第一章 月3万円のパパ
佐藤健一は三十八歳。妻と小学生の子どもが二人いる。
会社員で、手取りは月二十八万ほど。家のローン、教育費、光熱費、食費。全部妻が管理している。
健一のお小遣いは、月三万円だ。
昼食代、交通費、散髪代、たまの飲み代。月三万円でそれを全部賄う。
悪くない金額だと思っていた。でも毎月月末、財布の中身を確認するたびに、決まって言っていた。
「また千円しか残らなかった」
毎月のことだった。三万円が、なぜかいつも千円前後に消えた。
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第二章 職場の先輩の話
昼休み、先輩の木村さんとランチに行ったとき、健一はぼやいた。
「お小遣い三万って、足りないですよね」
木村さんは箸を止めて言った。「足りないって、毎月末に何て言ってる?」
「また千円しか残らなかった、とか」
「それだよ」と木村さんが言った。「千円しか残らない、って言い続けると、千円しか残らない現実になる。言葉が現実を作るんだよ」
健一は「そういうもんですか」と半信半疑で言った。
「試してみればわかる。来月から、千円残すチャレンジをやってみて。残ったら『千円も残った!』って言う。それだけでいい」
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第三章 パパの千円残すチャレンジ
翌月の一日、健一は財布に三万円を入れた。
今月は一つだけ変える。
月末に「また千円しか残らなかった」と言う代わりに、「千円残すチャレンジ」をする。残ったら「千円も残った!」と言う。
それだけだ。
半信半疑だったが、やってみた。
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第四章 最初の変化
三日目の朝。
いつもコンビニで買っていたパンとコーヒーを、なぜか買わなかった。家を出る前に、冷蔵庫の残り物でトーストを食べてきたから。
百八十円浮いた。
翌週の水曜日。
職場の近くのいつもと違う道を帰りがけに通ったら、よく行くドラッグストアより安い値段で、いつも使っている整髪料が売っていた。三百円ほど安かった。
わざわざ探したわけじゃない。なんとなく歩いたらそこにあった。
「お、いいタイミングだ」と思って買った。
翌週の金曜日。
同僚から「今日の飲み、一次会だけ付き合って。俺が出すから」と誘われた。理由は「先月の出張のとき助かったから」とのことだったが、健一には心当たりがなかった。
でもご馳走になった。
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第五章 月末の財布
その月の月末、健一は財布を開いた。
四千三百円残っていた。
「え」と声が出た。
いつも千円前後しか残らないのに。
コンビニを一回やめた。ちょっと遠回りしたら安い店があった。飲み代をご馳走してもらった。それだけだ。特別なことは何もしていない。
でも四千円以上残った。
健一は財布を閉じて、頭の中で言った。
「千円も残った!ていうか四千円以上残った!」
なんかおかしくて、一人でにやけた。
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第六章 続けると流れが変わる
翌月も続けた。
なぜか、安く済む場面が向こうからやってきた。
社員食堂に普段あまり行かないメニューが出て、同僚に「今日それ美味しいよ」と言われて食べたら、いつものより百円安くてうまかった。
帰り道で「そういえばあそこにドラッグストアあったな」とふと思い出して寄ったら、お目当ての日用品が特売だった。狙っていたわけじゃない。なんとなく足が向いた。
「遠回りしたら得した」が、月に何度か起きた。
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第七章 子どもに話したら
ある夜、小学四年生の息子の翔太が「お菓子買いたいけどお小遣い足りない」とぼやいた。
健一は「いくら残ってる?」と聞いた。
「三百円しかない」
「じゃあ、『三百円も残ってる』って言ってみ」
翔太は「は?」という顔をしたが、言ってみた。「三百円も残ってる」
「そう言うと、なんか気持ちが違うだろ」
翔太はしばらく考えて「なんか……違うかも」と言った。
「それでいい。パパもそれやってる」
翔太は「パパもやってんの?」と笑った。
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第八章 還付金が来た
チャレンジを始めて半年が経った年末。
会社から年末調整の書類が来た。健一はいつもより丁寧に確認した。
数年前から積み立てている個人年金保険の控除証明書を、去年出し忘れていたことに気づいた。
確定申告で追加申請したら、二月に五千八百円が口座に戻ってきた。
「今月もまた、思わぬお金が来た。ありがとう」
木村さんが言っていた言葉を、そのまま真似して言った。
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第九章 懸賞が当たった
春になった頃、スーパーのレシートを使ったキャンペーンに応募したら、商品券三千円分が当たった。
子どもに言ったら「パパすごい!」と喜ばれた。
その翌月、職場のアンケートの謝礼で、二千円分のギフトカードが来た。
「なぜかわからないけど、こういうのよく来るようになった」
妻に言ったら「そうだね、最近多いね」と言われた。
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第十章 お小遣いの使い方が変わった
一年が経って、健一は気づいた。
お小遣いの残り方が、安定してきた。
月末に五千円から八千円残ることが普通になっていた。以前は千円前後だったのに。
生活を変えたわけじゃない。ただ、言葉を変えた。言葉が変わったら、なぜか安く済む場面が集まってきた。お得な情報が向こうから来た。
残った分は、口座の別の枠に移した。「自分の自由資金」として積み立てた。
一年で七万円以上積み上がっていた。お小遣いの残りだけで。
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第十一章 妻に話した
ある夜、健一は妻の由美に話した。
「実は去年から、千円残すチャレンジをやってて」
由美は「何それ」と言った。
「月末に『千円も残った!』って言うだけ。それだけで残り方が変わった」
由美はしばらく考えてから「家計でもやってみようかな」と言った。
翌月から、由美も家計の残りを確認するとき「今月も残った!」と言うようにした。
それから家計の残り方も変わり始めた。
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第十二章 三年後の健一
チャレンジを始めて三年が経った頃、健一の自由資金の口座には、二十五万円以上積み上がっていた。
お小遣いの残りに、還付金と懸賞が加わって。
妻の家計の残りも積み上がっていた。合わせると、三年で百万円以上の貯蓄が増えていた。
月三万円のお小遣いから始まったとは思えなかった。
でも、一言変えただけだった。
「また千円しか残らなかった」を「千円も残った!」に。
その一言が、百万円になっていた。
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第十三章 四十一歳の健一
今日も健一は月末に財布を確認した。
六千二百円残っていた。
「今月も残った!ありがとう」
翔太が横から「いくら残った?」と聞いてきた。
「六千円ちょっと」
「すごい!パパのチャレンジ、まだ続いてんの?」
「ずっと続けるよ」
翔太は「ぼくも今月三百円残った」と言った。
「言ってみ」
「三百円も残った!」
「そう。それでいい」
親子で笑った。
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エピローグ あなたへ
お小遣いが少ないと感じているパパへ。
金額を変えなくていい。妻に交渉しなくていい。
月末の一言を変えるだけでいい。
「また千円しか残らなかった」を「千円も残った!」に。
そうすると、不思議なことが起き始める。
なぜか安く済む場面が来る。遠回りしたら狙っていたものが安く売っていた、なんてことが起き始める。
残った分を、少しずつ積み立てる。
還付金が来る。懸賞が当たる。
気づいたら、積み上がっている。
一言変えるだけで、お金の流れが変わる。
今夜から、試してみて。