評 歌舞伎座「團菊祭五月大歌舞伎」 | 〽いとしと書いて藤の花 気まぐれお稽古日記

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新聞に‘評‘が出ておりました。

 

 

新彦三郎の梶原 颯爽たる出来栄え

 昼の部「梶原平三誉石切」の坂東亀三郎改め九代目彦三郎の梶原平三景時が颯爽たる出来栄えであるこの舞台では父坂東彦三郎が大庭景親役で初代楽善、弟坂東亀寿が俣野五郎役で三代目亀蔵を襲名し、ほかに新彦三郎の長男が父の前名亀三郎を名のり、夜の部「寿曽我対面」の亀丸役で初舞台を踏んでいる。

 のちに源義経を讒言したとして悪名高い梶原を、当時平家方にあって源氏に心に寄せる武将に脚色したのが、歴史の「もしも」に光を当てる作者の趣向。

 

 それを新彦三郎は、先人の型を一点一画ゆるがせにせず楷書で描いてみせる。見どころの名刀の目利きでは、まだ観る者をゾクゾクとさせるまでにはいかないが、俣野をとがめる「近頃もって無礼でござろう」をはじめとする朗々としたセリフ廻し、おのれを犠牲にしようとする六郎太夫(市川団蔵)の苦衷に涙する情味が良い。特に最後の物語で、死後の悪名もいとわないと自分の運命を引き受ける潔さをしっかりと見せた。色気や愛嬌などの芸の幅は、回を重ねるにつれ加わってこよう。

 

 楽善の大庭が立派な大敵。亀蔵の俣野は、口跡の良さに加え、梶原に刀を差しつける形の良さも光る。団蔵の六郎太夫が篤実で、自らの白髪に過ぎし歳月を重ねるくだりに深みがある。尾上右近の梢がタップリ三味線の糸に乗って義太夫狂言らしい。尾上菊之助の奴菊平、尾上松緑の囚人剣菱吞助のふたりが花を添える。

 (演劇評論家 犬丸治)

ーー27日まで。--