「さぁ~飲んで!飲んで!」
男は上機嫌である
飲み仲間たちに勧めている
もう飲み始めて一刻は過ぎている
「大将、なんか美味しいところ出して、、」
よっぽど機嫌がいいのだろう
その上機嫌の男は私である
「大将も飲みや~」
ここは難波から少し歩いた鮨やである
私の贔屓としている店である
仕事で遅くなったときはここにいる
この店はカウンターしかなく、7~8人で満席になる
客は3人である
「今日は競馬で儲けて、ええ調子やな」
「なんぼ儲けたん?」
飲み仲間に訊かれている
「今日はよかったわ~」と振り返るように
話しをしだした
今日は優駿牝馬レースである
いわゆるオークスである
そのオークスはこの馬でいくと決めていた
その前走の桜花賞も狙っていた
しかし桜花賞は儚く12着だった
見せ場もつくれなかった
だが、クイーンカップを強く勝ち上がったのを
見て惚れ込んでいたのだ
桜花賞の穴馬はこれだと決めていた
鞍上は名騎手デムーロ
しかしこの年は名牝が多かった
スティルインラブ、アドマイヤグルーブ
ヤマカツリリー、オオスミハルカ等である
そのデムーロでも内で包まれ力を発揮出来なかった
「オークスで狙うしかないかぁ」
そのオークスの日である
馬連も3連複もこの馬から流し買いだ
この日、私は難波のウインズに行った
競馬新聞を見ると1番人気の
アドマイヤグルーヴは1枠2番である
桜花賞馬スティルインラブは2枠3番だ
私の狙い馬は8枠17番だ!
一番大外枠である
人気は17頭立の13番人気!!
「よし!」全然、人気がない
好きな後藤浩輝が乗ってきた
馬連を3-17と2-17を各1万円
3連複は17から2と3へ相手12,13,14
とフォーメーションで各1千円ずつ買った
「これでいいかぁ」
「外れたら仕方ないな」
とあっさり決め込んだ
やはりG1レースである
なんとなく落ち着かない
このウインズ難波にいる人達も
浮足立つようにみえる
ファンファーレが鳴り
いよいよスタートである
ガッシャ~ン、ゲートが開いた
アドマイヤグルーヴは出遅れた
後方である
ピンク色帽子2頭が前に行く
向こう正面で17番は6番手に
「よし、絶好位や!」
いける!力は出せる!
4角回って団子状態の中から
2頭が出ている
アナウンサーが叫ぶ
アドマイヤグルーヴはまだ後方
17番が先頭だ~
17番が抜け出した~
よし、よし!
ど真ん中を先頭で走っている
大外からスティルインラブが来た
よし、よし、よし!
ゴールイン!!!
電光掲示板が点滅した
1着はスティルインラブ
2着は17番
3着は12番と14番の写真判定に
「どちらでもいいわ」
馬連も3連複も当たった
私はこの現実に驚いている
「いくらつくんだろう?」
結果がでた
馬連3-17番で24480円
3連複3-14-17番で95530円
ウインズ難波の地下で観戦していた
場内ざわついている
私の心はもっと、ざわついている
「えっ~」いくらになるんだ?
頭の中で計算した
「どうしよう~?」
今日は手ぶらで来ている
かばんがない!?
私ははやる気持ちを落ち着かせるために
一旦、地上に出ようと階段を上がった
そして深呼吸しながら歩いた
行き場所がない
とりあえずスポーツショップに入った
「これぐらいでいいのかな?」
私はオシャレなウエストポーチを買い
一息ついてから階段を下りた
窓口で馬券を換金する
ウエストポーチにお金を入れた
「凄いなぁ~」と飲み仲間が言った
「それでその好きな牝馬はなんていうの?」
鮨やの大将が訊いてきた
「それが思い出されへんねん」
酔っているのと気持ちがよすぎて
記憶が飛んでいる
「好きなこを忘れるんはおかしいで~」
「よっぽど興奮したんやな」
各々しゃべっている
あっ! 思い出したわ~
「え~と、名は、名はチューニー」
チューニーもう私の忘れ得ぬ名前だ
君の名は「チューニー」