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誰かの言葉に、静かに耳をかたむける。

あなたの未来はあなたの中にある。

それをどう気づいていくか。

ここに綴るのは、日々のなかで出会った、

やさしい気配のようなストーリーたち。

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LINEの通知音が鳴った。

画面には「奈緒さん、面接の練習お願いできますか?」。

送り主は娘の友達、結菜さんだった。

子どもが小学校に上がるのをきっかけに、

また働きたい思っている。

でも、結婚してからもう10年。時間が止まったようで、自信がなくなっていた。


昔は経理事務を少ししていたけど、請求書整理ばかりで資格もなし。

「経理の経験はあるけど、今はシステム化も進んでいて、正直、自分に何ができるのかわからなくて…」と彼女は言う。


幼稚園のPTAでは2年間、会計と副会長を担当していた。

「行事の予算を立て、領収書をまとめてオンラインの帳簿に入力し、年度末には監査も受けていました。経理経験があるから、まあ普通かなって思ってたんです」


「それって立派な強みだよ。予算管理、チェック、システム習得…全部職場で活かせる力だよ」と私は答えた。


副会長では役員や先生と調整して行事を進めた。


「みんなの意見を聞きつつ、落としどころを探して…疲れました」

「それが“調整力”。どんな職場でも重宝されるスキルだよ」と私は言う。


少し自信を取り戻した彼女に、家庭の話も聞いた。


「主人は正社員一択で、転職を繰り返すのは体裁が悪いって…」


「家族の言葉って、正しいかどうかより、心に刺さるときがあるよね」

「働き方は、旦那さんとも話しながら、子どもの成長に合わせて少しずつ考えてみるのもいいんじゃないかな」

「…確かに、話してみることで見えてくることもありそうです」


「パートや契約から始めてもいい。それは遠回りじゃなくて地ならし。正社員になるための準備期間だと思って」


面接練習の日、彼女は別人のようにまっすぐ話した。


「この10年ブランクがありますが、子育てやPTA活動を通して責任感や調整力を磨いてきました。経理の仕事も、人と協力して正確に進める姿勢は以前と変わりません」


練習を終えたあと、彼女は言った。


「主人と話したら、理解してくれました。

子どもの成長と私のキャリアを一緒に育てていこうと言ってくれました。

家事の分担の話もしてくれて…

あ、でもゴミ出しだけなんですが…(笑)

でも、今までそんなこと言ってくれたことがなくて、私…すごくうれしくて。

これからもちゃんと主人と向き合います。

奈緒さんに相談してよかった、ありがとう」


その笑顔を見て、私は確信した。

ブランクは“失った時間”ではなく、“育ててきた力”そのものだと。

そしてあなたのキャリアはあなただけのものではないと。