昨夜の話をする前に、と前置いて語られたのは、私との出会い・・・・らしきもの。
どうやら次の春には彼は課長になるらしい。
そんな内々示を私に伝えて良いのかとも思うが、この春決定したそれは年齢の若い営業を部門全体でバックアップしていく、といった趣旨から彼の所属する第一部門では周知のことだそうだ。
敦賀さんの年齢での課長職というのは、小さな会社ではまかり通るかもしれないが、いわゆる一流企業と評価されてもおかしくない我が社ではまずあり得ない。
準備期間一年と考慮したとしても、彼に対しての上の評価というのは重圧にも等しいのではないだろうか?と心配になるが、それすら受け入れて胸を張れる成績を出しているこの人はきっと超人なのだろう。
「君に気が付いたのはずっと前からなんだけど、最上さんを知ったのは最近なんだ」
「なんですか?その謎なぞ」
全く意味がわからない。
彼の前に正座した私の体内からはジンジャーハイボールの濃度が薄くなって、思考が正常を取り戻しつつあるけれど、彼の言葉の意味は見えてこず理解に苦しむ。
「全部門共有の資料、作ってるだろう?」
「はい、自分の担当の部分だけですが」
「まずその資料の見易さに興味を惹かれたのが2年前」
「・・・・・」
月に一度展開される本社共有の資料。
光栄にもそれの一端を担い始めたのは、入社2年目。
編成チームは各部門5名で構成され、各部門の営業利益から粗利、その成功点や問題点を浮き彫りにしていき、他部門での理解度を深め、その知識の活用を期待するという趣旨のものだった。
てっきり上層部ですら目を通していないだろうと思っていたものなのに・・・・やっぱり30歳を前にして課長なろうという人はすることが違う。
「表の使い方や説明の語句にどの部門のものよりもセンスがあるなって思って、そのページを作った人に興味を持った」
「そんなとないですよ」
「実際俺も参考にした点が何箇所もあるくらいだよ。入社2年目で考えられないくらいだ。過小評価は良くない」
過大評価も良くないけどね、と静かに釘を打つ顔は私が見知っている、会社の顔だった。
それは彼の中で正当な評価なのだろうが、あまり褒められ慣れていない私は居心地悪く感じられてしまう。
「ありがとう、ございます」
「いいえ、どういたしまして。その他にも何点か資料を手に入れる機会があってね、もう、いつ第二部門に移動しても問題ないよ」
「第一部門が手放しませんよ?」
「いやいや、わからないよ。最上さんのデータ作りの腕と一緒に仕事が出来るなら嬉しいし」
思いも掛けないところで仕事を評価されて、段々と現実として受け入れられるようになると思わず浮き足立ってしまいそうになる。
嫌味に聞こえない言い方に、きっと敦賀さんは私と同じ営業アシスタントの子に対して仕事をきちんと見て、きちんと評価を付けているんだろう。
うちの部門の営業にも見習わせてやりたいものだ。
しかし、そこから先が今の状況と結びつくとは思えない私は小首をかしげてしまう。
それを感じたのだろう敦賀さんが浮かべた笑みは・・・・
春の日差しよりも穏やかで、本当に蕩けるようなものだった。
「最上さん自身を知ったのは、そこから丁度1年」
「え?」
「今年の春、資料室で見つけて惹かれたのかな?」
最後を疑問系にしたのは照れ隠し。
そんなことを後から聞いて、全く覚えていなかったけど、また明かされた意外に可愛い一面があるのだとし少し大人になった私は思うのだが、今現在を生きる私はそれどころではなかった。
「スミマセン、敦賀様。全く話が見えないのですが・・・・・」
「そう?でも充分に下地はあったと思うんだよね」
曰く、人に興味を持つことの珍しい自分が、データ越しにといえど気になった人間で。
尚且つ、雑用の中の雑用といわれる資料室の整理をしている時に話していた独り言で、私が最上キョーコだということを知り、更にはその作業が何日掛かるという作業量だと知ったそうだ。
そして、時間のある時に資料室を覗いては、私を観察していたという。
確かに埃まみれになりながら、ほぼ一週間膨大な資料と向き合ったのは記憶に新しい。
「・・・・・・少しは、手伝ってくれても良かったんですよ?」
「うん?やたらテキパキしてて入ったら邪魔になるかなと思ったし、その時は最上さんの独り言を聞いていたかったから、声を掛けれなかったんだよね?」
しつこいようだが、後から聞いた話。
やっぱり最後を疑問系にしたのは照れ隠し、なのだそうだ。
ほぼ始めて人に向けた好意という感情を持て余し、ただただ佇んで時を過ごしたと、時間がある程度経過してから言われても・・・・・と感じるところであるが、器用そうで不器用な彼らしい。
しかし全くその感情を汲み取れなかった私は、なにを言ったのか全く覚えていない独り言を考えては恥ずかしさに顔を赤くする。
そしてどう私と知り合うか考えあぐねていたら、丁度良く訪れたのが昨夜の二次会。
一次会の趣旨が部門交流なら二次会もそれに倣おうと、体良く発案し、私が話をしていたグループもそれに引っかかったらしい。
そして敦賀さんに倒れ込み意識の失った私を、責任はきっと自分にあるからと連れたって出て行くことで、これ幸いと香水むせ返る女性の集団から逃げ出した。
聞けば聞くほど異次元の話をしてるんではないかと、目の前の敦賀さんをまじまじと見てしまう。
私ばかりが一方的に知っているだけかと思ってた。
それはそれで、なんだか嬉しい。
社内の有名人に人として認知されることを嫌う人間はいないだろう。
でも、だけど。
それでも、彼と私が付き合うという流れになるのは納得がいかない。
酔っていたからといって、皆が憧れる先輩だからといって、易々忘れるはずはないのだ。
「愛」や「恋」を求めていた頃に付いた傷を・・・・・
今でも、ジュクジュクと疼く傷を・・・・・
私が、忘れるはずがない。
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ビックリするほど話が進まない!
設定の説明が細かすぎるのかー?(´;ω;`)
そして蓮キョじゃない気がするー!!!←最大の問題
てんさん、皆さん・・・・ついてこれていますか?