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誰かの言葉に、静かに耳をかたむける。

あなたの未来はあなたの中にある。

それをどう気づいていくか。

ここに綴るのは、日々のなかで出会った、

やさしい気配のようなストーリーたち。

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「年間5日間は必ず有給休暇を取ってください」

人事部から届いたメールを見つめながら、

結衣は思わず心の中でつぶやいた。

休まなきゃいけないのはわかっている。

でも…。


結衣は中堅社員で、チームのまとめ役を任されている。

プロジェクトの締め切りやメンバーの進捗管理は、いつも自分がちゃんと動かさなきゃと思ってしまう。仕事は好きだ。頼られるのも、期待されるのも嬉しい。

でも最近、朝の電車でため息が増えた。


昨日、先輩に言われた。

「疲れてない?少し休んだら?休みを取れって言われてるでしょ?休みを取るって、自分のためだけじゃなくて、チームのためでもあるんだよ」


その言葉は、正直ピンとこなかった。

“私が休むことで本当にチームに貢献できるの?”

モヤモヤが心の奥に残ったままだった。


——その納得できない気持ちを整理したくて、

結衣はキャリアカウンセラーの奈緒を訪ねた。


「休むことで本当にチームにプラスになるんですか?私が抜けたらプロジェクトの進捗管理は誰がするんですか?私が休んだらチームが困るんじゃないですか?」


奈緒は静かにうなずいた。

「そうですね。でも、有給5日間は休まなきゃいけないですからね。

少し視点を変えてみませんか?

もし結衣さんが無理を重ねて疲れてしまったら、かえってチームに負担がかかってしまうかもしれませんよ。」


結衣は眉をひそめた。

“そうは言っても、私は抜けられない…”

心の奥で思う自分と、奈緒の言葉の間で揺れる。


奈緒はさらに続けた。

「部下の皆さんは、結衣さんにもっと仕事を任せてもらいたい、結衣さんから信頼されたいと思っているんじゃないですか?

結衣さんが少し休む勇気を持つことも、

チーム全体の支え合いのひとつになると私は思いますよ。」


結衣はしばらく黙った。

ゆっくり深呼吸をすると、少しずつ気持ちが落ち着いていく。


「部下を信頼して、仕事をまかせる…そっか。

自分が一生懸命やらなきゃいけない、

自分を認めてもらいたいって思って仕事をしてきたけど…

“自分が、自分が”だけではダメなんですね。

前だけじゃなくて、後ろからついてきてくれる後輩のことも考えないと。」


そう言って結衣が笑った。

「私も先輩に仕事を任せてもらえた時は嬉しかったなぁ。信頼してくれる先輩のためにも頑張ろうって思ったんです。

あの時すごく——自分で言うのも何ですが、

成長したなって。」


「そうでしたか。」


「私がみんなに仕事をまかせられなかったということですね。昨日、先輩が言った“休みは自分のためだけじゃなくて、チームのためでもあるんだよ”って言葉、あれは“後輩を信じて仕事を任せて成長させろ”っていう意味だったんですね。その方がチームの力も、生産性も上がる。

——奈緒さんの言葉を聞いて、やっと腑に落ちました。」


奈緒は静かに微笑んだ。

「“休む”ことは、“支え合う”ことのひとつでもありますから。」


結衣の表情が少しだけやわらいだ。

ゆっくり深呼吸をして、結衣は思った。

“休むことは、自分のためでもあるし、みんなのためでもある”


「少し休んでみようかな…」

結衣の胸の中で、ほんの小さな決意が芽生えた。「次は、先輩の部下の育て方を見習うことにします。そして私も、自分の気持ちの余白を増やしてアップデートします。」


その決意は、彼女の第2幕の幕が開く予感がした。


あなたにとって、“自分の余白”は、どんな時間ですか?