なぜ炎上?HIKAKINが飼い始めた人気猫種の、知られざる悲しみ | トピックス

トピックス

身近で起こっている動物に関する事件や情報の発信blogです。

8/3(金) 11:00配信  現代ビジネス

 

 

 

なぜ炎上?HIKAKINが飼い始めた人気猫種の、知られざる悲しみ

写真:現代ビジネス

 

 

----------

●人気品種10年連続1位の猫に何が?
 

 “スコティッシュフォールド”は、折れ曲がった小さな耳、ふくろうのような丸い顔に加え、性格もおとなしく飼いやすい、として長い間人気を集めている。アニコム損害保険株式会社が毎年発表している人気猫の品種ランキングでも10年間1位を獲得したというほどダントツ人気の品種だ。

私も話題になっている動画を見てみたが、仔猫はスコティッシュフォールドの中でも人気の“折れ耳タイプ”。名前の通り、まん丸な顔も特徴的だ。コメントには「やっぱりスコが飼いたい!」、「猫飼うならスコだよね」という声も多かった。

 確かに、スコティッシュフォールドは、愛くるしく、かわいい。この仔猫には罪はなく、丈夫に育ってほしいと思う。しかし、かわいいから、人気ランキング1位の品種だから、有名人が飼い始めたから、とスコティッシュフォールドを飼うのには、さまざまな問題がある。「かわいいんだからいいじゃない」では済まされない、スコティッシュフォールドが「生み出された」背景をぜひとも知ってほしいと思う。

 

 

●誕生してから歴史が浅い新しい品種
 

 スコティッシュフォールドは、1961年にスコットランドの農園で、耳が折れた猫が生まれたことが発祥とされている。折れ耳のそのメス猫は、“スージー”と名付けられ、2年後に複数の仔猫を出産した。すると生まれた仔猫の中にも、折れ耳がみつかり、遺伝することが確認され、折れ耳猫の繁殖計画が開始された。スージーの子の折れ耳の雌猫はブリティッシュショートヘアという品種の猫と交配され、“スノーボール”という白猫が展覧会などへ出されるようになった。

 その後、1971年にアメリカの遺伝学者の元へ数匹の折れ耳猫が送られ、ブリティッシュショートヘアやアメリカンショートヘアと交配が進められた。品種改良を重ねた結果、1994年に“スコティッシュフォールド”という新しい品種として公認された。品種としてはまだ歴史は浅いのだ。

 

 

●軟骨異常で、一生、体は痛み続ける
 

 スコティッシュフォールドの一番の特徴は、“折れ曲がった小さな耳”だ。他の猫にないこの特徴が人気の最大の要因になっている。ところがこの折れ耳は、実際には、“軟骨の異常によって起きた奇形”を固定したものだ。先ほどお話した、スコットランドの農園で、たまたま耳の折れた奇形の猫が生まれ、新しい形状が面白いと繁殖が試みられたのだ。

 しかし、この軟骨の異常は、都合よく耳だけに現れるわけではない。正式には『遺伝性骨軟骨異形成』と呼ばれ、容赦なく四肢にも症状が現れる。早ければ生後数ヵ月で発症することもあり、痛みによってジャンプができない、痛くて歩きたがらない、触ると嫌がる、などの症状が起ってしまうのだ。折れ耳の猫には、ほぼ100%の確率で、何かしらの症状が出ると言われている。

 発症した場合、グルコサミンなどのサプリメントで症状を緩和する、臓器に負担をかける鎮痛剤を一生使い続ける、低線量放射線の照射をして痛みの緩和をする、外科手術を行うなどの治療が行われる。しかし、どれも対症療法のみで、根本的な治療法は見つかっていない……。少し厳しい言い方になるが、生涯痛みを感じ続ける生き物を“面白くかわいい外見”を求めた人間が、生み出してしまったのだ。

 

なぜ炎上?HIKAKINが飼い始めた人気猫種の、知られざる悲しみ

これが「スコ座り」 Photo by iStock

 

 

●かわいいしぐさも痛みが関係していた
 

 スコティッシュフォールドが人気の理由は外見だけではない。性格も穏やかで、愛らしいしぐさにもファンは多い。もっとも特徴的なのは、通称“スコ座り”と呼ばれる、後ろ足を前に投げ出した座り方だ。人間のようなしぐさで、SNSなどにもよく写真が投稿されている。

 しかしこの座り方は、脚に体重をかけると痛いため、彼らは苦渋の策として、脚を前に投げ出しているだけだ。また、プレーリードックのように“後ろ足だけで立ち上がる”しぐさも、痛みでジャンプができないがために、立ち上がって遠くを見ているしぐさでもある。“穏やかでおとなしくあまり動かない”のも、脚が痛かったり、関節に異常があるため活発に動けないだけなのだ。

 

 

 彼らの痛みを理解せずに、そんなしぐさを単に「かわいい」と喜んで写真を撮る人間を、猫たちはどう感じているのだろうか? 撫でられるのが嫌いなスコティッシュフォールドも多く、痛みに耐えながら「そっとしておいて……!」と人間に訴えかけているのかもしれない。

 

●海外では繁殖禁止もあるが、日本では……
 

 スコティッシュフォールドには、さまざまな身体的問題が発生するにもかかわらず、「ペットショップで売っているじゃない」、「飼っているけどうちの子は元気だし」と思う人もいるだろう。しかし、遺伝疾患に関しては、さまざまな研究機関や医療機関でも問題視している。イギリスの猫の品種登録団体GCCFは、1974年から、繁殖すべきではないとこの種の登録を取りやめている。

 ところが、日本では規制は一切ない。逆に、人気品種の猫ということで、無制限に繁殖が行われている。ブリーダーの中には、軟骨異常が強く出る折れ耳同士の繁殖を禁止する倫理を設けているところもある。しかし、ペットショップの多くは、立ち耳タイプは売れ残るため、折れ耳タイプを仕入れたがる。そのため、もっとも障害が出てしまう折れ耳同士を繁殖させ、大量に人気の品種を生み出す、という流通が止められないのだ。

 しかも、スコティッシュフォールドと暮らしている人の中にも、この問題があることを知らない人も非常に多い。私が運営している施設内の動物病院にもスコティッシュフォールドと飼い主が治療に来るが、関節疾患などが多いため、医療費がかかり、介護が必要になる可能性が高いことも覚悟の上で迎え入れたのか、と聞くと、「そんなことは知らなかった」、という人がほとんどだ。

 さまざまな治療で、高額の医療費がかかった人の中には、「ただかわいい猫を飼いたかっただけなのに……」と後悔する人もいる。つまり、販売時にペットショップでは、スコティッシュフォールドが持つ遺伝的リスクについて十分な説明を行なっていないことが推察されるのだ。

 

なぜ炎上?HIKAKINが飼い始めた人気猫種の、知られざる悲しみ

足の短いように繁殖した「マンチカン」Photo by iStock

 

 

●“おもしろい外見”=“かわいい”という価値観
 

 病気の動物のために通院や介護が必要になったら……。飼う前に覚悟をしていても、時間のやりくりや金銭面など、ケアが長期間に渡るほど途方にくれる人も多い。動物を迎え入れた途端にケアが必要となると、飼い主への負担も大きくなる。せっかく動物と一緒に暮らすのなら、互いにとって幸福な時間を過ごせるのが理想だ。

 もちろん、予期せぬ病や事故もある。が、人間が近親交配を繰り返し、無理やり作り上げた品種で、互いが不幸になるのはとても悲しいことだ。猫も犬も、原種と離れた特徴を持つ品種は遺伝性疾患が多い。長い年月守られてきた品種ならば疾患は少ないが、歴史の浅い品種は血が濃いため、動物にとってもつらい疾患を発生させやすいのだ。

 日本では、とにかく外見が変わった品種が人気を集める。歴史が浅い品種を好む傾向が強い。スコティッシュフォールドだけでなく、やはり突然変異で生まれた足が短い猫を繁殖した“マンチカン”も人気ランキングで3位に入っている。また、SNSで、鼻ぺちゃで呼吸が苦しい短頭種の犬や猫のユニークな写真の投稿も多い。見た目がおもしろい、かわいい、インスタ映えするという人間の願望によって、苦痛を味わう動物が作り出されているのだ。

 

 

●“ブームを止めること”が残酷な繁殖も止める
 

 実は、このスコティッシュフォールドの遺伝による軟骨異常の問題は、愛猫家たちの間では以前から話題になっていた。しかし、今もスコティッシュフォールドは、ペットショップで販売され、繁殖もされている。遺伝的に不利で繁殖しないほうがよい品種でも、“買う人がいる限り”は繁殖され、苦しむ猫はどんどん生まれてしまう。

 最近問題になっている、ブリーダーが飼育放棄するブリーダー崩壊の現場でも、スコティッシュフォールドを保護するケースは多い。人気品種だからとブリーダーを始めたものの、奇形が多く出て、販売できず放棄するという最悪なケースも発生しているのだ。

 まずは、こういった実態を知って、自分がどう行動するか、どうしてペットと暮らしたいのかをペットショップに行く前にきちんと考えてみてほしいと思う。もちろん、スコティッシュフォールドには罪はない。彼らの特性を理解して、大事に育てている人もいる。その人たちを批判するつもりはない。が、ブームになることで、不幸な猫を増やしていることは確かだ。

 

●“見た目”でなくても信頼感は生まれる
 

 スコティッシュフォールドが持つ特性を今まで知らなかった人の中には、ショックを受けている方もいるかもしれない。でも、手放すという選択は絶対にしないでほしい。他の猫種と比較すると注意が必要だが、十分なケアをすれば、快適な猫生を送ることはできるのだ。

 注意点としては、大きく5つある。

 ①まずは苦痛がないかよく観察をする

 ②最低でも年に1~2回は獣医師の診察を受ける

 ③太らせないよう体重管理に気をつける

 ④猫が上る場所へ何らかのステップをつける

 ⑤床に敷物をしいて柔らかくする

 などが日常行いやすいケアだ。

 運悪く発症してしまった場合は、グルコサミンなどのサプリメントを飲ませたり、消炎鎮痛剤の処方を受けペインコントロールを行うなどのケアが必要だ。そして症状が重い場合には、二次診療施設における外科手術や放射線治療による緩和ケアなど特殊な治療も必要になるかもしれない。また、軟骨の問題の他に、尿路系の疾患や心臓の問題なども、他の猫種と比較すると注意が必要なので気をつけてみてあげてほしい。

 このスコティッシュフォールドを生み出した問題を突き詰めて考えると、人間が“自分たちの楽しみのために生き物を飼うこと”自体に疑問が生じてしまう。人間の楽しみのために選ばれる猫の陰で、毎日多くの猫が税金を使って殺処分されている。自分の楽しみだけで選択することに疑問を感じた人は、“保護猫”を迎えることも検討してみてほしいと思う。その選択が、ひとつの猫の命を救うことにも繋がるのだ。

 我が家では、品種はもちろん、性別も毛色も性質も選べない状態で保護した猫がいる。でもそれは猫側にしても同じで、飼い主の顔も年収も性格も選べないまま我が家にやってきた。猫側に不満もあったかもしれないが、一緒に暮らすうちに、今ではお互いにかけがえのない存在だ。“見た目”を尺度にしなくても、動物との信頼関係は、必ず生まれる。そのことを多くの人にもっと知ってほしいと願うばかりだ。

 

友森 玲子