愛おしい愛おしい彼女の帰りを待つのは、ただの苦痛。
唯一無二の想い人たる彼女も同じように、一人でいる時間を苦痛に感じてくれていたら良いと思ってしまうのは、恋に囚われた哀れな男。
がらりとした空間は、今までの一人の時には気にならなかった隙間が所々あいているようで、言葉にならない想いが募っていく。
早く早くと、帰宅を願うが、今日は噂に聞く女子会というやつで、今日という日のギリギリにならないと顔を合わせないだろう事は少し前の晩から、わかっていたことだ。
それでも、何か色々な事が重なり合って、急遽早く帰ってくる、なんてことないのかな・・・・と思考を巡らしながら、キョーコの好む軽めのワインに口を付ける。
寂しい、というより、悲しい。
悲しい、というより、切ない。
切ない、というより、寂しい。
キョーコがいない時に生まれる、永遠のループ。
結局はキョーコがいなければ何一つ出来ない。
そんな自分の変化が愚かしくて、彼女への想いを重さを思い知り、少しだけ申し訳なくなる。
だからといって、その想いを止めることなど出来ないのだけれど。**
ワインのボトルが半分ほどなくなって、読みかけの雑誌があと僅かになった頃。
想い人の帰宅を知らせる音が鳴る。
「蓮さん!ただいま~」
「おかえり、キョーコ」
勢い良くあけられたドアの先には、待ち望んでいた彼女。
アルコールによって、上気した頬がとても可愛らしい。
にこにこと上機嫌で戻ってきたキョーコは、そのままの勢いで、ソファに座る蓮に抱きついた。
蓮は満面の笑みでもって、手に持った鞄を置き捨てて、コートも脱がずにやってきた華奢な身体を抱きしめる。
「ただいまぁ」
「おかえり」
うっとりと擦り寄りながら、甘えてくるキョーコに、緩む顔が止められない。
外の空気と他人の気配を消し去っていくように、髪を梳き、コート越しに背中を撫でる。
少し部屋の温度に馴染んだところで、コートを脱がせ、脇に置いた。
「飲んだ?」
「ふふ、赤ワインをちょっと」
「美味しかった?」
「はい、とっても」
冷たい頬を両手で暖めながら、軽いキスを送る。
蓮の唇に触れる温度は、やっぱり冷たい。
「やっぱり迎えに行けばよかった」
本当に心から、そう思う。
そうしたらキョーコは冷たい思いをせずに済み。
自分は今よりも早くキョーコに会えた。
「駄目、です」
キスを受け入れ、その数の半分ほどを、蓮の頬に返しながら、可愛い酔っ払いは手厳しく拒絶をする。
何度もした口論を、またぶり返す気なのか?というような、棘さえ感じられるのは気のせいではないだろう。
それでも食い下がってしまうのは、囚われたことに甘んじる男。
「だって、こんなに冷たい」
「大丈夫ですもん」
「ほっぺも、手も、身体も・・・・」
「だいじょうぶ」
触れる頬、唇を寄せられる手、抱きしめられる身体。
全身で温かい蓮を感じたキョーコの心に、ほんわかと優しさの火が灯る。
「だって、バレたら・・・・駄目ですもの」
「店からちょっと離れたところにいれば平気だよ」
「ばれちゃう」
「大丈夫」
「だ、め」
頬に降っていたキスは、いつの間にか唇同士の触れ合いになって。
お互いに飲んだワインの味を少し感じながら、その合間に言葉を紡ぐ。
「でも、帰ってきてすぐに抱きついてくれたのは、寂しかった証拠でしょう?」
だから、次からは迎えに行かせて。
そう願いを込めながら、瞳を覗き込むと、キョーコの意志が途端に揺れる。
キスの余韻がなくなってしまったことが、少しだけ残念なので、最後にリップ音をわざと鳴らして、少し離れた。
「それは・・・・会いたかったのは確かに、そうですが・・・」
「じゃぁ、良いじゃない」
「それとこれとは、違う気がします」
「気のせいじゃない?」
むむむっと眉間に皺を寄せて考える姿すら、可愛い。
あと少しでアルコールに浸った思考は陥落するから。
あと、一押し。
「ね、キョーコ。次から、ね?」
「・・・・ぅぅ」
「バレないようにするから、ね?」
「あぅ」
揺れる瞳を見つめながら、ようやく暖まってきた指先に唇を寄せた。
キョーコの指先をそのまま自分の頬にあてる。
「キョーコ、お願い」
「・・・・・バレないように、ですよ?」
諦めたように溜息をついて。
聞き分けのない良い大人を甘やかす答えを出したキョーコ。
途端に瞳を輝かせる蓮へ、せめてもの腹いせを、と頬に当ててある指で、蓮の頬をぐにっとつまむ。
「痛い・・・・」
「ふふ」
「酷いな、でもありがとう」
触感が気に入ったのか、あいていた片方の指でも同じようにつまみ出す。
伸ばしてみたり、ひねってみたり。
抵抗して先程の約束がなかったことになっては厄介だと思いついた蓮は気の済むまでそうぞと、なすがままにされる。
「敦賀蓮が、変な顔・・・・」
「させてるのは、キョーコでしょう」
「ふふ」
「酔っ払いだね」
そうですね、の言葉と共に、キョーコから蓮に唇を寄せる。
こつん、と額同士を当てて・・・・低く、囁く。
「さっきのバレないように・・・・ですよ?」
「もちろん、頑張ります」
「まだ、秘密なんですから」
「見つからないように、迎えに行くよ」
二人だけの空間で、ひそひそと意識を合わせる。
公に出来るその日まで、密やかにしておかなければならない関係。
不便で、不自由ではあるけれど、そのなかで想いを育むことは、なかなかスリリングで刺激的。
「じゃぁ、待ってます」
「絶対行くから、ちゃんと待ってて」
キョーコの答えは吐息にかき消された。
触れ合う二人は、一つに重なる。
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追い込みを軽く掛けられて。
最近色んなところで、暗い話しか思いつかないと言ってたら、本気で心配されて。
ここはいっちょ~!と、某所で叫ばれていた憧れの甘さに挑戦しました☆
結果、敗北。
所詮、私は微糖止まり(ノДT)