眩しい光が消えると、ヘンゼルとグレーテルは美しい街並みの中に立っていました。石畳の道には馬車が行き交い、周りには華やかな建物が並んでいます。
「ここはどこだろう?」グレーテルは興味深そうに辺りを見回しました。
「看板に『ウィーン』って書いてあるよ!」ヘンゼルは指さしました。
「ウィーン?もしかして18世紀のウィーンかな?」グレーテルは目を輝かせました。
そのとき、美しい音楽が風に乗って聞こえてきました。
「この音楽、素敵だね。どこから聞こえてくるのかな?」ヘンゼルは耳をすませました。
「向こうに人が集まっているよ。行ってみよう!」グレーテルは兄の手を引いて歩き出しました。
二人がたどり着いたのは、大きな音楽ホールでした。入口にはたくさんの人々が並んでいます。
「何かの音楽会みたいだね。」ヘンゼルはワクワクしています。
「でも、チケットがないと入れないかも。」グレーテルは心配そうです。
そのとき、優しそうな紳士が声をかけてきました。「君たち、音楽会に来たのかい?」
「はい。でもチケットがなくて。」ヘンゼルは答えました。
「それなら、これを使いなさい。」紳士は二人にチケットを手渡しました。
「本当ですか?ありがとうございます!」グレーテルは嬉しそうにお礼を言いました。
ホールの中に入ると、豪華なシャンデリアが輝き、席はほとんど埋まっています。二人は空いている席を見つけて座りました。
やがて、ステージに一人の男性が現れました。彼は少し険しい表情ですが、目には強い意志が感じられます。
「もしかして、あの人がベートーベン?」ヘンゼルは小声で言いました。
「そうかもしれないわ。」グレーテルは期待に胸を膨らませました。
ベートーベンがピアノの前に座り、静かに演奏を始めました。美しい音色がホールいっぱいに広がります。激しい部分もあれば、静かで優しい部分もあり、その音楽は人々の心を深く揺さぶりました。
ヘンゼルとグレーテルは、その音楽に引き込まれ、時間を忘れて聴き入りました。
演奏が終わると、会場は大きな拍手に包まれました。ベートーベンは少し微笑んで頭を下げました。
「すごかったね!」ヘンゼルは感動しています。
「本当に。こんなに心に響く音楽は初めてだわ。」グレーテルも同意しました。
演奏会が終わった後、二人はベートーベンにお礼を言いたくて、楽屋の方へ向かいました。しかし、入り口で警備員に止められてしまいました。
「ごめんなさい。関係者以外は入れません。」警備員は申し訳なさそうに言いました。
そのとき、中からベートーベンが出てきました。「どうしたんだい?」
「この子たちが先生に会いたいと言っているのですが。」警備員が説明しました。
ベートーベンは二人を見て、「いいだろう。中に入っておいで。」と優しく言いました。
「ありがとうございます!」ヘンゼルとグレーテルは喜んで楽屋に入りました。
「演奏、素晴らしかったです!」グレーテルは目を輝かせました。
「ありがとう。君たちは音楽が好きなのかい?」ベートーベンは微笑みました。
「はい!でも、あんなに素敵な音楽は初めて聴きました。」ヘンゼルは答えました。
「音楽は心の言葉だ。感じたままを表現すれば、きっと誰かの心に届く。」ベートーベンは遠くを見るような目をしました。
「でも、先生はどうしてそんなに情熱的な音楽を作れるのですか?」グレーテルは尋ねました。
「実は、私は耳が聞こえなくなってきているんだ。それでも音楽を諦めたくない。その思いが私を支えてくれている。」ベートーベンは少し寂しそうに言いました。
「困難に負けずに頑張っているんですね。」ヘンゼルは感心しました。
「そうだ。どんな困難があっても、自分の信じる道を進むことが大切だ。」ベートーベンは力強く言いました。
「私たちも見習わなくちゃ。」グレーテルは兄に目を向けました。
「うん、一緒に頑張ろう!」ヘンゼルはうなずきました。
そのとき、ベートーベンは二人に小さな楽譜を手渡しました。「これは新しい曲の一部だ。君たちに贈ろう。」
「本当にいいんですか?」グレーテルは驚きました。
「もちろんさ。音楽の力を感じてくれた君たちになら、きっと大切にしてくれるだろう。」ベートーベンは微笑みました。
「ありがとうございます!一生の宝物にします。」ヘンゼルは感激しています。
その瞬間、ヘンゼルのポケットからまた光が溢れ出しました。
「また時間旅行の時間だね。」グレーテルは少し寂しそうです。
「ベートーベン先生、本当にありがとうございました!」二人は深くお辞儀をしました。
「気をつけて旅を続けなさい。そして、困難に負けずに自分の道を進むんだ。」ベートーベンは優しく言いました。
「はい!」ヘンゼルとグレーテルは声を揃えました。
眩しい光が二人を包み込み、景色がゆっくりと変わっていきます。
「次はどんな冒険が待っているのかな?」グレーテルは期待に胸を膨らませました。
「きっとまた素晴らしい出会いがあるよ。一緒に進もう!」ヘンゼルは妹の手をしっかりと握りました。
こうして、ヘンゼルとグレーテルの時間旅行は新たな章へと続いていくのでした。