職業訓練校は名前を書けば入れると思っていたが、試験と面接があった。
それでも無事に通学許可がもらえた。

リハビリ目的の私は落ち着きがなかった。
知らない人達、決まった席で学ぶ。
席順は決められていた。
面接した上で訓練校が決めた席。
席替えは許されなかった。


同じクラスになった大人の学生は
色々な人達。性別、年齢、職業が様々。
同じ県内でも様々な場所から来ている人達
目立ちたい人、大人しい人、遊びに来てる人
働きたくないから来てる人、本当に資格が欲しい人、そしてリハビリ目的の私
それぞれここに通学している思惑は違っていたと思う。


私の隣の席はひとりの女性。
教室で初めて会話を交わした人だった。
彼女がここに来た動機は知らないが
この資格を所得してもその職業で働く気持ち
はない様だった。

私はいつも隣の席の彼女と過ごした。
あまり相性が合う人ではなかった
席替えのない数ヶ月毎日顔を合わす彼女と
雰囲気を悪くしたくなかった。数ヶ月だけ。
それで終わる。
他の人達と仲良くする気持ちなんて
更々ない。


周囲の人達もそうだったのかもしれない。
自分の席の周りの人達としか仲良くならなかった。この中だけで小さなグループが出来上がる。それでも適度に距離があった。
挨拶程度しか誰も話さなかった。
それで良かった。


暫くはその生活だったのに、人の馴れは怖い。自己主張する人、目立ちたい人、噂話が好きな人個々の個性が発揮され始める。


決して私は目立ちたくない。
静かに過ごしていた。
挨拶しか交わさずそれ以外の話はしない。
挨拶しかしてない私に気軽に声をかけられた時は驚いた。
色々聞かれてもあまり答えず全て曖昧にしか
返答しない。
それでも距離を縮めようとする人達もいた。

数ヶ月で別れるクラス。
今後の人生に関わる人達ではない。
住んでるところがすごく近い訳じゃない。
どうしてそこまで仲良くしようとするのか?
理解が出来なかった。

ここに通学している人は皆無職。
上下関係などある筈などない。

馴れてくると自然と上下関係が出来上がる。
つまらない小さな世界でのカースト制度。
極力地味な服装。殆ど話さない私は
きっと一番底辺だったと思うそれで充分だ。



勉強も苦痛だった。
興味もない勉強に集中出来るはずもない。
ただぼんやり聞いてるだけ。
定期試験があり合格すればそれで終わり。


そんなある日、私の隣の席の彼女は
恋をした。どうしてその人が良いのかも
分からない。どうでも良かった。
その辺りから私のクラスは壊れていく。

彼女はすごく強い?女性だった。
恋をした相手にも積極的になった。
昨日まで笑っていたのに
気に入らない事がある人には挨拶すらしない。マイペースで周りの視線など気にしない。嫌な事は嫌。絶対に曲げない。
そんな彼女が何となく嫌だった。子供じゃないんだから挨拶位すれば良いのに。そんな気持ちの裏で自分に正直な彼女が羨ましかった
それでも私はその彼女の隣に居続けた。
そして周囲はいつしか私は彼女と同じ同類と
見られていた。


そんな彼女を気に入らない人がいた。

自分より目立つ人が嫌いな女性。
いつもそんな格好で何処に行くの?って位着飾っていた。自信満々で男性に媚びるのがうまかった。

次々彼女を攻撃する彼女。
うんざりしてた。
2人でやって欲しかった。
もれなくそこに私は意思には関係なく
含まれていく。


何となくクラスの空気も悪かった。
先生はこんなにまとまらないクラスは
初めてだといつも嘆いていた。


朝、彼女はまだ来ていなかった。
いつもの様に他の人に会い挨拶すると
様子がおかしかった。
私は後ろの席の男性に質問する。
何かあったの?
どうやら彼女とを気に入らない彼女は
下らない仕掛けをして悲撃のヒロインになったらしい。


理由は簡単だった。
彼女の教科書が無くなっていた。
それが女子トイレで見つかっただけ。
彼女はそれをいじめと称し皆に同情票を集めていた。自作自演と分かっていても同情の不振りをするクラスの人達。
いじめた相手は私の隣の席の彼女を指名する。そんな事を知る由もないクラスの人達は仲が悪いで有名人になった2人に周囲は納得し、悪者は隣の席の彼女になった。隣の席の私も何故か共犯になっていた。


彼女はしていない。明確だった。
私はいつも彼女の隣に居たから、そんな事をしたら直ぐに気付いた。
性格が悪くてもそこまでしない人だ。
彼女がやってきた。
流石の空気に気付いた様子だった。


彼女は私に尋ねる。
素直に状況を伝えると彼女は悲撃のヒロインの彼女の悪口を言い始める。怒っていた。

飛び出る杭は打たれる。
こんな狭い中でもいざこざは起きるんだ。
人って面倒って思った。
共犯とされた私。
何故か苛立ちも落胆もなかった。


そんな日が何日も続いた学校終わり。
隣の彼女は帰路を急いでいた。
いつもは一緒に帰るのに
その日の私はひとり広場でコーヒーを飲んでタバコを吸っていた。


学校に来てからひとりになるのは
初めての事だった。
そこに同じクラスの何人かが話し掛けてきた


それぞれグループが違う中の数名に話し掛けられた。


そこで自作自演の真相を聞かれた。
興味本位なのか何なのか分からなかった。
真実を伝える必要があるのか。真実を話した所で信じてもらえるのかも分からない。


私は一言「どうして?」と聞いた。
すると皆は気まずい様に少しずつ話し出す
自分のいる仲良しグループでも揉め事が起きている事。人との付き合い方に疲れていたこと。平穏にここを終わらせたいから我慢している事。知らない話がどんどん出てきた。


私には隣の席の彼女だけ。
外から見ていた私の知る仲良しグループは
本当に仲良しに見えていた。
羨ましかった。


なのに内面は全然違っていた真実に驚いた
もっと驚いたのは
私は男性が嫌いだという噂
人を見下している思われてた話
他にもたくさん。
挨拶しかしていないクラスの人達に
想像で私という人物像が勝手に出来上がっていた。


嫌気がさした。ただのリハビリに来ているのに何故面倒な人間関係に巻き込まれるのだろう。


何となく気が付いた。
数ヶ月だから我慢する人。
数ヶ月だからやりたい放題する人。
そんな人がいる事を。

関わらない様にしよう。そう考えてみたけどもう関わらないにはもう遅すぎた。

少しずつ
グループが割れ始めた。
それでも私は隣の席の彼女といたが
他の人達から話し掛けられる様になりだした。それが彼女は気に入らない。
そして悲撃のヒロインの彼女はとうとう
私を攻撃しようとしていた。

人の感情に敏感な私は直ぐに気付いた。
噂の張本人も彼女である事を確信していた。
隙を見せない私に彼女は結局何も出来ない。


そうして日々が過ごすと
学生生活には外部実習になり
学校に行かない日々が続いた。
外部研修は自分で研修先を選べた。
隣の席の彼女は一緒の研修先にしようと提案するが、お互いの家が遠い為に叶わない。
私は別なグループの人達と同じ研修先を選ぶ

そして更なる真実を知る。

ただ心にひとつ思うことがあった。

本当に自分が聞いた事なのか?
本当に自分の目で確認した事なのか?
噂が大きくなっただけで
本当の真実は歪んで伝わっているんじゃないか?ずっと考えていた。

外部研修の間、数日学校に行く日があった。


その日の私は違っていた。
数ヶ月の我慢じゃなくて
数ヶ月しか居ないから言う。
今まで人の顔色を伺って生きてきた私には
勇気のいる事だった。

もう、この人達とは会うことはない。
言いたい事は言おう。我慢は止めよう。
そう決めていた。

学校の終了時間。
直ぐ私は悲撃のヒロインの
彼女の目の前に立った。
周囲はその光景を注目して見ていた。
先生までも足を止めていた。
目立ちたくない。そんな気持ちを押し殺し
彼女に私はゆっくりと大きな声で質問する。
疑問をひとつひとつ問い掛ける。
曖昧な返事も言えない様に質問していく。
自信に満ち溢れた彼女は言い訳出来ない。
ちゃんと答えられない。
答えられる様に話を導いた。
諦めた彼女は少しずつ真実を話す。
私の言葉で嘘で塗り固めたペンキが剥がれていった。
彼女は自分が一番注目されたい人だった。
なのに私が目障りだったと話し始めた。
だから根も葉もない噂を話して自分に注目を
向けたかったと意味が分からない話ばかり。
彼女は逃げ場を無くしていた。
彼女が悲撃のヒロインになろうとした瞬間
私は悲撃のヒロインと同じ行動をした。
泣いた。
私が先に泣いた事で更に彼女はどうすることも出来なかった。

彼女も重い鎧を纏った弱い女性だった。

その日から私の噂は無くなる。
私に対する周囲の態度が変わる。

ここでは
真実は自分の眼で見たもので見極めよう。
そう学んだ学生生活だった。




















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