶつけた結果仕事を干されたとしても、そんな相手とは付き合わないほうがいいですし、自分が誠実に仕事をしていれば、理不尽さを指摘したからといって変な噂が広まって誰とも仕事ができなくなる、みたいなことってそうそうない。フリーランスは特に足元見られやすいですからね(笑)。ギャランティについても言いにくい空気がありますが、仕事なんですからきっちり交渉したほうがいい。
逆に思いを正直に伝えることで相手の評価が変わったり、実はすごく信頼できる人だったと判明することもある。あと、単純にちょっとした手違いや思い違いでカリカリしてしまった自分に気が付くこともありました。
好きな仕事をずっと好きでい続けるためにも「少しの我慢」なんて軽く考えず、自分の思いをきちんと伝えていくことが、「仕事を守る」ことにつながると思います。