久しぶりに連絡をとって、彼女の家に遊びに行った。
最後に会ったのは、もう4年以上も前になる。
でも、玄関先に現れた彼女は、まるで時間が止まっていたかのように変わっていなかった—。
「ぜひ遊びに来て」と、快く迎えてくれた彼女の家は、とても素敵な空間だった。
おしゃれなインテリアに囲まれ、部屋のあちこちにはお気に入りの家具が並び、どこか海外の雑誌で見たような雰囲気。
バカラのグラスにジュースを注いでくれたり、センスのいいカップで丁寧に淹れたコーヒーを出してくれたり。
その心遣いがとても彼女らしくて、懐かしく、そして心地よかった。
どの部屋にもほのかに香るアロマの匂い。
きっと、時間をかけて丁寧に整えてきた暮らしなんだろう。
思わず「あこがれるなあ」と、つぶやいてしまうほどだった。
彼女は1年前に長年勤めた職場を退職し、今は一人暮らしをしているという。
退職後の2か月はゆっくり休んで、そのあとは、株の値動きを見たり、YouTubeで好きなチャンネルを見たり、英会話のレッスンを受けたり…。
「毎日やることがあって、あっという間に時間が過ぎるの」と、笑いながら話してくれた。
でも、そんな彼女がふと漏らした言葉が心に残っている。
「朝起きたとき、なんだか焦燥感があるの。自分の生きる意味って、何なんだろうって考えてしまう」
そうだろうな。
彼女はずっと、人のために一生懸命働いてきた人だ。
誰かに必要とされることが、彼女の生きがいだったのかもしれない。
でも、退職後に感じる焦燥感や問いは、マイナスじゃないと思う。
それは、「これからは、どう生きたいか?」を自分自身にあらためて尋ねる、人生の新しいスタート地点だ。
会社に与えられた意味ではなく、自分で選ぶ意味。
時間をかけて見つける、それぞれの「意味の再構築」。
彼女が話した言葉は、決して特別な悩みではなく、むしろ多くの人の心の奥にある“静かな共通点”かもしれない。