こわいもの | アイ氏とTさん ~回文と料理のブログ~

アイ氏とTさん ~回文と料理のブログ~

アイ氏の趣味の回文と、Tさんの趣味の料理を、日々公開中。

 あれをこわいと想うことがある。


 あれ。
 ビルの中にある、規則正しくうごめく黒いかたまり。
 昇り降りの移動に便利なものだけれど、
 あれに乗るのが、苦手。


 あのかすかな振動が厄介なもの。
 振動で重心がわずかに前後するのもいやな感じ。


 昇りも降りも、なんとなく下に引っ張られる気がする。
 昇りは、しかし、前に体重をかければさほど不安はないのだけれど、
 降りは、後ろに体重をかけても滑り落ちそうでさらにこわい。


 そんな気持ちを紛らすように、手すりを強くつかんでいる。


 けれど、単にあれに乗ると必ず恐怖するというものでもない。
 デパートにあるような短いものならば平気だし、
 何か考え事をしていたりすれば、長いものでも乗れる。
 下を向いていれば、ただの階段と錯覚できる。


 ただ、あれに乗る、と意識してしまうとダメである。
 手すりをつかんで深呼吸をしながらあれの終わりを待つしかない。


 だから、なるべく階段を使うことにしている。
 周りの人には、健康のために、と言うけれど、
 実のところ、なるべくならあれに乗りたくないのだ。


 特に、ビルの2階分以上ある長いものが苦手。
 中でも、東京駅の、中央線のホームへ続くやつ。


 昇り2/3くらいのところで後ろを振り返ろうものなら大変。
 ガオンガオンと黒いかたまりがうねりとともにやってくる。
 さあ、飲み込むぞ、といわんばかりに。


 気が抜けない。


 あのうねりに飲み込まれてたまるものか。


 手すりをつかむ手に力がはいる――  




 そんなわけで、
 エスカレーターに乗るのが、ときどきこわい。