報告書をかばんにしまったまま、私は、帰り道をゆっくり歩いた。暑くも寒くもない、ただ、どこか乾いた夕方の空気。


歩きながら、何度も思った。


——どうせ、違うって言うんだろう。

——どうせ、言い訳するんだろう。


だけど——

じゃあ、私は本当はどうしたいんだろう。


答えは、結局わからないまま、玄関のドアの前に立っていた。


カチャリ、と鍵を開ける音。

中から、夫の「おかえり」の声が聞こえた。

普段と変わらない、何ひとつ変わらない声だった。私はゆっくり靴を脱ぎ、リビングに向かった。


「ちょっと、話があるんだけど」


できるだけ平坦な声で、そう言った。

夫は、テレビのリモコンを置き、少しだけ眉をひそめた。


「……うん」


テーブルの向こうに座ったまま、夫は私を見た。私は、かばんから封筒を取り出し、そのままテーブルの上に置いた。


「これ…見てもらっていい?」


夫は封筒をそっと開き、中の報告書を目にした。しばらく無言で見つめ、ため息をつき、

そして、ゆっくりと報告書を閉じた。


沈黙のあと、低くつぶやく。


「……これ、浮気調査か…」


その声には、驚きと、どこか傷ついたような気がした。私は、黙ったまま夫の顔を見つめた。