「楽に死にたい」が口癖のあなたへ。その選択に必要な"途方もない対価"の話

「もう全部リセットしたい」 「楽になりたい」

心が疲弊しきった時、ふとそんな考えが頭をよぎることがあるかもしれません。まるでスイッチを切るように、全ての苦しみから解放される…。そんな風に思えるかもしれません。

しかし、もし「死」という選択が、私たちが想像する以上に困難で、とてつもなく高くつく「プロジェクト」だとしたら、どうでしょうか。

この記事は、あなたを追い詰めるためのものではありません。むしろ逆です。あなたが「死」という選択肢を考えるほどに追い詰められているそのエネルギーと知性が、どれほど価値のあるものか。そして、その対価を払うくらいなら、もっと楽な道があるのではないか。それを一緒に冷静に考えてみるための、思考実験です。

ケーススタディ:「死ぬ権利」を求めて海外へ渡る、という究極の選択

世界には、特定の厳しい条件下で、医師による自殺ほう助を合法とする国があります。よく報道されるのはスイスなどです。では、もし仮に、日本にいる私たちがその選択肢を真剣に検討するとしたら、一体どんな「対価」が必要になるのでしょうか。

対価1:【知性の対価】膨大な情報と語学力の壁

まず、あなたは「死ぬための専門家」になる必要があります。

  • どの国の、どの団体が、どのような法律・条件のもとでそれを受け入れているのか?
  • 申請に必要な書類は何か?精神的な苦痛だけで認められるのか、それとも治癒不可能な身体的疾患が必須なのか?(ヒント:後者がほとんどです)
  • 費用は総額でいくらかかるのか?

これらの情報は、当然ながら日本語ではほとんど手に入りません。現地の公用語(ドイツ語、フランス語など)で書かれた法律、医療機関の公式サイト、倫理規定などを、正確に読み解く必要があります。誤った情報をつかめば、犯罪組織に利用され、大金をだまし取られて終わるリスクさえあります。

この時点で、大学の卒業論文を数本仕上げるのに匹敵するほどの、膨大なリサーチ能力と語学力、そして冷静な判断力が求められます。

対価2:【経済的な対価】数百万円という「命の値段」

次に、莫大なお金が必要です。

  • 渡航費(往復、あるいは片道)
  • 審査や面談期間中の、数週間から数ヶ月にわたる滞在費
  • 現地の団体や医療機関に支払う費用(一般的に300万~500万円以上とも言われます)
  • 通訳を雇う費用、その他雑費…

「死ぬ」ために、数百万円という大金を準備する。この矛盾に気づくでしょうか。 そのお金があれば、今の職場や家から逃げ出して、物価の安い国や日本の地方都市で、数年間は一切働かずに暮らすことさえ可能です。

対価3:【精神的な対価】自分の絶望を「証明」し続ける苦行

現地に到着しても、すぐに「はい、どうぞ」とはなりません。ここからが最も過酷なプロセスです。

複数の医師、心理学者、倫理委員会のメンバーと、何度も何度も面談を重ねます。そこであなたは、自分の絶望がいかに深く、回復の見込みが全くないかを、現地の言葉で、論理的に、そして冷静に「証明」し続けなければなりません。

「なぜ死にたいのですか?」 「どんな治療を試しましたか?」 「本当に、もう生きる道はないと断言できますか?」

これは「楽になる」ためのカウンセリングではありません。自分の最も辛い部分をえぐり出し、他者からの厳しい尋問に耐え、自分が「死ぬに値する」ことを承認してもらうための、壮絶な精神的苦行です。そのプレッシャーに耐えきれず、多くの人がこの段階で断念すると言います。

その「対価」、生きるために使えませんか?

さて、ここまで見てきた「死ぬための対価」を、少しだけ違う視点から眺めてみましょう。

  • 外国語の法律文書を読み解くその知性があれば、新しいスキルを学んで、全く違う仕事に就くことができるかもしれません。
  • 数百万円という大金を準備するその行動力があれば、今のしがらみを全て捨てて、遠い場所で人生をリスタートできます。
  • 専門家たちを説得しようとするその精神力があれば、あなたを苦しめている相手や環境に対して、断固として「NO」を突きつけることができるかもしれません。

気づいたでしょうか。 「死ぬ」ために必要な努力やコストは、「今の場所から逃げて、生き延びる」ために必要な努力やコストより、遥かに、遥かに大きいのです。

あなたが今「もう無理だ」と感じているのは、「生きる」ことに疲れたからではないのかもしれません。ただ、「今の生き方」に疲弊しきっているだけなのかもしれません。

だとしたら、選ぶべきは「死」という最も困難で高コストな道ではなく、「戦略的撤退」、つまり「逃げる」という、ずっと賢明で、ずっと楽な選択肢ではないでしょうか。

最後に

もし、この記事を読んで、少しでも「死ぬのも、案外面倒だな」と感じてくれたなら幸いです。

その面倒な手続きを考えるエネルギーの100分の1でもいい。今のあなたの苦しみや絶望を、誰かに話してみることに使ってみませんか。顔も名前も知らない相手で構いません。ただ、あなたの言葉を静かに受け止めてくれる場所があります。

▶ こころの健康相談統一ダイヤル 電話番号:0570-064-556

▶ あなたのいばしょ(24時間対応チャット相談) https://talkme.jp/

「死ぬ」という究極の選択肢を考えるほどのあなたは、本来、とてつもないエネルギーと知性を持った人です。どうか、その力を、自分自身を終わらせるためではなく、自分自身を守り、生かすために使ってほしい。心からそう願っています。