「AIで英会話の練習をさせたい。でも、学校の端末では開けない」
「個人情報が心配だから、やめておこうかな」

AIを授業に取り入れようとして、こんな壁にぶつかったことはありませんか?

実は、国際調査でも日本の先生のAI利用はかなり少ないことが分かっています。今日は、その数字の「中身」を見ていきます。

日本の先生のAI利用は、55か国・地域中ワースト2位

OECDの国際教員調査「TALIS 2024」には、55の国・地域が参加しました。[1]

中学校の先生で、過去1年間に仕事でAIを使った人の割合は次のとおりです。[2][3][4]

シンガポール・UAE 約75%
OECD平均 36%
日本 17%(下から2番目)
フランス 14%(最下位)

平均の半分以下。数字だけ見れば「日本は遅れている」と言いたくなります。

では、日本の先生は新しいものが苦手なのでしょうか?
同じ調査を読み進めると、そうではないことが見えてきます。

理由① 忙しすぎて、試す時間がない

日本の先生の仕事時間は週55.1時間。OECD平均の41時間を大きく上回り、参加国の中で最長です。[1][2]

AIを使わない理由として、日本の先生の88%が「AIを使って教える知識・技能がない」と答えています。[2]
でも、知識をつける研修に出ようにも、86%が「ほかの仕事で時間がない」ことを壁に挙げています。[2]

AIは仕事を楽にしてくれるかもしれません。でも最初は、試して、確かめて、授業を組み直す時間が要ります。その時間がないのです。

理由② 使いたくても、環境が整っていない

AIを使っていない日本の先生のうち、65%が「学校にAIを使う環境がない」と答えています。OECD平均は37%です。[2]

文部科学省の調査でも、必要なネットワーク速度を確保できている公立学校は63.9%(2025年12月時点)でした。[5]
文科省の生成AI検討会議では、「AIのサイトがフィルタリングで遮断されている」といった声も取り上げられています。[6]

理由③ 始めるまでの手続きがある

たとえば埼玉県の県立学校では、先生は効果測定に合格し、校長の承認を受けてから生成AIを使います。指定外のAIアプリを使うには、管理職が県に申請して承認を得ます。[7]

安全性をまとめて確認してもらえるのは、大事なことです。ただ、授業にぴったりのサービスを見つけても、すぐには使えません。

つまり…
「時間がない」「環境がない」「すぐには使えない」。
利用率17%は、先生のやる気の問題ではなく、仕組みの問題だと言えそうです。

 

じゃあ、海外は何でも自由なの?

そうとも限りません。どの地域も子どもを守るルールを持っています。違うのは、「何に線を引いて守るか」です。

 

地域 線を引く場所 具体的には 学校でのAI
EU AIそのもの AIを危険度で分類する。成績評価や入試、試験の監視に使うAIは「高リスク」として厳しい義務を課す。学校で感情を読み取るAIは禁止。[10] 条件を守れば使える
豪州 子どもの年齢
(子どもが子ども時代を楽しめるように)
16歳未満にSNSのアカウントを持たせない。首相は「子どもが子ども時代を楽しめるようにする」ことが目的だと説明。義務を負うのはSNS事業者。[8][15] 全国指針のもとで活用を進める[9]
米国 個人情報の扱い AIをまとめて規制する連邦法はない。子どもの個人情報を守る法律(FERPA・COPPA)と、企業の自主的な誓約で守る。[11][12] 学校と企業の契約しだい
日本 法律では縛らない AI推進法は活用の後押しが中心で、罰則はない。教育での使い方は文科省のガイドラインで方向を示す。[13][14] 自治体・学校ごとに判断

 

EUはAIの使い方そのものを法律でしばります。

 

一方、豪州は「子ども時代は子どもらしく過ごしてほしい」という考えから、年齢で線を引いて、子どもを長時間引きつけるSNSから遠ざけます。同じ「子どもを守る」でも、やり方はまったく違います。

そして豪州は、SNSを厳しく制限する一方で、学校では先生の指導のもとでAIを使う方針を取っています。「SNSの害から守ること」と「AIを学びに使うこと」を、分けて考えているのです。

 

日本の文科省も、AIを一律に禁止したり、逆に一律に義務付けたりするのは望ましくないとしています。[13]
ただ、法律で線を引かない分、「どこまでならOKか」の判断は、自治体や学校、そして一人ひとりの先生に委ねられがちです。これが、理由③の「手続き」や現場の迷いにつながっているのかもしれません。

必要なのは「使え」でも「使うな」でもなく

ここからは私の考えです。

先生が知りたいのは、「AIには危険があります」という一般論ではないはずです。

  • どのサービスなら使ってよいのか
  • 何を入力してよいのか
  • 困ったら誰に聞けばよいのか

ここがはっきりすれば、慎重な先生も判断できます。

使い方によって、学びも変わります。英語の授業なら、AIに作文を丸ごと書かせるのと、自分で書いた英文について「意味が伝わりにくいところを教えて」と聞き、直した理由を説明させるのとでは、まったく違う学びになります。

教育委員会や学校にお願いしたいのは、次の3つです。

  1. 使ってよい条件と相談先を明確にする
  2. 勤務時間の中で、小さく試せるようにする
  3. うまくいかなかった例も共有できるようにする

ワースト2位から順位を上げること自体が目的ではありません。
「使いたい先生が、根拠を持って使える。慎重な先生も、条件を理解して判断できる」
そんな環境づくりが、子どもを守りながら学びを広げる一歩になるはずです。

 


参考文献

[1]文部科学省(2025年10月)「我が国の教員の現状と課題 -TALIS 2024結果より-」
[2]OECD(2025)Results from TALIS 2024: Country Note — Japan
[3]OECD(2025)Results from TALIS 2024: Country Note — France
[4]Education International(2025)Using Artificial Intelligence: Takeaways from TALIS 2024
[5]文部科学省(2026年3月)学校のネットワークの状況について(2025年12月1日時点)
[6]文部科学省(2024)生成AIの利活用に関する検討会議 第4回議事録
[7]埼玉県(2026年4月)県立学校における生成AIの利活用に関するガイドライン Ver.1.1
[8]豪州eSafety Commissioner, Social media age restrictions
[9]豪州教育省 Australian Framework for Generative Artificial Intelligence in Schools
[10]EU AI法(2024)第5条(禁止されるAI)・附属書III(教育分野の高リスクAI)
[11]米教育省 授業でオンラインツールを使う場合のFERPAに関するFAQ/FPF・SIIA(2014)K-12 Student Privacy Pledge
[12]米連邦取引委員会(2022)EdTechとCOPPAに関する政策声明
[13]文部科学省(2024年12月)初等中等教育段階における生成AIの利活用に関するガイドライン Ver.2.0
[14]人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律(2025年)
[15]豪州首相府 PM Transcripts, Press Conference – Parliament House, Canberra(2025年7月30日)
※TALISの数値は2024年調査の中学校教員のもの。生成AIに限らず、AI全般の利用を含みます。