娘は桜の花がすきだった

叶わない願いだったけど

春生まれの娘に私は

その季節らしい名前を授けたかった

桜舞う日に生まれた娘

成長しても彼女はこの季節を好み

「桜の花がすき」と

いつもしあわせそうな笑みを浮かべていた

中学生の娘と一緒に買い物をしていたとき

あるタンブラーに出会った

それは桜模様の素敵なタンブラー

2人でそのタンブラーを気に入り購入した

飽きっぽい娘が
ずっと使い続けた唯一の品物


そのタンブラーは
娘は私と離れる時に置き去りになった


それから私はそのタンブラーを
今も使い続けている


丁寧に扱っても桜の柄が
少しずつ薄れてしまっている


薄れてしまった桜を観ると
娘が遠くなる気がして寂しくなる


周囲の人々は私のその私物を
「新しいの買えばいいのに」
そう思っているらしい

実際にそう言われたこともある


殆ど娘の遺品は夫に処分されてしまった


そんな中
唯一娘の遺品のひとつで私の宝物

この遺品は時に
私を慰めたり
勇気をもらったり

時に寂しい思いをさせる


ある時つらくて捨ててしまおうか?
そんな気持ちになったこともある

私はひっそり
エンディングノートを書いている

その内容の中に
「棺にいれて欲しいもの」という
項目がある

その内容に記載された中にある文字が
並んでいる

「タンブラー」と

まだ先のことは分からない

順番で言えば息子より私が先に行く
息子がこの文字を理解してくれることを
願っている



もう殆ど色褪せた娘の遺品は

今も私の傍にいてくれる宝物



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