『…お前…帰れ』
それが最後に聞いた先輩の言葉だった。
本当は『お前』の前の、声になってなかった言葉も私にはちゃんと聞こえていた。
だから…何も分かってないようなフリをして『うん』と言って携帯を切った。
溢れそうになった涙と見た景色は、白らんだ海へと続く川の河口付近の工業地帯と、その先に見る夕暮れ。
何度も何度も何度も先輩と過ごした景色。
白と赤の煙突から昇る煙の元に先輩が居ると分かっていたのに、この瞬間、ここから先の景色の中は私の立ち入れない場所となった。



先輩と私が初めて出会ったのは拓巳先輩と一緒にいた時だった。
その数ヶ月前、偶然再会した拓巳先輩とは、懐かしさから頻繁に会う様になっていた。
当時よりもお互い惹かれ合っていることに気付きながらも、気持ちに火を灯さない曖昧な関を保っていられたのは、お互いに恋人がいた事と、この危なげな関係にヤバい心地よさを感じていたから…。
ギリギリの線の上で空いた時間を一緒に過ごしながら、本当は過去に溺れていた。

その日もそんな時を過ごしていると
『こんばんわ』
と言って現れた人が先輩だった。
その瞬間、拓巳先輩と私の間の空気がサッと変わった様な気がした。
その涼しげな眼をした先輩を前に、私は思わず手元のグラスに残っていたビールをイッ気に飲み干した。
先輩の存在が私たちを過去から現在へと引き戻してくれた気がした…。

その夜から3人で会うようになった。
本来の気質が似てた3人はとても気が合った。
それからの毎日はとても楽しかった。
空いた時間と言うよりも毎日仕事が終ると食事したり飲みに行ったりと遊びに出かけた。
週末には各々の恋人とデートをそれなりに楽しんで、週が明けるのを楽しみになった。
梅雨の始まりの出会いから気付くと夏が始まっていた…。