そうだった。
あの時は由美と千佳のおかげで一歩前に進めたんだ。
懐かしくなって、アルバムから二人の写真を探してみる。みんな若かったなぁ…
ふと見つけた写真に視線が止まり、胸の奥がちいさく鳴った。
あの頃、仲の良い友達は3人いた。
由美と千佳、そして沙織……
沙織に呼び出された日のことは、今でも胸に残ってる…苦い思い出。
呼び出されたファミレスで
「ごめん、はっきり言うけど……」
沙織はそう言って、まっすぐ私を見た。
「由美と千佳を巻き込まないでくれる?あの子たち優しいから、奈緒のことを心配しすぎてるようで。見ていて可哀想なんだよね」
一瞬、何を言われたのか、わからなかった。
すぐには言葉が出なかった。
あの子たちが…可哀想?
私が、弱音を吐いたせいで?
そのとき、胸の奥がきゅっと縮んだ。
何かを言い返したかったけど、言葉にならなかった。
ただ…「ごめん」と一言だけ伝えた。
その日から、私は「話すこと」を、少しずつやめていった気がする。
迷惑をかけたくない。
大事な人を疲れさせたくない。
本音をこぼすたびに、誰かを巻き込んでしまうなら……。
……もう、黙っていたほうがいいのかもしれない。
そう思ったら、胸の奥にすうっと冷たい風が吹いた気がした。
沙織は、私じゃなくて、
由美と千佳を守りたかったんだ。
私より、あの2人のほうが大事なんだって。
その事実がなによりこたえた。
わかってたはずなのに、
言葉にされると、もう逃げ場がなかった。
「私は必要とされていない」
夫からも、友達からも……。
その気持ちが、まるで大きな岩のように胸に沈んでいった。
誰かの「大切」の中に、
あのときの私はいなかったんだ。
そのことだけが、今でも不思議なくらい鮮明に残ってる。
その後、私は、
誰にも頼らず、何も言わずに、
一人で背負い込むようになった。
この瞬間から、私は自分の気持ちを閉じ込めることに決めた。
その方が、誰にも迷惑をかけずに済む。
…少なくとも、「あの子たちが可哀想」なんて言葉を、もう聞かずに済む。
沙織にとっての「正しさ」は、
私にとっての「傷」だった。
そして、あのときの沙織の言葉を、
今もまだ受け入れきれずにいる自分が、
その沈黙の奥に、確かにいる。