旅立った日から長い月日が経って
ぼくは夜に空を見上げるようになった
懐かしい時間を思い出して
何気なく歌を口ずさんだ
見た目二十歳頃の旅人が、町で途方に暮れていた。
「…むー、食べ物……」
町まで歩き通しで、空腹感が脳を支配する。
金があれば車なり人力車なり使えたが、生憎持ち合わせは食糧と水で精一杯だ。
無駄遣いはできない。
「取りあえず、何か食べ物…」
ぼやいた旅人は町中を歩き出す。
暫くすれば、串焼きの屋台が見えた。
「よう、兄さん!サービスするぜ」
威勢の良いおじさんの声が聞こえる。
少し苦笑いして、旅人は屋台に座った。
「お勧めは何ですか」
「羊はどうだ?新鮮だぜ」
「じゃあ、それで」
「あいよ!」
これまた景気の良い調子で、おじさんが作業を始める。
「何だい、兄さんは姉ちゃんかい?」
おじさんは何となく旅人の顔を伺いつつ、作業しながら、旅人に話かける。
「見た目や声じゃ、解りづらいねえ」
旅人は気を悪くする訳でなく、苦笑いして答える。
「そうですねえ、今は兄さんで」
「おいおい、秘密かい?」
「どっちでもいいじゃないですか」
「ま、客には違いねぇ」
おじさんは焼きあがった串焼きを旅人に差し出した。
「この町には何しに来たんだ?」
旅人は串焼きを受け取ると、焼きあがった肉を噛み締め、口を開く。
「探しものがあるんです」
「へぇ、どんなものだい」
「それが解れば苦労しないんですがね…」
「ロマンだねぇ」
「そんなものじゃないです」
旅人はまた串焼きにかふりつく。
「お、勿体ぶらねぇで教えてくれよ!今ならタダにしてやらあ」
「はは、太っ腹ですね」
「やめてくれよ、気にしてるんだ」
「…そっちじゃないです」
「何でもいいから、教えてくれよ」
旅人は串焼きを食べきると、静かに話し始めた。
「昔、私を助けてくれた戦友がいました。私はその時色々故障してまして、彼の助けがなければ生きていけなかった」
「その見た目じゃ、苦労しただろう」
旅人は再び苦笑いする。
「色々と」
「大きな騒ぎがあったな…生き別れかい」
「…逢えれば良いと思います」
「恋人かい?」
「さあ…揶揄はありましたが」
「逢えると良いな」
「ええ、ご馳走様です」
旅人は席を立つと町へ歩き始めた。
「…***」
旅人は立ち止まって振り返る。
屋台はもうない。
再び空腹感が襲ってくる。
「心配性だな、君は」
旅人は、もう墓を振り返ることはなかった。