【具体例で学ぶ】どこからがセクハラ?職場のNG言動と判断基準を弁護士が解説
「良かれと思って言ったことなのに…」 「冗談のつもりだったのに、相手を怒らせてしまった…」 「この発言、もしかしてセクハラだった…?」
職場でのコミュニケーションにおいて、どこからがセクハラで、どこまでがセーフなのか、そのボーダーラインに悩んだ経験はありませんか?
良かれと思った雑談が、実は誰かを深く傷つけていたり、自分のキャリアを危うくするリスクをはらんでいたりするかもしれません。
この記事では、セクハラの法的な定義から、具体的なNG言動例、そして判断に迷った時の考え方まで、分かりやすく解説していきます。自分を守るため、そして誰もが安心して働ける職場を作るために、ぜひ最後までお読みください。
【最重要】セクハラの判断基準は「あなたがどう思ったか」ではない
本題に入る前に、最も重要な大原則をお伝えします。 セクハラかどうかを判断する上で最も大切なのは、**「自分にそのつもりがなくても、相手が不快に感じ、職場の環境が悪化すれば、セクハラに該当し得る」**ということです。
「冗談のつもりだった」 「褒め言葉のつもりだった」 「コミュニケーションの一環だと思った」
これらの加害者側の言い分は、原則として通用しません。 判断の主軸は、あくまで「言動を受けた相手がどう感じたか」にあることを、まず念頭に置いてください。
法律で定められているセクハラの2つのタイプ
法律(男女雇用機会均等法)では、職場のセクハラを大きく2つのタイプに分類しています。
① 対価型セクシュアルハラスメント
これは、拒否すれば不利益を被る、非常に悪質なタイプです。
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説明: 労働者の意に反する性的な言動に対し、拒否したことで解雇、降格、減給などの不利益を与えること。または、性的な言動を受け入れることを、昇進や良い評価の条件とすること。
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具体例:
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「デートの誘いを断ったら、大事なプロジェクトから外された」
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「性的関係を要求され、拒んだら契約を更新されなかった」
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上司から「俺の愛人になれば、次の昇進で推薦してやる」と言われた。
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② 環境型セクシュアルハラスメント
こちらがより広範で、判断に迷うケースが多く含まれます。
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説明: 意に反する性的な言動によって、働く環境が不快なものとなり、仕事に集中できなくなるなど、能力の発揮に重大な悪影響が生じること。
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具体例:
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職場で性的な噂を流される、からかわれる。
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ポスターやPCの壁紙に、ヌード写真などが使われている。
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執拗にプライベートなことを聞かれたり、食事に誘われたりする。
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【シーン別】これってセクハラ?具体的なNG言動例
では、具体的にどのような言動がセクハラに当たるのでしょうか。日常で起こりがちなシーン別に見ていきましょう。
1. 見た目・プライベートに関する発言
業務に全く関係のない、個人の容姿やプライベートへの過度な言及は、セクハラの温床です。
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NG例 ❌
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「今日の服、体のラインが出てセクシーだね」
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「最近太った?」「痩せたね、ダイエットしてるの?」
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「彼氏(彼女)はいるの?どんな人?」
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「まだ結婚しないの?」「子どもは作らないの?」
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「〇〇さんは女子力高いね」(※性別による役割の押し付け)
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2. 飲み会・食事の誘い
立場を利用した誘いや、執拗な誘いはNGです。
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NG例 ❌
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断っているのに「いいからいいから!」と何度も食事に誘う。
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「二人きりで飲みに行こう」としつこく誘う。
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「付き合いが悪いな」など、断った相手を非難する。
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お酌を強要したり、隣に座るよう強要したりする。
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3. 身体的な接触(ボディタッチ)
業務上、全く必要のない身体接触は、原則すべてNGと考えるべきです。
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NG例 ❌
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激励のつもりで、必要以上に肩や背中をポンポン叩く。
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「頑張ってるね」と言いながら頭をなでる。
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会話中に、相手の腕や手、太ももなどに触れる。
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飲み会などで、必要以上に隣に密着してくる。
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4. オンラインでのやり取り(LINE、チャットツールなど)
近年、増加しているのがオンライン上でのセクハラです。たとえ業務ツールでも、一対一の空間は注意が必要です。
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NG例 ❌
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業務時間外に、業務と関係のないプライベートなLINEを送る。
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「今日のアイコンも可愛いね」など、容姿についてコメントする。
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文章の最後に、必要なくハートマークなどの絵文字を多用する。
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SNSを執拗にチェックし、投稿にいちいちコメントする。
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5. 性的な冗談・噂話
たとえその場が盛り上がっていても、聞かされている誰かは深く傷ついている可能性があります。
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NG例 ❌
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性的な経験について、根掘り葉掘り質問する。
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「俺はこんな経験をした」といった、自身の性的な武勇伝を話す。
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「〇〇さんと△△さんは付き合ってるらしい」といった、性的な噂話を広める。
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「あの子は遊んでそう」「男慣れしてそう」などと、個人の人格を決めつけるような発言をする。
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もし「これってセクハラかも」と感じたら
もし、あなたが被害に遭ったり、誰かが被害に遭っているのを目撃したりした場合は、一人で抱え込まずに行動することが大切です。
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意思表示をする: 可能であれば、その場で「不快です」「やめてください」とハッキリ伝えましょう。それが難しい場合は、無視をしたり、その場を離れたりするだけでも意思表示になります。
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記録を残す: 「いつ、どこで、誰に、何をされたか」「周りに誰がいたか」「どう感じたか」を、できるだけ詳しくメモしておきましょう。メールやLINEのやり取りは、スクリーンショットを撮っておくのが有効です。
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相談する: 決して一人で悩まないでください。信頼できる上司や同僚、社内のハラスメント相談窓口、人事部に相談しましょう。社内で相談しにくい場合は、各都道府県の労働局にある「総合労働相談コーナー」など、外部の公的機関に相談することもできます。
まとめ
セクハラのボーダーラインは、「自分」ではなく「相手」の感じ方によって決まります。「これくらい大丈夫だろう」という安易な思い込みや、「昔は許された」という古い価値観は、もはや通用しません。
最も大切なのは、性別に関わらず、相手を一人の人間として尊重し、その言動が相手を不快にさせないか、常に想像力を働かせることです。
お互いが思いやりを持つことで、誰もが安心して能力を発揮できる、風通しの良い職場環境をみんなで築いていきましょう。