「甘え方が、わからない」


そう言った自分を、思い出す。


母の機嫌が、家の空気を決めていた。

その空気が重くならないように、

私はいつも少し先回りしていた。


「お姉ちゃんでしょ」と言われるたびに、

自分の気持ちは後回しになった。


母に甘えたことがない。

甘えさせてもらったこともない。


うちの家庭は、よそとは違った。


見栄のために、自分のことだけ考える母は、うちだけなんだ。

テレビを見てそう思ったとき、

母娘の関係ってこんなにお互いのことを思っているの?と不思議だった。


自分のアリバイのために暗い駐車場に私を置き去りにして、自分は男の人の車に乗り込んで走り去ってしまい、娘を2時間も待たせる母親なんて、ほかにはいない。


それでも、

母親の言うことに逆らえない私がいた。


暖かい家族の元に生まれたかった。

でも…今更無理な話。


そんな経験から、

私はいつの間にか、甘えることや、誰かに頼ることが

できなくなっていた。



だから、だれかに甘えたいと思っても、


重いかな。

わがままかな。

困らせるかな。


そう考えて、飲み込む。


ときどき勇気を出しても、

うまくできない。


甘えたつもりが、

一気に話しすぎたり、

あとから自己嫌悪になったり。


だからまた、しまう。



離婚のとき、

こんなことを言われた。


「俺のこと、頼りにしてくれているのか自信が持てなかった。

なんでも自分で決めちゃうでしょ」


うまく返せなかった。


でも、私は

ほんとうに好きだったし、頼りにもしていた。


ただ、それを

大きな言葉にしなかった。

わかってくれていると思っていた。

上手く甘えられてなかった。


でも、伝わっていなかった。



一人で生きていけることと、

一人で生きたいことは、違う。


甘えられないのは、

弱いからじゃない。


ずっと、

空気を読む力で生きてきただけ。


それは能力。

でも、本音ではない。



だから、いまは、少しずつ練習中。


「ちょっと聞いてもらっていい?」

「これ、どう思う?」


その一言から。


強く見えるままで、

少しだけ寄りかかる。


好きも、頼るも、

ちゃんと口にしてみる。


一人で立てることと、

誰かに寄りかかれることは、

きっと両立できるから。