億り人は夢のまた夢?投資のプロが「個別株」より「インデックスファンド」を勧めるワケ
「株で一発当てて億り人に!」 「テンバガー(10倍株)を見つけて早期リタイア!」
株式投資と聞くと、こんな華やかな夢を思い描く人も少なくないでしょう。トヨタ、ソニー、あるいは将来のGAFAになるかもしれない隠れた優良企業…。自分で選んだ会社の株価が急騰するのを夢見て、個別株投資の世界に足を踏み入れる人は後を絶ちません。
しかし、ここで一つ、冷静になって考えてみてください。その道は、あなたが思っている以上に、いばらの道かもしれません。
実は、「投資の神様」として知られるウォーレン・バフェット氏ですら、**「私が死んだら、資産の90%をS&P 500のインデックスファンドに投資しなさい」**と遺言で指示しているほど、インデックス投資を高く評価しています。
なぜ、投資のプロ中のプロでさえ、個別株ではなくインデックスファンドを推奨するのでしょうか。その理由を知れば、あなたの資産形成の常識が覆るかもしれません。
そもそも「個別株」と「インデックスファンド」の違いとは?
まず、基本的な言葉の整理から始めましょう。
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個別株投資 あなたが「この会社は伸びる!」と信じた特定の企業(例:トヨタ自動車)の株式を、自分で選んで買う投資法です。会社の株主になることで、株価が上がれば大きな利益(キャピタルゲイン)が狙え、配当金や株主優待がもらえる魅力があります。まさにハイリスク・ハイリターンの世界です。
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インデックスファンド 日経平均株価やアメリカのS&P 500といった**「市場全体の平均点(株価指数=インデックス)」**と同じ値動きを目指すように設計された投資信託(ファンド)です。一つのファンドの中に、指数を構成する何百、何千という企業の株が少しずつパッケージされています。例えるなら、色々なおかずが詰まった「幕の内弁当」のようなものです。
なぜ、個別株で「市場平均」に勝つのは至難の業なのか
「いやいや、ちゃんと勉強すれば、平均点以上のすごい会社を見つけられるはずだ」と思うかもしれません。しかし、現実は非常に厳しいのです。
S&P ダウ・ジョーンズ・インデックス社が発表している「SPIVAレポート」によると、**日本の大型株アクティブファンド(プロが銘柄を選んで運用するファンド)のうち、過去10年間で市場平均(TOPIX)に勝てたのは、わずか17%**という衝撃的なデータがあります。
つまり、高い手数料を払ってプロに任せても、10人中8人以上は市場の平均点にすら届いていないのです。プロでもこれほど難しいのですから、情報も時間も限られている個人投資家が勝ち続けることがいかに困難か、想像に難くないでしょう。
インデックスファンドが資産形成の「王道」である5つの理由
では、なぜインデックスファンドが、特に私たち個人投資家にとって最善に近い選択肢なのでしょうか。その理由は極めてシンプルです。
理由1:専門知識や時間がほとんど不要
個別株投資には、企業の財務状況を分析したり、業界の動向を調査したりと、膨大な知識と時間が必要です。インデックスファンドなら、そうした面倒な銘柄選びは一切不要。「市場全体」を買うだけなので、忙しい会社員や主婦の方でも簡単に始められます。
理由2:圧倒的な低コスト
投資において、コストはリターンを確実に蝕む「見えない敵」です。個別株の売買手数料や、アクティブファンドの高い信託報酬(運用管理費用)に比べ、インデックスファンドの信託報酬は驚くほど低く設定されています。このわずかな差が、10年、20年という長期の運用では、とてつもなく大きなリターンの差となって表れます。
理由3:自動的に究極の分散投資ができる
「卵は一つのカゴに盛るな」という投資の格言通り、一つの銘柄に集中投資するのは非常に危険です。その会社が倒産すれば、資産はゼロになってしまいます。 インデックスファンドは、1本買うだけで世界中の何千もの企業に投資しているのと同じ効果があります。これにより、特定の企業の不祥事などのリスクを極限まで低減できるのです。
理由4:感情的な「失敗」を避けやすい
個別株は値動きが激しいため、「株価が上がって欲が出てもっと買ってしまう(高値掴み)」や「株価が下がって怖くなって売ってしまう(狼狽売り)」といった、感情的な判断による失敗を犯しがちです。市場全体の値動きは個別株より緩やかなため、精神的に落ち着いて「どっしり構えて持ち続ける」長期投資を実践しやすいのです。
理由5:世界経済の成長にシンプルに乗れる
「S&P 500」や「全世界株式(オール・カントリー)」のインデックスファンドを持つということは、アメリカ経済や世界経済全体の成長の恩恵を受けるということです。資本主義が続く限り、世界経済は長期的には右肩上がりで成長してきました。この大きな流れに乗ることが、最も確実で再現性の高い資産形成の方法なのです。
まとめ:「つまらない」くらいが、ちょうどいい
もちろん、個別株投資を完全に否定するわけではありません。自分の好きな企業を応援する楽しさや、株主優待をもらう喜びは、インデックス投資にはない魅力です。
しかし、それはあくまで資産の一部で楽しむ「趣味」や「スパイス」としての領域です。あなたの将来を支える資産形成の「コア(中核)」に据えるべきなのは、間違いなく低コストなインデックスファンドでしょう。
資産形成の王道は、ドラマチックな一発逆転ではありません。退屈なくらいに淡々と、世界経済の成長を信じてコツコツと積み立てていく。その「つまらなさ」こそが、数十年後にあなたを笑顔にする最大の近道なのです。