話し方教室で学ばせて頂くようになって約2年が過ぎた頃、

河本栄味子先生から、
「 えりさん、アシスタントになりませんか?」と、声を掛けて頂きました。

家業が破産してから実質的には家もなくした状態でしたが、銀行さんから家が売れるまではこのまま住んでいてもいいという話を頂いた後とはいえ、
明日をどう暮らすか、子ども二人をどうして育てていこうか、と不安を一杯かかえていた時です。
話し方教室に通ってないで、とにかく仕事を見つけ働いて収入を得られるようにするのが一番の時です。
頭では、そうわかっていましたが、アシスタントに、と声を掛けて頂いた瞬間に、私は、
「拝。なりたいです。」と、答えていました。

アシスタントになる と言えば、大好きな河本先生や、森恭子先生のお側にもっといられる。
大好きな河本先生や、森先生の様な素敵な女性に少しでも近付ける。
こんな女性になりたい。こんな生き方がしたい。
私のみたまさんが、叫んでいました。

私の返事を聴いて、河本先生がお伝えくださいました。

「 えりさん、アシスタントになりたいのならば、これから
教室とは別に、
森先生のところに通って個人レッスンを受けてください。
森先生には、私から頼んであります。
えりさんの家庭の事情もお話してあるから、大丈夫です。      心配しないで、まず、先生に連絡をとってね。」


森先生の個人レッスンは、教室の発表会の司会を務めた時、一時間、『 皆様、こんにちは 』だけを、「 暗い。」「暗い。」「暗いのよー。」とだけ言われ続けて、何度も何度も、泣きそうになりながら練習させて頂いたことがあります。
それでも、当日は、心配で時々会場の奥にいらっしゃる先生の目を見ると、
( 大丈夫。ちゃんとやれてるわよ。)と、いう風にやさしい眼差しでうなづいてくださって、終わった後、沢山褒めてくださった嬉しい体験がございました。
けれど、そのあと、河本先生にまずお礼という順番をとばしたため、二度と手紙もよこさないでください、と、森先生から厳しく叱られた私でした。
もう二度と、個人レッスンどころか、お会いすることも叶わないと思っていた森先生に、レッスンをして頂ける。
河本先生が、頼んでくださった。
体の奥から喜びが湧き上がり本当に、なんてやさしい、凄い先生方に巡り合わせて頂けたのかと感謝で一杯になり
ました。

それから、数日後、初めて森先生のご自宅に伺わせて頂きました。
レッスン料のことなど、何も聞いていなかったから、ご挨拶用に、ショートケーキを買って。

ドキドキしながら、ご自宅の漆喰の壁を通り
木の門の前に立ち、ベルを鳴らすと、
先生の、晴れやかな
「 はあい。お待ちしておりました。少々お待ちください。」という声が返ってきて、
門が開くと、にこやかな先生の笑顔が待っていてくださいました。

お玄関を入って、お土産のケーキをお渡ししましたら、
その日は、大陸さんのショートケーキの詰め合わせを
お持ちしていたのですが、
ご覧になるなり、すぐに、
「 まあ、嬉しい。私、大陸さんのショートケーキが一番好きなのよ。
その中でも、モンブランが大好きだから、とっても嬉しいわ。
でも、次回からは、もう気を遣わずに手ぶらでいらっしゃいよ。」と。

本当に、森先生が大陸さんのケーキが一番お好きだったのかはその後も確認したことはないのでわからないのですが、
それでも、その時の、ドキドキしながら伺わせて頂いた私にとって、その第一声は、
大きな喜びと安心感を頂けた言葉でした。

椅子に座ってから、まず先に、今回のお礼と、それから、河本先生からお話頂いてはいたのですが、家庭の事情と、
だから、日本全国で活躍なさっている素晴らしい講師である森先生に個人レッスンをして頂いても、それに十分なお礼ができないこと、
それでも、少しでも、今の私に出せるだけのレッスン料はお支払いさせて頂きますので、よろしくお願い致します、
と、お伝えしましたら、
先生は、

「 あなたのご家庭のことは、河本さんからお聴きしています。
そのご事情ならば、本当はアシスタントになる道を選ばないで、お子さん方を育てていける様に、あなたにはどこかに勤めて 少しでも、今、収入を得る道をお勧めします。
なぜなら、アシスタントの間は収入がありません。
そして、いつ講師として独り立ちできるか、わかりません。講師になっても、経済的にはそれ程豊かにはなりません。

だから、お子さんをお育てになっていくには、とても大変だと思います。

でも、それがわかった上で、あなたは、この道を選ばれた。
あなたが、考えなしに、いい加減な浮ついた気持ちで選んだのではないことは、承知しています。

だから、私も、河本さんから頼まれて、お引き受けしました。

あなたから、レッスン料を頂くつもりはありません。
一銭もいりません。

遠慮なく、ここに来て学んでください。」

そう仰ったあと、
にっこり笑って、わざと、少し乱暴な雰囲気を出して、

「 それに、あなたが出せるだけのお金って、その方が失礼なのよ。
私は、そんな安い金額でレッスンをお引き受けする講師ではありません。」

有り難さに胸が熱くなりました。涙が溢れそうになりました。
本当に、有り難い言葉でした。
お礼をいうのが精一杯の私に
さらに、先生が優しくお伝えくださいました。

「 その様に、有り難い、申し訳ないって思ってくださるのでしたら、
その想いを、私にではなく、次の方に送ってくださると嬉しいわ。
あなたが出来るようになった時、あなたの力を必要としている方に、私への代わりに、返してくださいね。
私も、私の先輩方から、そうして頂けたから、今の私があります。
だから、何も遠慮することはありません。」

ご自宅に伺わせて頂いて、個人レッスン初日は、こうして始まりました。

ご縁に感謝。お陰様です。