「おはよう」
「おはよ」
夫はいつものように対面キッチンの椅子に腰掛け熱々の日本茶を啜る。
私はキッチンに立つ。
ミックスジュースを作り、朝食を準備する。
「そうそう、100均でサンタクロースの衣装買って来て。」
「うん。分かった。着るの?」
「うん。せっかくだから」
そうこうしていると娘が起きてきた。
文字通り、眠い目を擦りながらヨタヨタと。
この光景が好きだった。
変わらない毎日の光景だ。
窓からは朝陽が差し込み、全てを許してくれるかのようだった。朝陽は寛大だ。
突然、部屋が強い光に包まれた。
太陽の光じゃない。強い強い光なのに眩しくないのだ。気が付くと私は一人だった。
「ナオ~っ」
「お父さ~んっ!どこーっ?」
二三度呼んだが返事が無い。
戸惑う私の目の前に一人の女性が現れた。白装束で身を纏い、私をじっと見つめている。知らない人だけど怖くない。むしろ、懐かしい気持ちさえ感じていた。
「あの…」
「これを見なさい」
目の前に畳6畳分くらいの巨大スクリーンが現れた。ガラスのようだ。
そちらに目をやると…
あっ!
私だ…
スクリーンに自分が映っている。
しかし今の自分ではない。
小学生の頃の自分。
友達になりたかった子に冷たくされて、二度と友達になんかなるもんか!と意地を張っている私だ。うん、今でも覚えている。
スクリーンにはその友達が映っている。その子も私と友達になりたいのにと家で泣いている。…まさか。あんなに意地悪されたのに私と友達になりたかったの?
スクリーンは次々と変わる。
社会人一年目の頃の自分。
厳しい上司に怖い先輩。逃げたい、逃げたい…。毎週金曜日、仕事が終わるとどんなに遅い時間であろうと電車に乗って彼氏に会いに行った。金曜日の満員電車に座り、電車に揺られる自分。すぐ後に、自宅での両親の姿が映る。
「愛から連絡あったか?」
「ううん、まだない。また遊びに行ったんじゃろ。」
私を心配する父親の姿が映る。
ごめん…父さん。
スクリーンには私が知らず知らずに犯した罪などが次々と映し出された。
恨むまではいかずとも、人から言われて傷付いた言葉の裏側まで映し出された。あの時あの人はこんなにも私を愛してくれていたのか?
気が付くと私は涙を流していた。
「ごめんなさい。気付きませんでした。こんなにも深い愛に包まれてたことに。」
最後に、亡くなった夫との生活の場面が映し出された。夫にわがままばかり言っている自分。少しの我慢も出来なかった自分。好きなように生きてきた自分の姿を見て、情けなくなった。前の夫が悩んでいる様子がスクリーンに映る。私に話そうかどうか悩んでいる。言い出そうとした瞬間、スクリーンの中の私が夫に言う。「明日はドライブに連れてって!ね!いいでしょ!」
完全に悩みを打ち明けるタイミングを逃した前の夫は言葉を飲み込んだ。
そして…
…。
「止めて!消して!気付いてます。全部私です。戻して!ナオ!お父さん!どこ?」
人は知らず知らずのうちに思い違い、心得違いをし、罪をおかしながら生きている。それを知りなさい。そして今ある毎日も当たり前ではないということ。
ナオに会いたい
夫に会いたい
でも、ここも居心地がいいなぁ
なんでこんなにあったかいんだろう?
もうずっとここに居てもいいや。
気持ちがいい。
帰りんちゃい
死んだ夫の声で我に返った。
え。
スクリーンの横に立っている白装束の女性が私の背中をぐっと押した。
「あなたにはまだまだ使命があります」
と。
気が付くと私は布団の中にいた。
夢か…。
ボーっとする私に、隣で寝ている娘が
母ちゃんおかえり
と寝言を言った。
その寝言につられてか、夫も私に
よかったね
と寝言。
なんなの?
今、わたし起きてるよね。
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