年明けわずか2週間で今年最も悲しいニュースが・・・


デヴィッド・リンチ監督逝去。享年78歳。




「絶対引退しない」と明言、映画だけでなく様々なアート製作を精力的に行っており、


まだまだ活躍すると疑いなく思っていたので、今だに信じられません。


遺族の短いコメントが、心に響きます。


「彼が亡くなった今、世界には大きな穴が空いています。しかし、彼がよく言っていたように『穴ではなくドーナツに目を向けてください』」


その言葉通り、単なる比喩でなく、

「デヴィッド・リンチがこの世にいない」ということで、明確に世界は変化したように感じています。


地球が逆回転し太陽が西から昇るようになったみたいな感じ。

普段通り過ごしていても、嬉しいことが起きても「デヴィッド・リンチが死んだ」ことを思い出すと、途端に周囲が色褪せて見えてきます。


この深い喪失感は、それだけの恵みをリンチ監督が与えてくれた証なのだという風に思われ、感謝の念が溢れ出ると共に、複雑な感慨に耽ります。


それが今私が味わうドーナツ。


空海の教えや色即是空の解釈などに通じるような「ドーナツの穴」。


リンチ監督の存在は、死後かたちを変えてまた豊かに広がっていくのだと思います。




私が初めに魅了されたのは1997年「ロスト・ハイウェイ」


メビウスの輪を連想させ、スリルのあるストーリーに、ダークな音楽。

目に焼き付く映像。

パトリシア・アークエット演じる古典的なファム・ファタール像。


今はなき梅田ピカデリー劇場で観たのですが、当時の感覚で、

「私は今この瞬間、映画史に残る作品を進行形で観ているのではないか」

という興奮があり、リンチ監督というより作品に夢中でした。


サントラとDVD購入。









そして、

これを超える傑作は同じ監督であっても、二度とは製作できないだろうなと思いながら軽い気持ちで観た次作、


「マルホランド・ドライブ」に、度肝を抜かれて、デヴィッド・リンチの虜に。





そこから、過去作品や「ツイン・ピークス」へ。


幻想と悪夢。

情け容赦ない暴力と恐怖。

グロテスクの美。

陽気で呑気な50年代のアメリカ。

独特の不毛で間延びした会話とユーモア。

言語化不可能な映像での語り口と音楽。

ブラックコーヒーと美味しいパイやドーナツ。

鑑賞後の強烈なカタルシス。

 

「リンチ的なもの」に酔いながらも現実感は冴えていく感覚。


カルトの帝王、などと呼ばれていますが、限定的で複雑な世界の魅力だけでなく、


万人受けする誠実で暖かな幸福感も、常に与えてくれた気がします。









フランソワーズ・サガンが生前「私が死ぬなんて言語道断です」とインタビューで話しており、ユニークだなと思っていましたが、


今、デヴィッド・リンチが死ぬなんて「あってはならない」という想いが湧いてくることに我ながら驚いています。


気持ちが散漫ですが、率直に思うことを書いてみました。






1月20日は、リンチ監督の誕生日。